第7話 月9主演もどき男
成弥くんが手に握っているコインが目にとまった瞬間、俺の口から思わず「あっ」という声が漏れた。
「どうしたの?」
昏葉ちゃんが怪訝そうに尋ねてくる。
俺はその時はつい彼女を無視してしまい、今度は俺が伊織さんに尋ねていた。
「伊織さん、成弥くんが持っているそのコインどこで手に入れられたか覚えていますか?」
“コイン”というワードを聞いて全員の目が伊織さんと成弥くんに向けられる。
「あ、え、えっと……これは確かこの子と一緒に公園にきて、砂場で遊んでいるときにこの子が砂の中から2枚見つけたんです。それで、『はい、これママの!』って言って私にも一枚くれたんです。」
そう言いながら、伊織さんはデニムパンツのポケットから同じような銀のコインを取り出してみんなに見えるようにした。
伊織さんたちは、砂場から見つけたのか…………
俺の場合は自動販売機のつり銭から…………
だとしたら、他の人たちは?
伊織さんの発言をきっかけに全員がコインを取り出し、どこで入手したのかもそれぞれが説明し始めた。
切符券売機でのつり銭に混じっていたり、ゲームセンターのコインゲームのコインに混じっていたり、普通に道端に落ちていたりなど様々だ。
だが、みんな銀だ……
俺以外の7人は銀………
俺のコインは金色__________
「鼎くんのだけは金だね。」
リーマンの宗孝さんが俺のコインを見ながらそう言う。みんなが「ほんとだ。」と口をそろえる。俺のコインが注目を集める。
「なんでてめぇのだけ金なんだよ。」
ホスト男涼さんが、なぜだかわからないが俺を疑いの目で見てくる。
おそらく、この世界に連れてきた犯人なのではないかなどとくだらない疑念を抱いているのだろう。
涼さんの乱暴な問いに、「わからないです。」とだけ答え、改めて自分のコインを見つめる。
銀が7枚、金が1枚。
一般的に考えて、金のほうが銀より価値が高いのは明らかだ。
ということは、漫画やアニメ的に考えれば俺はみんなよりは希少価値。
つまり選ばれし者的な存在なのか?
自分の中での飛躍的な論理にあまり疑問は抱かず、つい興奮してします。
「なぁ、あいつらってあそこに前からいたか?」
探偵の綜摩さんが外を見ながら唖然とした表情でみんなに問う。
全員が車窓の外を見る。
そこには、車両に並行するように少し距離をおき白装束に身を包む人間が3人立っていた。
なんだあいつらは…………。
まったく気が付かなかった。いつからあそこに立っていた…………。
「どうやら、この世界の人のようね。」
昏葉ちゃんが目先にいる人物たちを凝視しながらそう言う。
左に立っている奴は、スキンヘッド頭に何かの爪痕のような紋様が描かれておりいかつい顔つきをしている。
右に立っている奴は、身長はおそらく190㎝ほどで体格もいい。もみあげから顎まで黒いひげがつながっており、眼力がすさまじい。
そして、真ん中に立っている奴は、穏やかな表情というか涼しげな顔をしている。黒髪で肌白い。月9のドラマの主演になれそうだ。
「みなさん、おケガはありませんか?今そこから出してあげましょう。」
真ん中の月9主演もどき男がにこにこしながらそう言うと、190㎝野郎が右手をピースの方にして、こちらというか車両のドアのところに向ける。
190㎝野郎がピースの人差し指と中指でドアをなぞるように空で動かす。
するとどうだろう、手で触れたり力で壊してもないのに、まるで潜入捜査隊が敵のアジトに潜入するとき壁にレーザーで穴をかたどる時のようにきれいにドアの部分だけ外れて倒れた。
驚いた、これが能力ってやつか。
本当に驚きだが、他の7人よりは状況の飲み込みははやい。
他の7人は、目の前の出来事をおそらくほぼほぼ理解しきれていないであろう。
「いまどーやってドアを外したんだよ。」
若干の震え声で翔也がそうつぶやく。
「すごーい、ママー!マジックだよ!」
成弥くんは別の意味で感激をしているようだ。
「みなさん出ますか?」
宗孝さんがみんなにアンケートをとる。
みんなしばらく何も返答しなかった。一人を除いては。
「出るに決まってるだろ!やっと外の空気が吸えるぜ。」
そう言い、涼さんが真っ先に車両から出た。
馬鹿か、あいつ……もし外に酸素がなかったら宇宙服着ずに火星なんかに降り立つのと同じなんだぞ。
だが、その心配は無用だったようだ。
涼さんは大きく背伸びをして深呼吸をしている。モルモットの生存確認はOKだ。
もし、涼さんが読心術みたいな能力を身につけたら一貫の終わりだ。
目の前に立っている3人を敵か味方かいまだに判断できていないが、車両から出してくれたという善科があるため、ほぼほぼ味方なのではないだろうか。
みんなが車両から出て、涼さん、宗孝さん、昏葉ちゃん、伊織さん、成弥くん、翔也、俺、綜摩さんの順に相手と対峙するようにして並ぶ。
客人8人を眺めるようにして、月9主演もどき男が口を開く。
「ようこそ、第3世界へ。みなさん第1世界からはるばるようこそお越しくださいました。」
第1世界?俺らが住んでた世界ってことだろうか。
「さっそくですが、この中に金のコインを保持している方はいらっしゃいますか?」
7人全員が俺のほうを向く。
状況的には、刑事3人を前にした容疑者7人。そして、犯行に金のコインが使われたことで犯人が特定された。
そんな構図が頭の中に浮かぶ。
「なるほど、左から2番目の君が金のコインを持っているのかい?」
「そ、そうですが……」
恐る恐るそう返答する。その答えを聞き月9主演もどき男がニヤッとして表情を浮かべる。
その瞬間、なぜだかわからないがこれは敵のする表情だと確信した。
「そいつ以外殺せ。」
月9主演もどき男が、さっきとは真逆な冷酷な声で仲間2人に指図する。
その言葉で、俺以外の7人は頭の上に「?」が浮かんだことだろう。
全員が困惑、焦燥、逃避などといった感情が入り混じった表情をしている。
こいつは、月9主演もどき男じゃない。昼ドラの名脇役もどき男だ。