〜Enemy or ?〜
ノワール達は曇天の下、沼地のとぎれとぎれにある浮き島を足掛かりにして進んでいく。
「一体、何処に向かっているわけっと」
クリューは足場から滑り落ちそうになりながらノワールに聞いた。
「ここを抜ければすぐに分かるわ、けど…」
ノワールは大鎌を構えた。その姿を見たクリューとアドナは武器を構えた。
すると沼地に霧が現れ、濃さが増していく。
「足場が悪い上に霧なんて、これでは分が悪いわね」
「数は一つって所か」
アドナは矢を乗せた弓を引き、霧の中に向けて放った。
すると奇声と共に何かが沼の表面を弾く水音が複数、聞こえた。
「余計な事をしてくれたわね」
「アドナの狙いは正確よ、何が余計な事なのよ」
クリューはノワールに文句を言った。
「すぐに分かるわ」
そういうとクリューとアドナの足元から泥土の塊が幾つも這でてきた。
「何なのこれ」
泥土の塊は浮き島に上がり切ると乾いた土塊となった。
そして、次々と上がってきては乾いた土塊に足場を減らしていく。
「道を塞がれる前に行くわよ」
ノワールはそう言うとルノー、クリュー、アドナと一緒に泥濘るんだ浮き島を駆けていく。
しかし、目の前に突然、土塊の壁が現れた。
「ちっ遅かったか」
「そんなの切り裂いて通ればいいじゃないの」
クリューはノワールに向かって言うと剣の柄を手に掛けた。
「やってみるといいわ」
ノワールが壁の前から去るとクリューは剣を引き抜き、壁に向かって鞭のようにしなやかな刃を振り放った。すると壁の表面を砂埃が横断した。
「なんで?」
「それに物理的な攻撃は対して効果ないわ」
「じゃあ、どうするつもり?」
「アズゥール、いるのは分かっている」
「君には気付いてもらえると思っていたよ」
霧の中、声だけが聞こえた。
「早くここを通しなさい」
「それは出来ないな、でも、君がここにとどまるなら他の奴は通してもかまわないけどね」
「…分かったわ」
「ちょっと待ちなよ、あんたが残ってこの先どう進むのよ」
クリューがノワールに向かって言った。
「後のことはルノーに聞けば分かるわ」
ノワールはそう言うと近くのルノーに小声で何かを呟いた。
「だからってあんたを一人おいてけっていうの?」
「以外と義理深いのね」
「私はただ借りを作ったままにしておきたくないだけ」
ノワールとクリューが話をしていると土塊は崩れ沼地に入っていった。
「行くぞ」
アドナがクリューに声を掛け、先へと歩みを進めるとクリューは渋々、そのあとに続いた。
「それじゃ僕も行くよ」
ルノーはノワールに言うと先へと歩いていった。
そして、三人は霧の彼方に消える。
「さて…そろそろ姿を見せたらどうなの?」
霧が集まり、人の姿を形作ると深蒼の長髪で腰巻き一つの少年が沼地の表面上を歩きながら現れた。
「この姿で対面するのはいつ以来だろうね」
ノワールは突然、大鎌を取り出してアズゥールの首に向けて振るうとアズゥールの項に添うように大鎌の刄が止まった。
「刺激的な挨拶だね」
「貴方には友好的な感情は持ち合わせていないもの」
「素直じゃないな」
「その首、切り落とされたいの?」
「今の君には出来ないよ」
「…そうね」
ノワールはアズゥールの首に宛がっていた大鎌をしまう素振りを見せたがその大鎌の刄をアズゥールの鼻先を大降りした。
そして、その勢いのままに身を翻すと一気に浮島を駆け抜けて沼地を抜けた。
「愛しき時は過ぎるのが早いね…」
アズゥールの姿は霧に溶けるように消えた。
「以外にあっさりと逃がしてくれたわね」
ノワールは沼の淵に立ち止まり、霧がかる沼地を見ていると足にどろりとした感触がして何かに掴まれた。すると沼から泥の塊が這い上がってきた。
ノワールは大鎌を取り出し構えると声がした。
「し…」
「し?」
「…死ぬかと思ったぁ…」
泥が流れ落ちて背中に大荷物を背負った小柄で髪が目深の少年の姿があらわになった。
「あんた何者?」
「…これは失礼」
少年は四つん這いの状態から立ち上がった。
「某はアナグマ、商人でござる」
「商人?この世界にそんな類いの者がいたかしら、ブックメーカーの改変?」
ノワールはそう思うと商人アナグマを見つめた。
「やや、その大鎌はもしや、貴女様はアリスではござらんか?」
「だったらなに?」
「いや、然すれば一緒に何処へなりとも行動できればと」
「断るわ、突然現れた得体の知れない者と行動するほど警戒心のない人間ではないわ」
「そうですよね、では、勝手について行かさせして頂きます」
「………」
ノワールは無言の後に大鎌で地面を払い、砂埃を立ち上がらせると踵を返し、駆けていった。
「つれない方でごさるな」
商人アナグマは背負った荷物を下ろし、汚れた服と荷物の泥をぬぐい去ると身を綺麗に整えると荷物を担ぎ、ノワールのあとを追った。




