〜Chalky Castle〜
「それで、オクタンの爺さんはいいとして貴方達はこれからどうするわけ?」
ノワールはアドナとクリューに聞いた。
「あんたについていくさ、此処にいても……いや、恐らくはその方があんたにとっても都合がいいはずだ」
アドナは意味ありげに言った。
「私はアドナについていくだけよ…」
クリューはそう言うと心の中で続けた。
「…それに気になることもあるし」
そして、クリューはルノーを見た。
「そう、勝手にするといいわ」
「わしじゃが…」
オクタンは言いかけたがノワールがすぐに答えた。
「わかっているわ」
ノワールは祭壇の裏にある朽ちた木の扉を蹴り壊した。
「では、お気をつけて…」
オクタンはノワール達を見送った。
総ての物が純白一色の部屋の中、椅子に座りながらブランネージュは言った。
「へぇ〜そう、ようやく目を覚ましたの」
「気をつけた方がいいにゃないのかにゃ」
猫は姿を現さず、ブランネージュに忠告した。
「そうらしいわよ、ルブラン」
ルノーとは正反対の白く垂れ下がった兎の耳に白髪、ゴシック調の服装に身を包んだ少年がブランネージュの座る椅子の陰から現れた。
「あんな者達がいくら覚醒しようともブラン様の相手として戯れにもならない」
「そういうことだから、貴方は主の下に帰るのね」
「そうはいかないにゃ、僕は全てを見届けるために創られたにゃ」
猫はそう言い残し、気配を消えた。
「これで今度こそ、全てを終わらせるられるわ」
「そうあることを切に願うよ」
言葉と共に部屋の扉が開き、金色のお河童姿の男、エペが入ってきた。
「今日はあの仰仰しい仮面はつけていないのね」
「あれなら彼女の遊び道具として使ったよ」
「そういえば、あの女の姿が見当たらないようだけど?」
「彼女なら暫くは新しい身体に慣れるまでおとなしくしているだろうさ」
「そう、なら暫くはあの顔を見なくてすむわけね」
「…俺はこれで失礼するよけど…例の双子がこの近くにいるから気をつけることだな」
エペはそう言い残し、室内から出て行った。
ブランはエペが扉を閉めるのを確認すると言った。
「…あの双子がこの近くにね…ルブラン」
「かしこまりました」
ルブランは腰を曲げて一礼すると椅子の陰へと消えた。
「しかし、いったいあの男は何をしに来たのかしら?」
ブランは独り言のように呟いた。
長くゆったりとした外衣で頭から膝下まで隠した二人の少年少女が白亜の岩壁を彫って造った建造物を紫色の瞳で目深に被った外衣越しから見詰めていた。
「エリス、ここがそうみたい」
「アルヌ、あいつの言ってた通り、雪のように白いお家ね」
「エリス、これはお家というよりお城だよ」
「アルヌ、そうだね」
「エリス、この扉、しっかり閉じてて開きそうにないけどどうしよう」
長くゆったりとした外衣を着た一方の少年、アルヌは扉に両手を当てながら言った。
「アルヌ、あいつの言ってた通りだと迎えが来るはずね」
「……エリス、確かにあいつの言ってた通り迎えが来たみたいだよ」
「何の用です、アリスが此処に」
「僕達の用なんて分かっているはずだよ」
「そうね、それでもあの白ウサギなの?」
「訪問者には用件を尋ねるのは当然、まあ、明らかに客人ではないので排除させて頂きますがね………」
ルブランの身体は白い霧のように霧散し、アルヌとエリスの目の前に現れるなり、二人の首を掴むと身体を背後の壁に押し当てた。
「私達に触れてしまっていいの?」
「僕達の力を忘れたようだね」
ルブランがアルヌを掴む左手から熱気を帯びた白い靄が立ちのぼり、エリスを掴む右手からは冷気を帯びた白い靄が立ちのぼる。
「忘れてはいないさ、君達の毒性にはもう耐性がついている」
「アンスィーヴルの僕達と思わない方がいいよ」
「そうか、確かに違うようだ……」
ルブランは背後に何かの気配を感じ取り、アルヌとエリスの首から手の力が緩むとルブランは鋭い爪を持つ大きな紫の手にその場から攫われるように身体が飛ばされた。
「ヴィオレット」
アルヌとエリスが声を揃えて言った。
そこには、壁のように大きな図体に全身を拘束するように幾重にも革のベルトに巻かれている人の形をした者が立っていた。
その者は巻かれた革のベルトの隙間から一つ見える瞳でアルヌとエリスを見詰めていた。
「厄介なウサギのようだが、力だけだな」
ルブランはヴィオレットの背後から現れながら言うとヴィオレットは振り返りながら手の甲をブランに向けて振るった。
「遅い」
ヴィオレットの手はルブランの身体を透り抜け、空を振り貫いた後にヴィオレットはバランスを崩し、天を仰ぐように背面から倒れた。
その衝撃で地響きが広がり、木々に潜んでいた小鳥達が飛び立っていく。
ルブランは仰向けに倒れたヴィオレットの身体の上に立ち、白い剣の切っ先をヴィオレットの一つの瞳に向けて構えた。
「アフランスィオン」
アルヌとエリスが声を揃えるように言うとヴィオレットの身体を幾重にも包んでいた革のベルトが外れた。
そして、革のベルトはルブランの手足に巻き付いた。
「こんなもので拘束が私を出来るとで……」
ルブランは言葉に詰まった。
「そのアンファクトのベルトは私達の力を抑えることの出来るもの」
「例え、白のウサギだろうとも逃れることは出来ないよ」
ベルトに手足を吊られたルブランの前に紫炎の羽と紫氷の羽を二対持ち、髪は長く片目を眼帯で塞いだ、妖精のような出で立ちの小柄の少女が言った。
「………そうか、通りでお前が誰かに服するとは思わなかったから考えが及ばなかったな」
「長くその器に留まり過ぎて忘れたんじゃないの?」
少女、ヴィオレットは眼帯を覆うように額に指を置く。
「………」
「ヴィオレット」
「行こう」
アルヌとエリスはヴィオレットに白亜の岩壁に彫られた建造物の開いた扉を背に急ぐように声をかけた。
「募る話もないし、終わりにしましょう」
革のベルトは幾重にもルブランに巻き付いていき、球体を作ると圧縮するように球体は収縮し、ヴィオレットの手の平に乗る程の大きさになった。
ヴィオレットはそれを持ち、アルヌとエリスの後に付いて中へと入った。




