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第6話 共通点

乗客8人は、車両の1区間の席に横1列にそれぞれ5人対3人というふうに向かい合うように座っていた。

俺の目の前にはJKが座っていた。

俺のさきほどの案が採用され、JKの指示にみんなが従い(ホストは渋々だったが)、固まって座るようにしたのだ。


「じゃあ早速だけれど、私から自己紹介を始めるわ。欅昏葉(けやき くれは)、17歳の高校2年生よ。放課後、学校の近くで友達と遊んでて、その後家に帰るためにこの電車に乗ったわ。」

昏葉か、いい名前だ。

読者モデルとかやってそうだ。

みんなが自己紹介しても、翔也の頭の中のプロフィール辞典には昏葉ちゃんのページしかないことだろう。

昏葉ちゃん(呼び捨てにしたら馴れ馴れしくなる)が「次」と促すように横の親子に視線を送った。

お母さんが小さな我が子を膝にかかえながら、口を開いた。


銈江伊織たまえ いおりです。35歳です。シングルマザーです。仕事は事務をしています。あの、あまり電車に乗らないので、間違えて行き先とは逆の電車に乗ってしまったら・・・。この子は成弥せいやです。まだ3歳です。」

シングルマザーの伊織さんは下を向きながら粛々と自己紹介をした。

成弥くんは「ママ〜、この人たちだれ〜?」と伊織さんに不思議そうな顔でたずねるが、「おとなしくしてて。」と静かになだめる。

伊織さんは黒のショートヘアで化粧は薄めだ。シングルマザーということもあってか、経済的に苦しいのだろう。肌白く普通の大人と比べるとやせ細っている印象を受ける。服装もカジュアルでお洒落とは言いがたい。

息子の成弥くんは、伊織さんの膝の上に座りながら伊織さんの親指をずっと掴んでる。きょとんとした表情で他の大人たちを見ている。


一呼吸おいて、伊織さんの隣のリーマンが自己紹介を始めた。

潮臣宗孝しおおみ むねたかです。38歳のサラリーマンです。妻子持ちで、会社から家に帰る途中でした。よろしくお願いします。」

リーマンの宗孝さんは軽く会釈をしながらそう言った。

宗孝さんはスーツをきちんと着ているが、少しネクタイをゆるめていた。

ひげは生えておらず、髪は短く前髪はあげている。薬指には婚約指輪をはめている。

きっと、奥さんは宗孝さんの帰りを待っていることだろう。

さきほど宗孝さんと沈黙の視線だけの喧嘩をしたホスト風の男は、翔也の隣に座っており、目の前の宗孝さんに対しまたもや眼つけている。

宗孝さんはこれにはまったく動じておらず、静かにホスト風の男を見据えている。

またしばらくの沈黙が続き、「次は俺か。」と一言つぶやいてから、宗孝さんの右隣に座っている男が自己紹介を始めた。


「どうも、坂谷綜摩さかたに そうまって言います。歳は28で独身です。職業は探偵やってます。そこの彼を尾行していたらここに・・・・・エヘヘ。」

と笑いながら綜摩さんはホスト風の男を指さす。

こ、こいつ殺人もしたのか!?

全員の視線がホスト男に向けられる。

ホスト男はその場に立ちあがる。

「なっ、なんだよ!お前まさか依頼人は・・・・」

「ええ、そうですよ、あなたの元恋人ですよ。まぁもうこのへんてこな世界にいきなりワープしてしまったんですから、依頼人との契約は切れたも同然ですから安心してください。」

2人だけで会話が進んでいるため、なにがなんだか事情はわからないがこれだけはハッキリした。

ホスト男とは絡まないほうが、この後の人生が円滑に進みそうだ。

綜摩さんは、ジーパンをはき灰色のパーカーを着ており、髪は耳が隠れるか隠れないかぐらいの長さで茶髪だ。小柄な体形だ。

今のこの状況に特に焦っていない印象を受ける。

ホスト男がドスっと席に座ったところで、自己紹介再開の合図だと思い俺は口を開く。


「藤堂鼎です。18歳の大学1年です。」

と、俺は必要事項だけ言いすばやく自己紹介を終えた。

目の前に昏葉ちゃんが座ってこちらをまじまじと見ていることを察した俺は、できるだけ他の人を見ながら自己紹介をした。

こんなドキドキは小4以来だろうか、一目ぼれってやつか?


「どうも、鼎の友達っす。木村翔也っていいます。鼎と同じく18歳の大学生でっす。こいつと食事にいく途中でした。」

さきほど昏葉ちゃんに対する応答と違い、緊張している様子はなく、いつものチャラい口調で自己紹介をする翔也。

視線は昏葉ちゃんを捉えており、どちらかというとみんなに対してではなく、彼女に向けての自己紹介だ。

「合コン」ではなく「食事」と変換したのはファインプレーだ。

「合コン」は世間的にはあまりいい印象を受けない。

もしかしたら、うっかり口を滑らせて翔也が「合コン」と言うのではないかと思ったが、それは蛇足だったようだ。

さぁ翔也のお次は問題の奴だ。


防人涼さきもり りょう、24歳。歌舞伎町のホストだ……こんなのんびり仲良く自己紹介をしてていいのかよ。俺は一刻もはやくこの車両から出て、ぶん殴りたい奴が何人かいるんだがなぁ。」

前かがみになり、手の指をポキポキ鳴らせながら、宗孝さんと綜摩さんにそれぞれ視線を送る。

いま殴りかからないのはおそらく昏葉ちゃんの言葉のおかげだろう。

「喧嘩するなら外でやってくれる?」という言葉や昏葉ちゃんの毅然とした態度が涼さん(本当は「さん」なんか付けたくないが、怖いので一応つける)を今はおとなしくさせているのかもしれない。

涼さんは柄シャツを下着なしで着ており、上から二つ目ぐらいまでボタンを外しており、鎖骨が見えている。

首にはネックレスをしており、その他にも指には数個のリング、そして右耳にはピアスをはめている。

ズボンは白いスキニーをはいている。身長はおそらく170台後半であろう。


一通り自己紹介は終わったものの、共通点はなにもなかった。

みんなたまたまこの車両に居合わせただけなのだろうか。

いや、そんなことはない。

なにか……なにかあるはず……


その時、ふと目にとまるものがあった。

伊織さんの膝の上に座っている成弥くんが手に持っているものだ。




成弥くんのその手には、銀色のコインがあった________________


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