第8話 3秒の悲劇
月9主演もどき、いや、昼ドラの名脇役野郎が獲物をやっと見つけたというふうな表情を浮かべている。
どうやら、金のコインを持っている俺以外の人には興味がないらしい。
突然の奴の死刑宣告に、もちろん俺以外の6人はわけがわからないような顔をしている。
もちろん、俺もなぜ他の6人が殺されなければいけないのかは見当もつかないが、この状況が今の所人生で一番やばいことはなんとなく察知した。
「み、皆さん、車両の中に戻った方がいい気がしますよ・・・・。」
かすれるような声でみんなにそう指示をしたものの、もちろん俺も怖い。声も震えているし、膝もガクガクだ。
俺の指示によって、まず動いたのは伊織さんだった。成弥くんを抱きかかえるようにして、すぐさま車両に戻る。それに続くようにして、リーマンの宗孝さんと探偵の綜摩さんも車両の中へと慌てながら入る。その他は、未だにわけがわからないという風な表情を浮かべ、敵を凝視している。
先ほど、車両のドアをくり抜いた190センチ野郎が一歩前に出た。
やばいな。さっきのくり抜きショーからして、おそらくこいつは指からレーザーを出せる特殊能力の持ち主だ。こいつが指をこちらに向けて狙いを定めれば、ひとたまりもない。
どうする・・・・どうする・・・・・。
「なぁ、鼎・・・・、ここは俺に任してくれよ。」
俺の左隣に立っていた翔也がニコっと笑いかける。
「え?な、何か策でもあるのか?」
わずかな希望を込めてそう翔也に問う。
「策なんてないよ。けどまぁ居酒屋のバイトと合コンで培ったコミュニケーションの力なめるなよ。」
親指をグっと立て相手の方に歩み出す翔也。その姿は勇ましいというよりただの間抜けだった。レーザー使いに対して、丸腰のコミュニケーション使い(?)が物理的に敵うはずがない。
「なぁ、そこの御三方、ちょっとお話ししようよ!」
翔也は気軽にそう話しかけながら相手の方に歩いていく。馬鹿野郎、相手は女子大生じゃないんだぞ!そんな街中で女子大生集団に絡むようなキャッチみたいなノリでいくなよ。
「ば、バカ!待て、翔也!」
だが、時すでに遅し。
190センチ野郎が自分たちの方に歩み寄ってくる翔也に対し、人差し指を向けた途端、一瞬だけ赤い閃光が走った。その瞬間、聞き取れた音は「シュン」という音と「ドサッ」という人が倒れる音だけだった。こちらに背中を向けて、敵の方に歩いて行った翔也は気がつけば仰向けに倒れていた。敵がレーザーを放ち、翔也が倒れるまでの時間はおよそ3秒だった。敵は表情を全く変えることなく立ち尽くしている。
車両の中の伊織さんは、慌てて成弥くんの目を手で覆った。宗孝さんと綜摩さんは唖然としており、高飛車な昏葉ちゃんでさえ動揺を隠しきれていない。ホストの涼さんは思わず「嘘だろ。」と声を漏らしている。
俺はすぐさま、俺らと敵の間で仰向けに倒れている翔也に駆け寄って膝をつきながら腕の中に翔也を抱きかかえた。
「おい、しっかりしろ!翔也!」
だが、別れ際の言葉すら話すことなく翔也は死んでいた。額の中央には1円玉ほどの綺麗な円の穴が開いていた。あまりにも早すぎる死だった。その短時間での悲劇は俺に涙を流させる余裕さえ与えてはくれなかった。