〜Nest〜
ノワールとルノーの二人は霧の中を落ちていく。
「ちょっ!ちょっと!これからどうする気よ?」
「大丈夫、この下はオクタンの巣があるから」
ルノーがそう言うと二人の身体は何かに引っ掛かり、上下に揺られた後に止まった。
「久方振りの客人じゃな…」
糸を揺らしながら腕が六本、脚が二本持つ蜘蛛のような紳士服を着た老人が現れた。
「久しぶりだね、オクタン」
ルノーは立ち上がり、オクタンに言った。
「助かったのはいいけど…」
ノワールは自分を受け止めている粘着性の低い網状の糸に手をついた。
「何かべたつくわ」
ノワールは嫌そうに言った。
「何を失礼な…」
オクタンはそう言いかけるとノワールの方に目を凝らした。
「…まさか、お戻りになっていたとは…さぁ、中へお入り下さい」
オクタンは信じられないというような口調で言うと気を取り直し、二人を丁重に岩肌に開いた穴へと案内した。
穴の先には扉があり、扉を開くと大きな家具が備え付けられた部屋を見下ろす場所へと出た。
「まるで巨人の世界ね」
部屋の奥から羽音が聞こえた。
するとオクタンは近くにある小物入れの陰へとノワールとルノーを追い遣った。
「ちょっ、何を…」
「しっ静かに」
ルノーはノワールを諌めた。
そこへ周囲の家具と同じ比率の大きさ姿で頭が鷲、身体が獅子のグリフォンが現れた。
「これはイーグ様、どうされましたか?」
「他に誰かいなかったかね?」
「いえ、私だけですが…」
「そうか…」
グリフォン、イーグは首を捻りながら眼球を動かし、小物入れに目を止めた。
イーグは片方の前足で小物入れをつかみ取ると勢いよく横へと投げた。
「これはどういうことだね、オクタン」
両前足でノワール、ルノー、それぞれを強く掴んだ。
「くっ…痛いじゃ…ないの」
イーグは硝子玉のような瞳でノワールをじっくりと見た。
「ほう、よく見れば懐かしい顔だな…」
イーグはノワールの持つ前足でオクタンをノワールと共に払い飛ばした。
「誰の許しを得て此処にきた、ルノー・ブラック」
もう片方の前足で握るルノーに言った。
「僕がどうして君の許可を得ないといけない」
そう言うとルノーは影のようになり、イーグの前足からすり抜けて足場に降り立った。
「そうか、物理的な拘束は効果がないのだったな」
イーグは羽ばたきながらルノーから距離をとると炎を放射状に吐いた。
炎はルノーを包み込むとイーグの翼が根元から切れ、羽根が宙を舞い、イーグの目には円を描きながら飛んでいくのが見えた。
「人をいきなり投げるなんてどういうつもり」
ノワールはオクタンと共にオクタンの張った糸に掴まりながら言い、飛んできた大鎌を受け取るとイーグは羽根と共に床へと真っ逆さまに落ちて行った。
「そうだ、ルノーは」
ノワールは燃え盛る足場に目をやると平然と足場の際に立ち、飛び降りた。
「私達も下に」
オクタンは糸を紡いで床へと伸ばした。




