〜Misty Bluff〜
ノワールは白い兎を追いかけて空中廊を抜けると足元が霧に包まれ、気が付くとすぐ目の前に崖が現れ、崖下に落ちそうになったが誰かに服の背中を掴まれて落ちずに済んだ。
「あんな兎に気を取られていると死んじゃうよ」
黒い兎の少年が落ちかけたノワールの身体を引き戻しながら言った。
「誰だか知らないけど礼を言うわ、ありがとう」
「気にしなくてもいい、それが僕の勤めだから」
「それで貴方、誰?」
「そうか、主は…知らないんだったね」
黒い兎の少年は霧の中、ノワールの前で片膝をついて屈んだ。
「改めて…僕はルノー、アリスに仕えるもの…」
「アリス?」
「そう、アリスである貴女に仕えるもの」
「それはまだ早いじゃないかしら?」
ルノーの言葉にノワールとは別の声が答えた。
空中廊から鎖を引きずる音をさせながら赤いドレスに身を包み、目鼻を仮面で隠した女性が現れた。
「何の用だい?ルージュ・ド・アヴァロン」
「聞かなくとも分かっているはずよ」
目鼻を仮面で隠した女性、ルージュの手には鎖が握られており、その先には気を失ったまま鎖で拘束されたフォンがいた。
「フォン!」
ノワールは名前を叫んだがフォンは何の反応も見せなかった。
「これは貴女、知り合いだったようね」
「趣味の悪いことをするね、やはり貴女はアリスに相応しくない」
ルノーはルージュに向かって言った。
「ありがとう、でも、どう手に入れようと貴方にどうこう言われる謂れはないし、貴方が決めることではないわ」
「だとしても、僕にも意思は存在する」
「だったら仕方がないわね…」
ルージュは背後から大きな斧を取り出し、ルノーに下方から振り上げた。
そこへ大鎌を持ったノワールが割り込み、大鎌の柄で受け止めたが後ろへ弾き飛ばされた。
「記憶がないとは聞いていたけど身体は覚えているのかしらね」
「主」
弾き飛ばされたノワールをルノーが受け止めていた。
「…何が何だか全然分からないけど貴女の声を聞いているとむかつくわ」
ノワールはルノーから離れ、自分の力で起き上がった。
「そう、でもその思いもすぐに消えるから安心するのね」
ルージュはフォンのブラスタルをもぎ取った。
するとブランネージュの時と同じようにフォンの身体に結晶化が広がり始めるとルージュは鎖を持った手を振るい、フォンをノワール達に向かって投げ飛ばした。
「なっ…」
ノワールは結晶化しながら飛んで来るフォンに大鎌を振れずにいると身体の全てが結晶化して砕けた。
砕けた欠片の向こうから斧を振り下ろしたルージュが見えた。
ルノーは咄嗟にノワールの腰に手を回した。
「ちょっと何を…うぉわ!?」
そのまま崖から飛び降り、霧の中に消えた。
「そこまでして守っても結末は変えられないというのに……?」
ルージュはノワール達が飛び降りた辺りに光るものを見つけた。
近付いて見るとそれはブランネージュのブラスタルだった。
「これは白の…いいものを落としていってくれたわね」
ルージュはブラスタルを拾い上げた。
「これで二つ……」
ルージュは咳込み、手の甲を口元に当てた。
「……この身体ももう長くないわね…」
手の甲には赤い血がついていた。