入れ替わりを認識する
目を覚ますと俺は自分のベッドの上に寝ていた。
スマホで日付と時間を確認し、今日はちゃんと昨日の続きだと確かめる。
昨日のこともある程度思い出せる。けれど、ジャズバーでの演奏は途中から記憶がなかった。
「香織……」
俺は無意識にその名前を呼んでいた。
すると、心臓がトクンと跳ねた気がする。
あの子が心臓にいる。
ありえない。
俺は首を振って自分の考えを否定する。
けれど、俺はあの子が何者なのか、俺に何が起きたのか知りたい。
一日中その考えが頭の中でループし続けた。
結局、俺はもしものことを考えて、寝る前にとあるメモを自分の部屋の扉にはり付けた。
《お前は柊香織か?》と。
二日後の朝、俺は自分の目が信じられなかった。
自分の頬をつねって思わず夢かどうかを確かめたくらいだ。
《私は柊香織。高校二年生です。もしかして、あなたも私の中に入っているんですか?》
夢で俺がなる少女と全く同じ名前と学年だ。
しかも、あなたもということは、信じられないけど、間違い無い。
俺は彼女の中にいた。
俺は返事として、彼女の文字の下に新しく自分の文章を書き加えた。。
《そのようです。俺は紬博人。大学一年生。君はピアノが得意なのか? 例えば、ジャズとか》と。
そして今度は次の週のとある朝、新しい返事が書かれていた。
《はい。小さい頃からピアノを習っています。ただ、ジャズは先週のジャジーダイニングで初めて弾きました》
間違い無い。俺の記憶が飛んでいた時と一致する。
どういう理屈か分からないけど、俺の身体は柊香織という少女のものになる日があるらしい。
それを確信した瞬間、俺の頭の中に突然、別の記憶が思い出された。
俺も柊香織となった時、彼女の質問に置き手紙で答えたんだ。
○
身体が全身痛い。
椅子に座ったまま机につっぷして寝たせいだ。
私は大きくノビをして、昨夜の不思議な体験を思い出していた。
おぼろげに私がジャズバーで演奏していたことを思い出せる。
そして、その前に見た男性のことも。
「……博人さん?」
全身の血が沸いたかのように体温が上がる。
ありえないと思う。けれど、何となくあなたは私にいる気がした。
だから、私は紙を壁に貼ってみた。
《あなたは紬博人さんですか?》と。
二日後、壁に貼った紙に返事が書いてあった。
《はい。俺は紬博人。大学一年生の農学部です。東京に住んでいます》
間違い無い。
私はこの人の中にいた。
間違いの無い証拠を求めて、私はさらに返事を求めて質問をする。
《あなたは泰平さんにジャジーダイニングでアルバイトをしようと誘われましたか?》と。
翌週のある朝、入れ替わりが起きないなぁ、と気を抜いていた後に、突然それはやっていた。
《はい。泰平に頼まれ、ヘルプに入ることになりました。ただ、一日目の記憶がなくて、二日目も演奏の途中から記憶がはっきりしていません》
そこで私は思わず、あぁ、と声を漏らした。
私はその間、彼の身体の中にいて、紬博人さんとして生きていたんだ。
そして、ある種の感動と同時にぶるっと寒気を感じた。
「え!? 私の身体に男の人が入ってた!?」
そういえば最近、学校の友達に最近変わったね? とか、実は頭良かったんだねー文武両道なんて知らなかったよ、とか変なこと言われたっけ?
そして、何よりも意味が分からなかったのが……。
今日はブラの付け方教えなくても大丈夫? だったけど、今になって意味がようやく分かった。
「ああああ!?」
私は悲鳴をあげていた。




