もう一人の欠席者
町田あかりの他にもう一人だけ欠席者の話をしよう。
″中村元徳″
彼が同日欠席した理由には物凄く深い真実が隠されていた…
彼も神酒と同じ剣道部だ。足も速く、背も高めの彼だが、実はある問題を抱えていた。
「あ゛ぁ…くそぉ!」
彼の大きな声とともに、鷹の鳴き声が空に響く。
゛ギィェェ゛
彼が起床したときには部屋の窓ガラスは割れ、目の前には血と羽根が散らばっていた。
そう…。鷹の襲撃にあったのだ。
前を見ると、母が立っている。顔や腕には、多くの傷がある。
「げん…。」
元徳の母は片目をやられて、前があまり見えなくなっていた。
「何で…。何で逃げなかったんだよ!」
「あんたが眠ってて、私が仕事に行こうとしたら、急に鷹が窓ガラスを突き破って家の中まで入ってきたのよ…」
元徳は不思議な感覚にとらわれた。なぜ自分は起きなかったのか。いつもは大抵の音で起きていた。だが、昨晩夜更かしをしたせいかその時だけは起きなかった。後悔だけしていてもことが進まない事態に気付いた元徳は、救急箱から様々な包帯やテープ、消毒薬を取り出し、母の目の応急処置をした。幸い、母が看護師だったため、処置は無事に済んだ。
「私はこの家の物をまとめておくから、げんは近くのあの軍事基地に避難しなさい。足が速い『げん』だったら、すぐにつくと思うから。私も後から行くから。」
軍事基地は窓から見えるくらいの距離にあった。1km
「俺も手伝うから。」
元徳が大きなバッグのジッパーを開こうとするが、それを母は止めた。
「大丈夫だから。」
「…。」
その瞬間、元徳はあることに気が付いた。
「そういえば、お父さんと兄ちゃんは!?」
「二人とも仕事に行ったよ。無事だといいけど…。」
ますます置いていけないと思った元徳だったが、母の言うことを素直に聞くべきだと思い、部屋から武器になるものを探しながらも僅かに出る涙を袖で拭い、玄関のドアの鍵を開けた。
「本当に…後から来るんだよね?」
「大丈夫。げんも気を付けて…。危ないと思ったら、無理に闘わないで、走って逃げなさい。」
「…わかった。行ってくる。」
その後、元徳は鷹の襲撃にあいながらも、無事に軍事基地の目の前に辿り着いた。
「君!ここに来るまでに鷹に襲われたりしなかったか?」
基地の前には軍服を着て、銃を持った警備の軍人と思われる人物が立っていた。
「はい、来る途中に襲われました。」
「っ…。怪我は?」
この軍人は何かを隠している。元徳はそれを感じとりながらも質問に答えた。
「してません。」
「よかった。もし怪我をしていたら、君を殺さなければならなかったんだ。念のために検査をするからそこの白い建物に行ってください。」
「あの…!何で怪我をしたらいけないんですか?」
「すまない。それは言えないなあ。」
元徳の頭の中に、母の目の事がよぎった。
「これじゃダメだ…!」
元徳は軍事基地を出て、母がいる家に戻る。
「待て!おい!」
軍人は追いかけようとするが、撃つことも出来ず、彼に関与するのをやめた。
元徳は、全力で走った。必死に走っていると、家が見えてきた。
゛バンッ゛
それは家の中から聞こえたものだった。元徳はその音を聞き、家の中へと、真っ先に向かった。
ドアを開けると、中には迷彩服を着用し、手に銃を持った男が笑いながら下を向いている。
床には、母が目を瞑りながら倒れていた。
「皆、死ぬんだよぉ…!」
銃を持ち、明らかに狂った人物が母を撃ったのだ。
「てめぇ。クソヤロォがぁ!」
元徳は手に持った鎌を投げた。
しかし、それを避けた男は銃を構える。
「次そんなことをしたら、お前の頭を吹っ飛ばすぞぉ!」
元徳は頭の中で、男を殺す方法を考えた。だが、武器も持ってない為、何をすることもできない。
そんな時だった…
゛ギィェェェェェェ゛
2羽の鷹が窓から入ってきて男の頭をクチバシで突き、顔を爪で引っ掻いた。男は抵抗するように10mmピストルを乱射した。だが、男は両目を潰され、唇も灰色になっていた。
「目っ…目が…ぐはぁっ」
男は脳を損傷、出血しその場に倒れた。それと同時に、2羽の鷹も弾が命中し、床に落ちる。
「っ…げん…」
震えながらも、微かに聞こえる声は母のものだった。
「母さん!!」
「私は今話すのがやっとの状態よ…軍事基地には入れてもらえなかったの…?」
「母さんが心配で…」
「ありがとう…げん…。強く…生きて…」
「母さんっ…」
元徳の母は我が子の手を握りながら、静かな永遠の眠りについた…
元徳は涙を溢しながら、落ちているピストルを取り、家を出た。
彼の向かう先もまた、学校だ…