6,真実
今回の話は彼女目線で追いかけたものです。主人公の僕に対してどんな思いだったのか。そんなところを書いていきました。
太陽と雲によって明暗が移り変わり静かな空気の中で淡々と時が過ぎゆく部屋……
僕は図書室でただひとりポツンと図書管理用パソコンのモニター前に座っていた。
彼女が死んだと知ったのはあれからたった五日後のことだった。どうやら彼女は持病の悪化が進行し療養生活をしていた。それを省みず、あの日僕と放課後に会うために学校に一日だけ来たようだった。
それ以降、僕の心がすっぽり抜けた気がした。そこで気づいてしまった――
いや思い返してしまった。
彼女との朗らかなとりとめもない会話、彼女の以外な一面、彼女の溢れたような微笑。
彼女がたった一人のかけがえのない人だということに。
僕は最新返却欄に彼女の名前があることに目が行った。
本の名前は
「読書好きのあなたへ」
というものだった。中身は青春小説でもSFでもなく、小説を書く方法がただ羅列しているものだった。
僕はすぐさま手に取り、彼女のたった一つの願いが叶ったのかと思い本を開いた。
途端、一枚の紙切れが挟まっていることに気づいた。
「これって……」
紙の断片にはクラスの彼女専用であるロッカーの鍵を解錠するための番号が書かれ、次の言葉が添えられていた。
「私が欲しかった大切な本」
無我夢中で僕は彼女のロッカーから一冊の本を取り出した。それはあまりにも乱雑なまとめ方なもので、途中切れているページもあった。がその理由は一瞬のことのように感じ取った。
「これ手書きじゃないか……」
本には彼女直筆の文字が連なっていた。
『ー始めにー
この本を読んでるってことはそこにもう私はいないってことかな?
もう気づいたかなって思うけど、この本が私が欲しかった本……
そして君に渡したかった本……
図書室にあるかもしれないって言ったのは嘘。
でもおかげでこの本が作れた、ありがとね。
読むか読まないかは君次第でいいよ。要らなかったら捨ててください。』
本の始めの数ページにはそう書かれていた。僕は彼女の僕に対する少し回りくどい優しさや気遣いに気にせず、本の次の文を読むことに夢中になっていた。
『今は夏休み。この前図書館で借りた本に習ってこの本を書いていきたいと思います。ちなみに書く内容はその日にどんなことがあったかという日記みたいなものにしようかな。
季節は遡って春。今日から新学期!友達を多く作るためにクラスの副委員長になりました。でもやっぱり中学生と変わらなかった。あんまり友達作れなっかったんだ。ちょっと残念……
でもね。教室にひとりで日記を書いてた時に話しかけてくれた男の子がいたんだ。私、あんまり男の子の友達がいなかったからびっくりしちゃったよ……でもその子は私に話しかけたらすぐ家に帰っちゃったんだ。なんか私いやなことでもしちゃったのかなぁ……』
「そうじゃない。僕も慣れていなかったんだ」
僕は彼女と出会ってまもないあの日のことを鮮明に思い出した。同時に委員会の仕事で残っていたのかと勘違いしていたことに少し恥ずかしさも覚えたがそんな必要もなかった。
『というか、その子に私が日記を書いてるって知られなくてよかったー、まだ誰にも日記なんかつけてるって言ったことなかったからばれたらどうしよって焦っちゃったよ。ってことで今日はおしまいっ。』
いつしか彼女の話し方が自分の記憶の彼女のそれとかけ離れていることにやっと気が付き始めた。
だが、一方的に異なったというものではなく、あの稀に零れたような笑みの彼女に違いはなかった。
次のページも淡々とその日にあった出来事が綴られていった。
だが、僕はこのページで目が止まった。
『最近は毎週毎週、放課後に私と話してばっかで楽しいのかなぁ~って思ったから今日は図書館に一緒に来てもらったよ。そしたらその子は一度本を読んだら自分の世界にはまっちゃって呼んでも全然気付かなかったんだよ。読んでる姿が見られただけでも嬉しかったー。でも見てたのがばれないようにちゃんと本は借りたけどね。ってことで今日もおしまいっ。』
呆然とした。呆れた僕の気持ちは彼女に対してではなく自分自身に投げかかり降り積もっていった。
『今日も話しかけてくれたよ~、でもいつもとは違うよ、それはね昨日が文化祭だったんだ~。私、文化祭はクラスの方が精一杯で全然楽しめなかったんだ。けどね、あの子はも私と同じように委員会が忙しかったらしくて回れなかったんだって。それ聞いたらなんだか残念だとは思えなくなっちゃったよ。むしろあの子と同じで良かったなーーって安心しちゃって……、だって私だけ楽しんであの子が楽しんでないってなんか嫌だな~って思うでしょ?まぁ、そんなこんなで今日もおしまいっ。』
ページをめくるに連れて、突如学校に来なくなってしまった週が訪れる。
『今日も学校であの子と話そうって思ったけどそうはできないみたい……ちょっと倒れただけでお母さんは私を入院させるんだから……たまにものが持てなくなったりするけどそれもそこまで大袈裟に言わなくてもいいと思うんだけどなぁ。』
図書館での彼女の姿が僕の頭を過ぎった。本棚から彼女は少し大きめな本を手に取ったのだが、それでもおも過ぎる本ではなかったはずなのに本の貸出窓口に行った際、いきなり本を落としてしまったのだ。
些細な出来事だと思っていたあのころの僕はここまで事態が大きくなるとは思っても見なかった。
『私自身、体は平気だしいいんだけど、何も言わずに突然学校にいかなくなったら友達がどう思うかな……特に君は……、早く退院して戻りたいな』
いつしか僕のことを君はと二人称になっていることに友人ととしてなのか、それとも……と思考しているうちはより重大な変化に気付かなかった。後に響く、あの出来事に。
そう、語尾にいつもの陽気な彼女の調子の象徴であるあの言葉が欠けていた。
次はもうエピローグに入ります。読んでくださった皆様どうぞ、次話も読んでくださると嬉しいです。
宜しくお願いします。




