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珠希の企み

珠希が又行動します。

 えっー!?

あちゃー。

それは一大事。

こんなとこに居る場合じゃないわ。



魔の手から早く美紀を助けに行かなくっちゃ。

ダーリン待ってて……

私が着くまで誘惑に屈してはだめよ。



私の誕生日に、沙耶が言ってたお見合い相手の女性があの娘の母親だったなんて……

まさかの大誤算だよ。



だって顔も姿も全く知らなかったから……

って、確か。



保育園時代に知り合ったって、あの娘言っていたな?

ってことは、私とも顔見知りだったのかも知れない……





 沙耶もダーリンが初恋の人だったんだ。

薄々は感じていたけど、そんなこと無いって自分で勝手に思い込んでいたの。



だって沙耶は、息子と旦那さんを愛していたでしょう?

だから、気付かなかったのよ。



確かお相手は、ダーリンの大ファンだって言っていた。



でも本当は美紀にダーリンを取られたくなかったのよね?

だから……お見合いを断ったダーリンにあんなに迫ったのよね?

全く、私の誕生日も忘れて……

家族もそっちのけでようやるわ。

おっと関西弁だった。



ちょっと大阪で遊んできたからね。

そんなこと今言ってる場合じゃないわ。



本当二人合わせて何をしでかすか解ったもんじゃないわ。



沙耶、貴方ったら本当に凄い人をダーリンに紹介してくれたわね。

待ってなさい。

後が怖いよ……



こっちはもう大丈夫。

直樹が一番心配だったのよ。

我が儘で、何時も直樹を困らせる秀樹がいるから。


直樹も素晴らしい伴侶を得て……

ダーリン絡みだったのはいけすかないけど、私が直感で判断しただけのことはあるわ。



あんな頑なだった直樹を変えさせたんだから。



直樹の夢、しっかり聞いた。

大君がきっかけじゃないんでしょう?

それは私よね。

美紀が私の夢を追い掛けてくれたように……

直樹もきっとそうだと思ってる。

自惚れかも知れないけど私はそう感じたの。




直樹なら出来る。

きっとコーチのようになれる。

道は厳しいけど頑張ってやりとげてほしいわ。

あの娘と一緒なら実現出来るから。



だから……

もう大丈夫。

だから……

戻ることにするわ。



でもどうしたら此処から帰れるの?

もう解んない。



こうなりゃとっかえひっかえ人間のヒッチハイクするしかないか。

この中に居る誰かに頼むしかないわ。

ねえ、誰か……

私を憑依させてくださいな。





 私って馬鹿……

なんで又この娘に憑いて来たのだろ?

直樹にあんなに愛されて……

ダーリンとの初夜を思い出したのかな?



美紀の中に居た時は頑なに拒否していたのに、やっぱり鍛え抜いた若い身体に痺れたのかな?



『ママをもっとびっくりさせてやろう』

って直樹があの娘の体を揺さぶった時、私は失神したの。

だから逃げる機会を失ったのよ。

痛い言い訳よね。

私はやっぱりこの娘から離れたくなかっただけ。

だって私の責任だもの。



後先考えずにこの娘に憑依してしまったから、一人前の主婦にしようと思ったの。



でも、美紀が傍に居たあの時脱出出来ていたらこんなに苦労することはなかったんだよ。

全てが私の不徳の致すところね。





 あの娘が直樹の初恋の人だと知って、思い出したことがある。

それは二人が出逢ったゴミゼロの日のことだった。



『何見てるの?』


ゴミ拾いに夢中になっていたはずの直樹の声が聞こえてきたの。

だから私は思わずそっちを向いたの。



直樹は赤毛の少女に気さくに声を掛けたていた。

すると少女は小さな花を指差した。



『この花、忍冬って言うんだって』



『スイカズラ?』



『うん。忍ぶと冬って書くんだ』


直樹はきっとその花に興味を持ったのね。

忍冬は甘い香りがするから鼻を近付けていたわ。



『あれっ、この花二つで一つだ』



『うん、だから好きなの。私お母さんと二人暮らしなの。お父さんが死ぬ時に言っていたの。忍冬のように二人仲良く生きて行ってほしいと』



悲しい話をしているのに少女は明るく言っていた。

私はその時、ダーリンのお父さんを思い出していたの。



ダーリンのお父さんは私の初恋の人だった。



ダーリンは保育園で何時も沙耶にプロレスの技を掛けて悪戯していたの。



そんな時に私はお父さんと出逢った。



お父さんは私に四の字固めを教えてくれたわ。

だから私は、何時も沙耶を泣かせていたダーリンを最初に嗚咽をもらせることに成功者になったのよ。



きっと直樹はの目には、その二つの花が自分と秀樹のように思えていたのかも知れないわ。



その後で本気で秀樹のキャッチボールの相手をしていたからね。



本当は直樹はサッカーがやりたかったのだと思う。

サッカーなら一人でも出来る。でも野球は自分が居なくちゃ始まらない。兄貴には自分が必要なんだ。



直樹はその時やっと、秀樹と共に野球を続けることを決めたのだと思うわ。





 スイカズラは忍冬(にんとう)とも言う。

寒い冬も枯れることなく耐え忍ぶからだ。

だから私も大好きな花だったのだ。



直樹はその人を《忍冬の君》と命名して、ダーリンには話していたのだ。



そして秘かにその人を探し続けていたのだ。

もしかしたら、私が彼女を選んだ訳は……

赤毛の娘だったからかも知れない。



心の何処かで、私も直樹の初恋の相手を探していたのかも知れないわ。





 直樹は秀樹の傲慢な態度を、自分を信頼しているからだと感じていたのかな?

だから悩みながらも一緒にいたのだと思う。



ついこの間まで子供だと思っていたのに、何時の間にか大人として成長していた。

だからあんなに強くなれたのだと思う。





 高校野球の最終戦で直樹は秀樹をフォローした。

もてる力を精一杯活かして、どうにか悪巧みされた回だけの失点で押さえられた。

全てが直樹の力量だったのだと思う。

直樹は本当にヒーローだったわ。



でも大君を始めとするメンバーは相手校の作戦とも知らず、秀樹がボークを出したと思い込んでいたらしいわ。

だからコーチは直樹に全てを任せたの。

双子の意思疏通を重んじたのかな?



聞けばコーチも双子だと言う。

秀樹と直樹の職場にあたる、社会野球のコーチが片割れらしいのだ。

だからコーチは解ったいたのかも知れない。





 昨日、久し振りに家に帰って来て驚いたわ。

美紀の主婦っぷりにね。

美紀は私を教えた通り、いいえそれ以上に家事をこなしていた。



美紀は私が居なくなっても大丈夫。

あのカウンターを見た時思った。

だから私は美紀にとりつく島がなかったの。



だったらこの娘から私が抜けても、独りでもやって行けるかも知れないわ。

いえ、独りでは無いわ。



この娘をあんなに愛している直樹が居る。



直樹のことだから、きっとこの娘をフォローする。

そしてダーリンのように愛に包まれた家庭を作る。



秀樹もきっとこの娘を大切にしてくれる。

だって二人共私とダーリンを見て育ったんだもの。



そんな大事なことを今頃知るなんて、本当に私って馬鹿ね。





 そうだ。

今は美紀を守らなければならない。

ダーリンは私……じゃあない美紀のもの。



沙耶、私が戻る前にダーリンに手出ししたら絶対に許さないからね。





 私は大君が美紀に恋した瞬間を知っている。

私は本当はたかをくくっていたのだ。

でもその日の内に秀樹と直樹が参戦してきた。

だから美紀をダーリンと結ばせようと躍起になっていたの。



トリプルトラブルラブバトルの勝者はやっぱりダーリンでなければならないの。

私が満足出来るのはダーリン以外いないはずだったから。



ごめんねダーリン。

直樹とのことは決して浮気じゃないから心配しないでね。

あの娘に憑いてしまったから仕方なかったの。

でも直樹激しかった。

私が憑いていることは百も承知でようやるわ。

ま、それだけあの娘を愛しているのだと思うわ。



ダーリンが美紀との結婚式で、美紀に誰が憑いていても構わない。全身全霊で愛し抜くと誓ったように、直樹もそんな心持ちだったに違いないわね。





 クリスマスは、ホテルのスイートルームで……

でも、三人にはそんな余裕も度胸も無った。

ましてダーリンを抜きにして、このラブバトルに決着なんてつけられないから。



それで結局、何時もの通り家で過ごすことになる。

美紀の手料理で、家族水入らずで……

でも、公平をきすためにダーリンの発案で、大君も仲間に加わることになったの。



ダーリンは既に諦めていた。

いくら美紀が好きでも、私の代わりにしてはいけないと思っていたの。

だからそんな提案をしたのだった。



ダーリンは大君に賭けていた。

まさか私が美紀に憑依しているとも気付かずに……



大君と美紀の結婚。

本当は、それが一番だと思っていたのだ。






 私直伝の料理がローテーブルに並ぶ。

それを見た時鳥肌が立った。

美紀が私のことを大切に思っていることが感じられて……



私が眠っているはずの襖も開け放たれていた。


私の仏間があるこの部屋は、夫婦が年老いた時の寝室用だった。

私は其処まで考えていたのだった。

まさか自分の居処になるなんて思いもよらなかったのよ。



私も一緒に輪の中に入ってほしいと願って美紀は戸を外したのだった。



陰膳も何時ものように用意した。



『これ何?』

何も知らない大君が聞く。



『ママの分だよ』

秀樹と直樹がハモる。



『流石双子だ』

大君はそう言った後寡黙になった。



きっと、原因はこれか? そう思ったに違いない。



大君は、五年前に亡くなった私のことを詳しくは知らない。

でも美紀の心に魂に深い傷を負わせているのではないかと感じていたのだ。





 色々な手を駆使して何とか家の近くにやって来たけど、美紀に憑依出来るタイミングがなくて私は途方にくれていたの。



そんな時、格好の人が近付いて来た。

それは美紀のお祖父さんだった。

勿論、男性に憑依するなんて初めてよ。

だけど背に腹は変えられなかったの。



その途端にショックで一時意識が飛んでいた。

その原因はあまりにも辛い過去にあったの。



想像はしていたわ。

だって、美紀の本当の父親を殺した犯人が娘だったのだから……

行方不明になっていた、本当の姉妹を殺そうとしていたのだから……





 ダーリンは初恋の相手で美紀の本当の母親の結城智恵さんの過去を調べることにしたの。

智恵さんの育った施設に出向き、東京駅のコインロッカーに生きたまま遺棄されていたことを教えてもらっていたの。



『私の出身地はコインロッカー』

智恵さんはダーリンに言っていたそうよ。

だからダーリンは東駅構内に行ったの。

智恵が放置され保護されたコインロッカーは、この駅の中にあったからなの。



数多くのコインロッカーが、所狭しと設置してある。


当たり前の様に使用する若者達。

もしこの中に乳幼児を捨てようとしている者があったら? そう考えると背筋が寒くなる。

そして泣いた。

暗闇の中で母を求めて必死に泣き叫んだであろう智恵さんが哀れでならなかったからなの。





 ダーリンはインターネットで昭和四十五年の出来事を検索していた。

日本初のハイジャック事件や自衛隊乱入割腹事件。

その時代の流れの速さを感じる。



それを象徴する新幹線。

大阪万博。

そんな中に、ふと誘拐事件の記事に目を留めた。


それはコインロッカーで智恵さんの見つかる五日前のことだった。

何かある。ダーリンは直感した。



その事件は大阪近郊で起きていた。

大阪と東京を繋ぐ真っ直ぐな一本線。



ダーリンは直感したの。

もし犯人が誘拐した乳児の始末に困ったとしたら、大阪よりも東京の方が安全だと考えたら……



『東京駅のコインロッカー!!』

ダーリンは雄叫びを上げていたわ。



その後大阪府警まで出向いたの。

そして直樹達が甲子園に出場する前に、智恵さんの本当の父親が解ったの。



その人が、秀樹と直樹が暮らしている大阪の大邸宅の持ち主だったの。



でも本当の苦しみは別のところにあったの。

それは私が憑依していたあの娘のことだったの。






辿り着いたのは良かったけど。

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