夢
私は朝ご飯を済ますと、適当に身支度を済ませて家を出た。
そこでも一苦労あったのだけど、簡単に言えば男の人も意外と大変なんだなぁ、ということ。
制服が無いから服装を考えないといけないけど、男の人の服って種類が少なくて組み合わせが限られているんだなぁ、とか。黒い服ばっかりでそもそも組み合わせも何もないなぁ、とかファッションで頭を悩ませた。
もちろん、服装以外の身だしなみも大変。髭そりって意外と肌がピリピリして、男の子でも化粧水とか乳液使うんだとか、色々な新発見と驚きがあった。
ま、女の子の朝はもっと大変だけどね。
「それにしても甘い卵焼きも結構おいしいなぁ。うちはしょっぱいのばっかだったけど」
そして、もう一つ驚いたことがある。
この夢は味覚もはっきりしていたの。
ご飯の味はちゃんとしていたし、冷やしていた麦茶はちゃんと冷たくて、暖め直した味噌汁は熱くてちょっと口の中を火傷した。
まるで、本当にこの博人って男の人になったみたいだった。
「えーっと、今度はこの駅で乗り換えて……。あー……もう迷子になるよ……」
そして、私は駅という大迷宮で迷子になる。歩き回って汗だくになっても勝手に行きたい所には行けない。この夢は本当にリアルで不便だった。
○
何とか大学に辿り着くと、私は自分の教室を探そうとした。
財布の中にあった学生証を見てみると、この博人さんは農学部らしい。
それを見て、私は一瞬うへー……って変な声を出した。
私の家はまさにその農業をやっていて、正直ちょっと嫌だった。
まぁ、どうせ夢だから、大学がどんなところか見るだけだし、自分が継ぐわけじゃ無いしと気持ちを切り替える。
えっと、まずは教室を探さないとね。
私は大学の案内図を見つけて、何処にどんな教室があるかを探してみる。
けれど――。
「学年が書いてない……なにこれ? どういうことなの?」
キャンパスにはいくつもの建物があって、どこの建物が何の学部の建物かは書いてある。けれど、学年とかの情報が全くないの。
「あれ? 博人じゃん。何だよそんなところで固まって」
「ど、どこにいけばいいのよこれ……」
「おーい博人ってば」
「きゃっ!? だ、誰ですか!?」
誰かに急に肩を叩かれて私は思わず驚いた。
「なんだよ急に女の子みたいな驚き方して。俺だよ俺、泰平だよ」
「あ、えっと、ごめんなさい」
泰平さん? かなり馴れ馴れしい人だけど、もしかして博人さんの友達なのかな?
茶髪の陽気なお兄さんって感じの人だ。大学生だと髪染めてもいいんだなぁ。
って、そんなことに感心している場合じゃなくて。
「どこの教室行けば良いか分からなくて困ってたから、つい驚いて」
「おいおい、朝からぼけてるけど大丈夫なのか? 夜にバイトのヘルプもあるんだぞ?」
「え? バイト!? バイトってアルバイト!?」
「お、おう……。ジャズバーのバイト。お前行ってみたいって言っただろ」
「行く! 絶対に行く!」
「お、おう、それはよかった。って、やっぱり何か今日の博人変だぞ? 口調も女の子っぽいし」
「そ、そんなことないわよ――ないぜ」
ふぅ、何とか誤魔化せた。
でも、そんなことよりもアルバイトよ、アルバイト!
ずっとやってみたかったことの一つだ。
高校はアルバイト禁止だったし、家もアルバイト禁止と言われた。アルバイトするくらいなら畑の手伝いをしろ、それも立派なアルバイトだと言われて。
後、そもそもアルバイトする先がなかった。田舎だもんなぁ……。
しかも、アルバイト先がジャズバーってすごい運命を感じるなぁ。さすが私の夢。
さっきから夢に対する評価がコロッコロ変わるけど、夢って本当に思うとおりにいったりいかないものよね。




