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七日目

以外な事実が判明する。

 朝。

美紀ちゃんのことを考えていたら、何時の間にか外に出ていた。



パティオから続くピロティにあった木製のブランコが気になったのだ。

きっと美紀ちゃんのお祖父さんが娘のために作ったのだろう。

何時でも帰って来られるように部屋も用意して……



誘拐された娘のために、美紀ちゃんのお母さんのために……





 去年一年生が人気投票したんだって。

あの三つ子が、トップだったと聞いてる。

男子は直樹君と秀樹君が同票の一位。

女性は美紀ちゃんがぶっちぎりだったらしい。


そんな美紀ちゃんに双子が恋をした。

三つ子の兄妹だと思っていた美紀ちゃんに、血の繋がらりがないと解ったからなんだそうだ。



だから私は恋しい気持ちを封印したのだった。



女子生徒の憧れの的の美紀ちゃんに勝てるはずなどないからだ。





 でも又今再び揺れている。

思いがけずに大好きな直樹君とルームシェアすることになった。

陽菜ちゃんには悪いと思ってる。


本当なら、陽菜ちゃんと一緒にルームシェアする家を探しに行く途中だったのだから。



私は待ち合わせていた新宿に行かなくてはならなかったのに、大阪に着いてしまったのだ。



何故そうなったのかも解らないけど、今はこのままでずっといたいと思っている。



でもどんなに嘘で固めても、すぐにバレることは解りきっていた。



だけど、直樹君のお母様の七回忌に戻る時に私も帰らなければいけないのだ。



(絶対に嘘だと解る。直樹君を騙していたことが知られてしまう)


それが一番怖い。

私はその時、どうすればいいのだろうか?





 「此処に居たの?」

そう言いながら直樹君が近付いて来る。



「昨日はごめん。大の奴自分もフラれたくせに、脈があったのは自分だと思い込んでいて……時々、ああやって絡むんだ」



「実際のところはどうだったんです?」

私は一番気になることを聞いた。



「美紀のこと? 何だか判らないんだ。きっかけは大だった。彼奴が美紀に恋をしたと打ち明けてたんだ。自分のことが好きかどうか聞いてくれと言われて……、でもその日に美紀が本当の妹じゃないと解って」



それは亡くなったお母様の誕生日に、叔母様がお父様を訪ねて来て発覚したようだ。


直樹君が聞いた話ではなく、秀樹君が事実を知ったのでお父様が打ち明けてくれたらしい。





 「お風呂に入っていたらもやもやした気持ちに気付いて……、もしかしたらこれが恋かな? なんて思ってね。でも初恋じゃないよ。俺には忘れられない人がいる。何処の誰かは知らないんだけどね」



「何だか羨ましいな。美紀ちゃんもその女の子も」



「あれっ良く解ったね、そう女の子なんだ。名前も学年も知らないんだ。探してみたけど、同じ小学校には居なかったんだ」



「あれっ、普通女の子じゃないの?」



「うん、そうだね。でも大は違うらしいよ。学校の先生なんだって。だからアイツ、先生になりたいらしいんだ。でも、一度会っただけで忘れられなくなるなんて俺って変わっているのかな?」



「あ、私にも居るよ。一度会っただけなんだけど忘れられない男の子が」



「へぇーそうなんだ。中村さんの初恋の人か? どんな人なんだろう」



「聞きたい?」


私の言葉に直樹は頷いた。





 「私今までアパートでお母さんと二人暮らしだったの」

私は何故か、小学低学年の頃の忘れられない少年との思い出を語り始めていた。



「あのね、お父さんが死ぬ時に言っていたの。『忍冬のように二人仲良く生きて行ってほしいと』あ、スイカズラって、忍ぶ冬と書くのね。冬でも枯れないの」



「えっ!? 今、何て言った?」


気が付くと、私の両手を握り締めて目を見開いた直樹君がいた。



「中村さんだったのか? スイカズラの君は……」


直樹君の言葉で私は、幼い日の出逢いを思い出していた。



「えっ!? あの子、直樹君だったの?」


私の言葉に直樹君は目を輝かせながら頷いた。



「嘘でしょう? 私をからかっているの?」

でも私は気持ちとは反対の言葉を言っていた。





 「あれは五月の最終日曜日にゴミゼロ運動に参加していた時だったな」


直樹君は私との出逢いのシーンを語り出した。


「俺の両親は地域での交流を大切にしていたんだ。ゴミゼロとは普通五月三十日に行われる地域の掃除だけど、日曜日にやっていたよ。その時だけ少年野球団は休みなんだ」


私の脳裏にもあの日の光景がまざまざとよみがえっていた。



「病院の横の道で佇む少女がいたので、俺は『何見てるの?』って声を掛けたんだ」



「そう、私は小さな花を指差しながら『この花、忍冬って言うんだって』って言ったのよね。そしたら『あれっ、この花二つで一つだ』って直樹君は言ったの」



「うん、そうだ間違いない」

直樹君は力強く頷いた。





 「それじゃ、中村さんは俺の……」


直樹君はそう言って口籠った。



私は直樹君の次の一言を待った。

何故だかとても気になったからだった。



「中村さんは俺の……、初恋の人だ」


それは思いがけない直樹君の告白だった。



『スイカズラの花言葉は友愛と愛の絆だから』


私は陽菜ちゃんとの出会った日に言った。


でもそれは、直樹君との思い出が言わせたのかも知れない。


私は今はっきりと思い出していた。


全てが直樹君との出逢いがあったからなのだと。



「ありがとう。中村さんのお陰で俺は此処まで来られたんだ」


直樹君はそう言いながら、私の髪にそっと触れた。



「あの頃もこんな感じだったね。ごめんね、気付かなくて……ずっと探し続けていたはずなのに」


直樹君は私の髪を指に絡めていた。

まるであの日の私を感じるかのように……。


私は天然の少し赤みを帯びた茶髪で、良く染めたのではないかとかわれていたのだ。



学芸会のアンだって、結局先生の虐めだった。

でも今この髪が愛しい。

直樹君が触れてくれたことで大好きになりそうだった。




 「中村さんが忍冬を指差してくれたから、俺は兄貴との確執から離れられたんだ」



「確執?」



「そうだよ。兄貴は玉を受けるだけの俺を離さなかった。でも、忍冬を見て気付いたんだ。ホラ、あれって一つのガクから二本咲くだろう? それでやっとわだかまりを封印出来たんだ」



「そうなんだ」



「ごめん。地区予選の時は美紀のことばかり考えていた。もしかしたら美紀の母親が大阪で起こった誘拐事件の当事者かも知れないと思っていたからね」


直樹君は私の手をそっと外した。





 「美紀の母親は誘拐されたんだ。この家を見て。何処から見ても資産家だって解るだろ」


そう言いながら直樹君はコの字型の家に手を向けた。



「産まれたばかりだったんだ。産婦人科の乳児室に忍び込んだ犯人は美紀の母親になる人を誘拐した。でもその赤ちゃんは双子だった。人違いしたと勘違いした犯人は、東京駅のコインロッカーに美紀の母親となる乳児を遺棄したらしいんだ」


昭和四十五年のことだそうだ。

当時は高度成長期で、次々と文明の力が現れたそうだ。


その代表が大阪万博や、新幹線とかコインロッカーだったらしい。





 「美紀の母親は助かったけど、その後で悲惨な事件が多発したらしい。大阪では、バラバラ殺人事件の遺体隠しに使用されたと聞く。本当に美紀の母親は恵まれていたんだよ」



「でも、コインロッカーに棄てられたんだよね」



「ああ、そうだよ。でも当時コインロッカーは多くなかったんだ。だから使い方を知らなくて、鍵がまともに掛けられていなかったようだ。だから窒息しないで済んだんだ」


何時になく直樹君は声高だった。



「コインロッカーって気密性が高いだろう? それにパパに逢えた。美紀の母親はパパの初恋の人なんだそうだよ」



「そう、確かに……」


私は自分達の出逢いにも運命的な何かを感じて鳥肌に覆われながら其処にいた。





 「パパは、大阪の誘拐事件と新幹線を結び付けたんだ。俺達が甲子園で練習に参加していた頃、美紀がこの家で誘拐された娘の子供だったと探り当てていたんだ」



「パパ凄い……」

それ以上言葉は出て来ない。

私は直樹君のパパの愛の深さに感動していた。



(そうだよね。だから、家のママも直樹君のパパが大好きだったのよね)


そう……

私の母は、平成の小影虎こと、直樹君と秀樹君のパパの大ファンだったのだ。





 「美紀の本当のママは、美紀を産んですぐに亡くなったそうだ」


直樹君はそう言った後で、パパから聞いたと言う一部始終を私に語ってくれた。



「だからママとパパは美紀を育てることにしたんだ。『双子でも三つ子でも大して違わないよ』とかママは言ったらしい。俺のママはそう言う人だ。人間がデカイと言うか? 人の迷惑省みない人でもあったけどね」


直樹君が笑っていた。



でもそんな優しいパパに……

美紀ちゃんが恋をした。


直樹君も秀樹君も何が何だか解らず、苦しんだに違いないと思った。





 美紀ちゃんの本当のママが、実の姉妹に殺されかけた事実はショックだった。



大阪の、この邸宅で産まれた双子の姉妹は、同じ人を愛したんだ。

それは人気ロックグループα(アルファー)のボーカルだった。

その人が美紀ちゃんのお父様だった。


美紀ちゃんの本当の両親は施設で出会い恋をして結ばれた。



それを事務所サイドは隠していたようだ。

だから発覚した時、事件は起きたようだ。





 「美紀ちゃん、直樹君のパパと結婚したのよね。やっぱり凄いな」



「何が?」



「だって、直樹君のパパを支えるために生きたママの夢を追い掛けてるんだよね。やっぱり凄いよ」



「そうだよね。凄過ぎるんだよ家の女性陣は。中村さんにも……」



「ん? 私にも?」



「あ、何でもない」

直樹君は慌てて首を振った。



「心配要らないよ。何があっても俺が中村さんを守るから」


直樹はそう言ってくれた。





 「直樹君のパパって凄い人だね」



「ああ、そうだよ。俺達が三人束になってかかっても倒せなかったんだ。やっぱり平成の小影虎は伊達じゃなかったんだ」



「うん、解るよ。だって家のお母さん、直樹君のお父さんの大ファンだったんだもん」



「えっ、そうなの?」



「うん。だからあの日……、ほらスイカズラを見ていたあの日。私は彼処に居たの」



「えっ……」

直樹君は呆気に取られたように私を見ていた。



「お母さんは直樹君のお父さんと保育園の時同級生だったんだって。学校は違うんだけど忘れられなかったらしいんだ」



「そんなところにパパがプロレスラーとしてデビューした訳か?」


私は頷いた。



(もしかしたら、私達の出逢いは偶然じゃなくて必然だったのかも知れない)


私は直樹君を見つめながらそう感じた。





 明日はいよいよ埼玉に戻る日。

私の嘘がバレる日でもある。


だから朝からそわそわしっぱなしだった。



何時ものようにオムレツから入る。

何か何とかの一つ覚えみたい。



さっきまで直樹君と一緒にいた。



『心配要らないよ。何があっても俺が中村さんを守るから』


直樹はそう言ってくれた。

でも本当のことを知ったら、私に愛想を尽かすだろう。


私は怖い。

明日になるのが怖い。

怖くて怖くてたまらないのだ。






二人は共に初恋の相手だったのだ。

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