カチカチ鳥のなく頃に
むか〜し むかし ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました。
農家です。
お爺さんには悩みがありました。
後継ぎ問題で農業が法人化されつつある事。
いつの時代にも戦争が無くならない事。
行政の怠慢。
STAP細胞の有無。
愛別離苦や諸行無常について。
ゼウスやハーデスの事。
AKB48の名前が解るメンバーが次々と卒業する事。
クリリンの事。
畑を荒らすタヌキの事。
などなど渚にまつわるエトセトラ。
お爺さんの悩みは尽きる事はありませんが
「悩みがあるとゆうのは長い人生で知恵を愛求して生きてきた証である」
と少し誇らしげにバーボンのグラスをかたむけたりする自分に酔っている節があります。
その中で今の自分に出来る事、やるべき事を熟考した結果、やはり畑を荒らすタヌキを懲らしめる事と相成りました。
そして作戦決行。
全身を迷彩服に包み、腰には数本のナイフ、背中にはライフルを背負ったその姿はどこの戦場に行っても立派なソルジャーでした。
刻は深夜2時。
畑の近くにある茂みに身を隠しタヌキを待ちます。
深夜3時。
ライフルを構える練習とかをしながらタヌキを待ち構えます。
深夜4時。
冷え込む時間帯です。
明け方5時。
結局この日、タヌキは現れませんでした。
お爺さんは静かに泣きました。
お婆さんの話によると家に帰って来てからもずっと「卑劣なんだよ」とか一日中ブツブツと文句を言っていたそうです。
そして二日目の作戦決行リターンズ。
懲りずに同じ方法でタヌキを待ちます。
そして深夜3時半頃、二日連続の夜更かしが祟って眠気が襲って来ました。
仕方がないので近くの自販機にコーヒーを買いに行く事にしました。
財布から小銭を出そうとしたら50円玉が二枚しかなく、千円札を入れようとしたら釣り銭切れでした。
お爺さんは激怒して自販機をそれはもうボッコボコにしてやりました。
自販機との戦闘を終えて畑に戻った時、既にタヌキは畑を荒らし終えた後でした。
お爺さんは嗚咽するくらい泣きました。
お婆さんの話によると家に帰って来てからもずっと体育座りで泣いていたそうです。
三日目は一日目の経験を活かしタヌキは二日連続では来ないと踏んで、見張りには行きませんでした。
しかし、朝になって畑を見てみるとメッチャ荒らされていました。
お爺さんは発狂寸前でした。
お婆さんの話によると家に帰って来てからも急にテンションがあがったかと思えば塞ぎ込んだり溜め息を吐いてみたり泣き出したりだったそうです。
四日目。
お爺さんのフラストレーションはマックスです。
飲んでいるコーヒーもジョージアマックスです。
お昼ご飯はアラビアン焼きそばでした。
つまり千葉県民です。
サイゼリヤとか今は他県にもあるけど元々は千葉県から生まれた事を誇りに思っています。
そんな事を妄想していたら朝になりました。
タヌキはもちろん来ませんでした。
ツーデイズはあってもスリーデイズ公演は中々難しかった模様です。
お爺さんは呟きました。
「やっぱりね。」
Twitterにも呟きましたが誰からも構って貰えませんでした。
お婆さんの話によると家に帰って来てからも1時間に1回位のペースでケータイを開いていたそうです。
作戦決行五日目。
日付が変わるか変わらないかの時間から早めのスタンバイをしました。
二日目の反省を活かしてコーヒーも持参しました。
コーヒーには利尿作用があります。
そうでなくても夜中に何度もトイレに起きるお爺さんには致命的です。
お爺さんはついに我慢の限界を感じてコンビニにトイレを借りに行きました。
ぶっちゃけその間にタヌキが来るような予感めいたインスピレーションはありましたが、それさえも吹き飛ばす尿意でした。
コンビニに入ると店員さんは驚いてすぐに警察に通報しました。
だって迷彩服上下にナイフぶら下げてチャカ持った奴がプルプルしながら現れたんだもん。
お爺さんは精一杯抵抗しましたが、結局制圧されてしまいました。
そして警察署に連れていかれて一晩中取り調べを受けました。
銃刀法違反と公務執行妨害を言い渡されました。
お婆さんの話によると身柄を引き取りに行った時にお爺さんは「もう無理。」としか言わなくなっていたそうです。
ちなみにトイレも間に合わずに人としての尊厳を深く傷付けられたそうです。
それでもお爺さんは諦めません。
作戦決行六日目。
いつもの茂みに身を隠していると突然強い光がお爺さんを照らしました。
お爺さんは宇宙人の仕業かと思いましたが、その光は宇宙人ではなくパトカーでした。
お爺さんは必死に言い訳しましたが、初犯ではない上に昨日の今日でまた同じような罪を犯したので許してもらえませんでした。
それに加えて二日目の夜に自販機を壊した事も発覚したため、器物損壊も言い渡されました。
翌朝、身柄を引き取りに行ったお婆さんの話によるとお爺さんはうつむいて何も話さなくなっていたそうです。
この事を機にお爺さんは引きこもりました。
畑仕事もせずに一日中ネットばかり弄って、お婆さんが話し掛けても「うるせぇババァ」としか言わなくなり、仕方がないから食事は部屋の前に置いたりしていました。
でも、お婆さんはまた警察のお世話になるよりマシと内心ほっとした部分もありました。
しかし、お爺さんは諦めてはいませんでした。
毎日毎日、タヌキに復讐する事ばかりを考えていました。
そしてある日、お婆さんが買い物に出掛けている隙にお爺さんは再起動してしまいました。
お爺さんは裏山に入り笑いながらガソリンを撒き散らしました。
「どうだクソタヌキ共!今からテメー等が住んでいる山を丸焼きにしてやるぜ!
どうだ?今までこんな真似が他の誰かにできたか?僕にはできる!僕は新世界の神になる!
うははははは!
死ぃねぇー!!」
お爺さんはカチカチとライターで火を放ちましたが、お爺さんが撒き散らしたガソリンの量では山を全焼させるには至らずに、近所の住民による通報で駆け付けた警察官に取り押さえられてしまいました。
お爺さんは新しく放火とゆう四冠目のタイトルを手に入れました。
この事態を重く見た警察側はお爺さんを拘束後に執行猶予なし懲役の実刑に処しました。
面会に行ったお婆さんの話によるとお爺さんは何度も何度も「オヤシロ様の祟りだ」と言っていたそうです。
首を掻きむしりながらもお爺さんはタヌキへの恨みを忘れませんでした。
そして年が明けてぽんぽこ127年になったある日の事、面会に来たお婆さんから1通の手紙が差し入れされました。
拝啓お爺さんへ
突然のお手紙、失礼致します。
私は裏山に住むタヌキです。
まずは今までお爺さんの畑から度々作物を拝借していた事を心よりお詫び申し上げます。
私共タヌキは年々居住地や食料の確保が困難となり、加えて昨年は私に七つ子が誕生した事もあり生活苦に直面しておりました。
そんな事からお爺さんの畑を荒らす件にいたり誠に勝手な理由で申し訳ございません。
お陰様で私の子供達も大きく育ち、あの裏山にニュータウン計画が持ち上がっている事もあり私共はこの地を離れる事に致しました。
そんな折に、お爺さんが私共の駆除に心血を注ぎ、結果懲役刑に服していると知りお手紙をしたためていた次第であります。
刑務所暮らしはどうですか?
ちゃんとご飯は食べていますか?
身体を壊さぬよう御自愛ください。
長い間お世話になりました。
敬具
タヌキ。
お婆さんの話によると今朝この手紙とタヌキからのお礼とおぼしきドングリが玄関に置いてあったそうです。
お爺さんは衝撃の新事実を知り、今までタヌキを目の敵にしていた事に罪悪感を覚えました。
その後のお爺さんは模範囚として出所後、完全に更正して社会復帰を果たしお婆さんと末長く幸せに暮らしたそうです。
おしまい。
…余談ながら、あの手紙。
実はお婆さんが用意したもので裏山はいつまで経ってもニュータウンにはならなかったそうです。