畜生道へ
「大丈夫。お前さんのゼンコウは誰も取りゃしないよ。」
おばあさんがボクを励ましてくれた。そして、続ける。
「まったく、魂になっても悪いことするなんてねぇ……ほんと、ろくな死に方しないよ。」
―もうボクたち死んでるんだけどなぁ……―
と思ったが、思うだけにとどめておいた。
「それでお前さんは、どの道へ行くんだい?」
「今のゼンコウじゃ、人間道にはいけないから……畜生道かな……」
ボクは本当は人間道に行きたかった。とても、とても……憧れていたような気がするから……
死ぬと生前をあまり覚えていないのかもしれない。
ボクは生きていた頃のことを、なんとなくしか覚えていない。どんな風に生きていたか、思い出すことができない。
けれど、1つだけ覚えているのは、ボクが生きていたことで誰かが笑顔になっていたことは覚えてる。
ボクが考えていると、おばあさんが行く道を決めた。
「あたしゃ、畜生道に進もうかね。」
驚いた。おばあさんは、人間道に進むのに十分過ぎるほどのゼンコウがあるのに、畜生道に行くなんて思いもしなかった。
「そんなに驚くことじゃあないんだよ。あたしゃもう、人間道を十分すぎるほど楽しんだのさ。それにな?もう少しのゼンコウで、あたしゃ天道に行ける。やぁと、神様仏様のお手伝いが出来るんだよ。」
畜生道に行くと、悪い行いをすることはあまりできない。だから、安定したゼンコウを得るために畜生道へ進む魂も少なくない。
「そっか……おばあさんも畜生道に……。何になるの?」
ゼンコウが十分すぎる魂は、畜生道に行くと生まれ変われるものが自分で決められるシステムがある。
「そうさね~……」
おばあさんが考えている横で、ボクはふと思う。
―おばあさんは……植物に生まれ変わる気がするなぁ。梅の花とか。―
すると、おばあさんは生まれ変わるものを決めたようで、
「梅の木にでもなろうかね?」
ボクはつい笑ってしまった。
おばあさんは、きょとんとしていたがボクは「なんでもないよっ」と笑いながらごまかしておいた。
「それじゃぁ、あたしゃ行くよ。お前さんも、たっしゃでな。」
おばあさんが畜生道へ進んでいくのを見送った。
「それで、あなたはボク達をどうしてずぅ~っと見てたの?」
ボクがおばあさんに会ってから、ずっと視線を感じていた。その相手に話しかけてみる。
「おっと、バレてた?」
おどけた様に現れたのは、黒いフードを深くかぶった人型で、しかし人のようで人では無く、天使のようで天使でもない者だった。
「あなたは……何者なの?」
ボクが問いかけると、その者は、
「アタシ?アタシはねぇ~……なんだと思う?」
ニヤっとした口先が見えた。
―このタイプは、面倒くさいタイプの人だ!……人じゃないけど!―
そう直感で思ったボクは「教えてくれないならいいや。じゃあね。」と、その者から離れようとしたが……
「なんだよ、冗談だよ!ちょっとクイズしただけだよ……まったく……冗談の通じない子だねー。
アタシは死神。あのおばあの担当死神さ」
「うすうす気づいてたけど……まさか本当に死神……」
すると死神は言う。
「おっす!オラ死神っ なぁ~んてねっ」
なんて軽い死神なんだろう……




