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傍観者  作者: 美也
9/10

巻き込まれました

「お前の不幸パワーが俺の回避力より高かっただけだ。ちくしょう、お前なんぞに負けるとは」


「……お前はなに言ってんのぉ!?」






現在放課後。場所どっかの倉庫。手足を縛られ体育座りで二人仲良く並んでいます。幼馴染みと。

近くに見張りの下っ端数人。遠くでは沢山。ニヤニヤとこっちを見ているのはいつもの人達ではありません。はい。どっかの不良チームに幼馴染と纏めて拉致られました。やっぱりね、とは言わない。虚しいだけだし。



時折聞こえる話から彼等が以前聞かされた敵対チームなんだという事は知れている。あまりよろしくない奴等なんだというのも見ていて取れる。だがまぁ人質なんだから下手に手を出される事は無いだろうと気休め程度の安心を胸に大人しく座っていた。しかし暇だ。見られているのも不快で腹が立つ。早く帰りてー。

溜め息を吐き、後ろ手に縛られた手首の痛みに身動ぐ。すると幼馴染が泣きそうに顔を歪めた。



「っ、う、ご、ごめん……」


「謝るくらいなら最初っから言う事聞いとけ」


「ご、めん……っ」



聞かなかった言う事とは総長さんの傍を離れない事。それをしなかったのは、総長さんと喧嘩したから。

どうしても友人と言う関係に意固地にも拘った幼馴染は総長さんと派手に言い争い、その結果じゃあ別れるか、と言われてしまったらしい。持って来忘れた箸を取りにちょっと席を外した隙にこれだよ。生憎副総長さんもその場にいなかったようで誰も二人を止められずに激化して拗れに拗れてしまったようで。


売り言葉に買い言葉で俺が戻ってきた瞬間飛び出したコイツに付いて行って早数日。まぁ少し離した方が良いかもしれないとも考えていたので丁度良かったんだと思う事にして久し振りに二人で行動していた。その間も登下校中自分らで警戒はしたし、後ろからこっそり下っ端さん達が付いて来てくれていたりしていた為一応何もなかった。……バレバレの尾行に気付かない幼馴染すげぇな、と感心したっけか。

そんな感じで密かに守られていた幼馴染み。けれど、それに気付かなかった故かどっか楽観視していたヤツは怪我した猫なんて追いかけ路地裏に入り、コイツを捉まえようとした俺ごと不良チームに捕まえられてしまったのだ。何とも間抜けな話である。



巻き込んでごめん、と謝る幼馴染に、誘拐なんて滅多にない体験だよな、と真顔で言ったら頭突きを食らった。場を和ませてやろうとしたのに冗談の通じない奴だ。

文句を言おうとしたら静かにしてろ、と見張りな下っ端に睨み付けられてしまったので大人しく二人並んで待ち惚け。緊張感の無い奴らだと悪態を吐かれるが無視した。



ボーっとしながらこれからの事を考える。たぶん付いてきていた下っ端さん達が異変に気付いて総長さん達に連絡しているだろう。それに、ここのチームの総長らしき奴が幼馴染と言い合っている間にこっそり電話を掛けて通話しっぱなしで放置していたのでチーム名やら場所は伝わった筈。聞こえていれば。何にしても助けはそこまで遅くないと思う。だから、大丈夫。



チラリと横を見れば顔を青くしてガタガタと震えっぱなしの幼馴染。巻き込まれた、というよりは態と一緒に付いて来た訳だけれど、こんな風に危ない目にあったのは初めてだなぁと考える。結構、いや、かなり恐い。うん、恐いよな。自分の力じゃどうにもできない事に巻き込まれるのって。



微かに震える体を、掌を握り締める事で抑え、隣で怯えっぱなしの幼馴染に寄り掛かる。側頭部をコツンと合わせると少しだけ震えが収まった。

もうだいぶ昔に感じるが、少し前まで俺の隣にいたのはコイツだったという事を思い出す。それがもう何年も当たり前だったのに。今、当たり前になっているコイツの隣は総長さん。俺の隣は……。





ぼんやりとした埃っぽい光を見ながら考えていたら見張りの交代の時間のようで新しい下っ端が近付いてくる。それと今までいた奴らが話し始めた隙にまた幼馴染に声を掛けた。



「ちょっと学校からも溜まり場からも遠いから来るの大変だろうな、総長さん」


「……来ないだろ。もう、恋人じゃ、ないし」


「来るだろ。別れるっつってもただの喧嘩だし。好きな相手助けんのは当たりま……」


「付き合えっては言われたけど、……好きだなんて、言われたこと、ないし」


「……マジで」



それは初耳だぞ。だからやたらと遊びに付き合わされてるだけだとか言ってた訳か。そりゃ悩むわ。てか前相談聞いた時それ言えよ。じゃなきゃ対策取りようもねぇじゃん。しかし何よりも突っ込みたいのは総長さんで。……あんのドへたれがぁ。

呆れなのか怒りなのかよく分からないもので頭が痛くなる。はぁぁ、と深く溜め息を吐いて床を睨みながら低く声を発した。



「おい」


「……なに」


「この離れてた何日かでお前が言ってた自分の気持ちとやらは分かったのか?」


「…………」


「もう総長さんを好きでもそうじゃなくてもどっちでも良い。それを相手にぶつけてみろ。若しくは相手にハッキリそれを聞け」


「…………」


「友人になるにしても恋人になるにしても、先ず会ったらそうする事だな」



俺の言葉に幼馴染は黙り込む。返事は無いが何かを決意したようだ。それがどっちなのかは分からない。けれど気持ちくらい、しっかりと伝えてからどうするか決めてほしい。話すのを止め背後の壁に寄り掛かる。不良達の笑い声が、煩いなと思った。



それから口を開く事無く品の無い笑い声や話し声を聞き流していると、急に外が騒がしくなり倉庫内にいた何人かが飛び出していった。出て行けない見張りも外が気になるようで俺達を引っ張って窓の方へ近付く。

煤けた窓を覗くといつもの下っ端さんが何人かと幹部の人達の姿が見えた。学校から来るには流石に早過ぎるから丁度近くにいたのだろう。幼馴染がオロオロしながらそれを見る。遠くて聞こえないが何事か暫く話した後、こっちの奴が幹部さんへ殴り掛かった事で喧嘩が始まった。



いつもは和やかに、時には意地悪に笑う人達が鬼の様な形相で殴る、蹴る、突き飛ばす。俺達を捉まえた奴らの反撃を全く物ともせずどんどん倒している。

強い。

いや、強いに決まっている。不良なのだ。この地域では最強と言われるチームの。

幼馴染と俺が昼休みやそれ以外の時間にその輪に行くようになっても喧嘩の噂は耳にしていた。けれど俺達の前でそのような様子は殆ど見る事がなかった。そうなのだと忘れ掛けていたのは、そんな人達が今まで俺達にそれを見せてこかっただけの事で。



ほんと、大切にしてくれてるんだよな。

幼馴染みがチーム全体で大事にされている事にほっと息を吐く。不良の総長なんかの恋人となれば、まぁ、人質になる事もあるだろうってのは予想していた。けれど、そうなったとしてもきっと無事に助け出してくれる。そう信じたからこそコイツを任せようと決めたんだ。

だから、コイツを助けてくれるヒーローさん。派手に登場してカッコよく決めてコイツをしっかり惚れさせてやってくださいよ。



なんて思った瞬間凄まじい音を立てて倉庫の扉が吹き飛んだ。それに巻き込まれた数人の下っ端が遠くで呻いている。……えぇっ?そこまで派手じゃなくて良かったんですが。

砂埃が立つ中、扉からゾロゾロと入ってくるのはいつも屋上で話すメンツ。見知った顔が現れた事に隣の緊張が緩む。そして無意識だろう、何かを探すよう動く視線。直ぐに見つけられたのかピタリと動きを止めジッと見詰めている。



薄暗い倉庫の中に差し込む夕日。その光に染まる銀髪の総長さん。



そして――、



オレンジ色の髪の男と、目が合った。



怒号と罵声が飛んでいる。内容は聞こえない。幼馴染の驚く声や、総長さんの話す声も右から左へ。時間の感覚も忘れ、ジッとそれを見詰める。

逆上したらしい敵さんチームの総長が何かを指示したようだ。視界の端で前にいた男が角材を振り上げたのが見える。衝撃を想像して体が強張ったが、目だけはそこから反らせなかった。



ガゴッ、と鈍い音が倉庫に響く。



「『助けて』、ぐらいゆってくれたっていいじゃない」



その声を耳にした事で、漸く周りの光景や音が頭に入ってきた。音を立てて倒れたのは俺達を殴ろうとした男。後、見張りで捕まえていた奴ら。幼馴染は隣で総長さんに抱き締められているようだ。



「……情けないとこ、見せたくないんですよ。貴方には」


「情けないトコもみたいんだよ。キミのは」



苦笑して手を伸ばしてくる男、副総長さんに笑い掛け、その掌に震えの止まった頬をそっと擦り寄せた。






『巻き込まれました』

『それでも冷静でいられるのは』

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