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ALICE  作者: ZION
19/21

〜Re;turn〜


フィナル・リーヴルの入り口を抜けた吹き抜けの広間。


「うぅ…」


ノワールは片手で頭を抱えるとソウルイーターは背を向けて含み笑いをして正面にある二階へ続く大階段に歩みを進める。


「一体、どうしたっていうの?」


クリューがノワールの身体に手を掛けようとした瞬間、ノワールの影から黒い何かが飛び出してルノー以外の者達を周囲の壁へと撥ね飛ばした。そして、黒い何かはノワールの影へと戻った。


クリュー、アドナ、商人アナグマは撥ね飛ばされた壁際で踞ったまま動かなかった。ソウルイーターはその様子を尻目に階段の上にある扉を開けて頭を垂れながら手で指し示した。

「さぁ、こちらへどうぞ」


ノワールは頭を抱えていた手を下ろすと階段へと歩みを進め、ルノーはその様子を見ながらも何も言わずにノワールの後に続いていき、ソウルイーターの誘導の元、ノワールとルノーは開けられた扉の奥へ消えた。そして、扉は固く閉ざされた。


「いやはや…黒のアリス、その色に似つかわしい混沌の記憶を持ち合わせているようでござるな」


商人アナグマはいち早く目を覚ました。


「さて…」


商人アナグマは立ち上がり、クリューとアドナの方を交互に見た後、荷物を背に乗せると大階段ではなくその左右にある大階段の裏へと下る階段を右から降りた。


大階段の裏にはさらに下へとつながる一本の階段があり、薄暗く先の見えない。商人アナグマは後ろ手でランタンを取り出し、光を灯すと迷いもなく降りていった。





クリューはアドナに起こされて気が付いた。


「気が付いたか?どうやら俺達だけのようだ」


「何があったんだっけ…」


クリューは後頭部を擦りながら立ち上がった


「……そうだ、あの女!」


頭に血が上ったクリューが二階へと続く階段に歩み行くのをアドナが止めた。


「待て、さっき調べたがあの扉は開かない」


「じゃあ、この怒りのやり場は何処にやればいいのよぉ」


クリューは地団駄を踏んで嘆いた。


「とりあえずは別の道から後を追うほかないだろう」


アドナとクリューが移動しようとした時、頭上から鎖が擦れあう音が聞こえた。


二人は上を見上げると微かに揺れるシャンデリアの上に黒く陽炎のような姿の擬人化した猫が立っていた。


「何なのあれ」


黒い陽炎の猫はシャンデリアから飛び降りるとそのまま二人に飛び掛かってきた。


アドナとクリューの二人は別々の方向へ躱すと猫は床を抉るような傷を爪でつけた。


「なんだろうと敵意は感じられるな」


アドナは胸の十字のペンダントを掴むと十字のペンダントは横軸が伸びて、光の弦を張ると弓へと変わった。そして、その弓を構えた。

クリューも腰に携えた鞭のようにしなやかで長く薄い刃の剣を構えた。


アドナは弦に手を掛けて、弦を引くと十字の長手方向へ軸を通るように伸びる光の矢が現れた。


「クリュー、まずは動きを止める」


「うん」


アドナは矢を黒い陽炎の猫に矢を放つ、すると猫は床を力強く蹴りあげて上へと躱した。


そこへその行動を待っていたかのようにクリューが鞭のようにしなやかで長く薄い刃の剣を振るう。

剣はうねるように宙を波打ちながら黒い陽炎の猫へと向かい、壁へと弾き飛ばした。


だが、黒い陽炎の猫は壁へと着地し、そのまま壁を蹴り飛ばすとアドナに向かって飛び掛かる。


アドナは二本の矢を構え、猫を引き付けてから猫の両肩に矢を打ち込んだ。


「ジャマヲスルナ…、アリスハボクノ…」


黒い陽炎の猫の背後から二本の尻尾が現れ、両肩に突き刺さる矢をそれぞれ掴んだ。


「ボクノ…ボクノ…ギャァアアア…」


矢を引き抜いて折り捨てると身体に纏う黒い陽炎が大きくなり、侵食するように壁や床に広がる。


「全く何なんだあれは」


「やっぱりあれって…」


猫が纏う黒い陽炎の奥に首もとで微かに光る金の鈴が見えた。


「チェシャ猫」


「あれがチェシャ猫だって」


「人前に姿を見せることはないけどあの鈴は間違いないと思うよ」


壁に広がる黒い陽炎の侵食に大きな猫の目が現れた。


「一体、何が始まるってんだ」


アドナは弓に一本の矢を構えるとチェシャ猫に向かって矢を放った。だが、矢はチェシャ猫の身体を透り抜けて侵食された壁に消えた。


「アドナの矢が…だったら直接」


クリューは鞭のような剣を振るう、しかし、アドナの矢と同様にチェシャ猫の身体を透り抜けて侵食された壁に切っ先が消えた。


クリューは剣を引き戻そうと柄を引くがびくともしないどころか引き込まれて行く。


その様子にアドナは弓を元の姿に戻し、クリューの身体を支える。だが、二人の足がずるずると引きずられていく。


「このままでは…クリュー剣を放せ」


「無理、今さら放したところで逃れられない」


クリューの両足首は黒い陽炎の猫の手が掴んでいた。それは黒い陽炎に侵食された床から伸びていた。


「放すなら私を放して」


「そんなことするわけがないだろう」


アドナは歯を食い縛りながらもクリューの身体を抱え込むように引っ張る。しかし、侵食された床と壁からクリューの足首を掴んでいる同じ猫の手が幾つも飛び出し、二人に雨のように降り注ぐと侵食部分に引きずり込まれた。


そして、侵食は部屋全体に達し、黒一色に染まった。




黒一色に染まったのを束の間にチェシャ猫のいた辺りから白い一閃が走り、黒の世界が粉々に割れて一斉に散った。




元の姿の部屋には、床に倒れるアドナとクリュー、そして、灰色の猫を抱える白一色の服を纏った人物が立っていた。


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