生まれ変わりへ
「人間の行ってきたことです。」
ボクの前に映像が流れる。
人が生まれる映像。
人が成長していく映像。
人が生き物を育てる映像。
人が人を殺す映像。
人が生き物を弄ぶ映像。
人が人を人と思っていないかのような映像を見たところで、ボクは映像が見れなくなった。
見なかったが音は聞こえてくる。銃声や悲鳴。何かがつぶれるような音。泣き叫ぶ声も聞こえる。悲鳴や、泣き叫ぶ声の中に、不気味な笑い声も聞こえた。何かが爆発したような音もした。
「あなたは人の行いから目を背けました。
それでも。これを見てもあなたは人間を笑顔にしたいと思いますか?生まれ変わりたいと思いますか?」
映像がまだ流れている。ボクは映像から目を背けながら、天使さんの言葉を聞く。
「人間は愚かです。貪欲です。人間は自分よりも弱い者を物として扱う。物であるから、壊れたら変えれば良いとさえ思っている。新しい物を作ればいいとさえ思っている。生物として優れていると思っている。人間は人間がいれば生きていけると思っている。それ以外がいなくても生きていけると思っている。」
映像が、天使さんの言葉に信憑性をもたせる。
「それでも、あなたは畜生として生まれ変わりますか?」
誰かの楽しそうな無邪気な笑い声が聞こえた気がした。
ふと映像を見ると、まだ悲惨な映像が流れている。おおよそ人が楽しそうに笑うようなシーンじゃない。
それでも、ボクには笑い声が聞こえる。楽しそうに。ボクの周りを取り囲むように。
あ。
そうか。この笑い声は―――
「ボクは、それでも生まれ変わる。畜生として、人を笑顔にする。」
ボクはしっかりと映像を見つめ、はっきりとした口調で言った。
「そうですか……わかりました。」
天使さんは再び笑顔になって、映像を切り替えた。
今度の映像は、子どもたちが小さな木の周りで遊んでいる映像だ。
子どもたちがどんどん大きくなる。木も少しずつ大きくなる。
やがて子どもたちは大人になり、結婚したのか男女二人で木を眺める。
そして、二人の間の子どもが木の周りで遊んでいる。
二人はおじいちゃんとおばあちゃんになり、その孫の子どもが木の周りで遊んでいる。
「人間も全部が全部悪い人間ではありません。あなたはそれに気づいていたのかもしれませんね。」
天使さんがほほ笑んだ。
「ボクがそれに気付けたのは、人間の笑顔です。笑い声が聞こえたんです。天使さんがボクに質問した時に。それで気付けたんです。」
天使さんは驚いたような顔をした。
「え?私が映像を切り替える前にですか?」
「はい。子どもがボクの周りを楽しそうに笑って走っているよう。。。そう!この映像みたいに!」
すると、今度は天使さんは笑い出した。
「あはは、そうですか、この映像みたいですか。………………本当は言ってはいけないんだけれど……この映像の木は生前のあなたですよ?」
ニコニコしながら、天使さんは言った。
「えぇ!!!そ、そうだったの!?こ、これが……生前のボク……あ。」
映像を見ていると、季節が春になり、木が花を、桜の花を咲かせていた。
「ボクは……桜の木だったのか……あ。じゃあ、あの時の死神さんの言葉は!!」
―またってそういう意味だったんだ―
「死神がどうかしましたか?」
天使さんがきょとん顔でボクに聞いたが、なんでもない と伝えた。
―あれ……じゃぁ、ボクの担当の死神ってまさか……―
「手続きを続けてもよろしいですか?」
ボクが考え込んでいると、天使さんが促してきた。
「あ。すみません。はい。」
「それでは…………
あなたはこれから桜の木として生まれ変わります。また、あなたの咲かせる桜の花で、たくさんの人間を笑顔にしてあげてください。あなたみたいな素敵なお嬢さんなら、またきっと素敵な一生を送れると思いますし、私はそれをここから願っています。では、よい一生を……」
ボクの意識は遠くなり……
気づけば、ボクは死後の世界のことも忘れて、木として生きていた。周りには他の木もあった。
僕よりも成長した梅の木。他にも草花がたくさん咲いた公園だった。
たくさんの子どもがボクの周りで遊んで、笑顔になってくれていた。
そして、60年近くボクは桜の木として生き、枯れていった。




