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傍観者  作者: 美也
7/10

目の前の攻防

「失礼を承知で言わせてもらいますが総長さん、ひょっとしてアホですか」


「事実だからしつれーでもなんでもないね」






いつも通りの昼休みにいつも通りの屋上、そして定位置。今日も青空の下、微妙な距離感のカップルを前に作戦会議です。

未だもだもだしているお二人に今回はお互いの良いとこ探し、というのをさせてみた。小学校の学活かよ。と思わなくもないが、あの二人の恋愛状況はぶっちゃけ小学生並みだから仕方無い。……いっそ交換日記でも付けさせようか。


んで、それをさせていた訳だけれども。総長さん割と歯に衣着せぬ方なので、良いとこというかそのまんま好きな所挙げていってくれたんだがその中に幼馴染の体格と言うか、まぁ身長の事がありまして。うん、小さくてかわいいはないな。高校生男児に。

褒め言葉で言ったつもりでも、かなり気にしている本人にとっては悪口で。現在総長さん、怒った幼馴染を必死に宥めています。恐ろしい見た目をしているのにその姿はなんとも情けない。本当に不良チームのリーダーなのかと問いたくなる。



「事実って。えらいはっきり言いますね。チームの総長さん相手に」


「ケンカの腕と機転は評価してるよ~。けど、ソイツの全てがイイからヒトがついてくわけじゃないじゃん?」


「それもそうですねぇ」



そう考えているのは副総長さんだけではないらしい。ちょっと離れた所にいる下っ端さん達に聞こえたようで、笑いながら頷いていた。情けない姿を見たところで幻滅しない程度に人望は有るらしい。何気に凄いな。不良ってその辺シビアだと思っていた。

時に優しく時に生温く。幼馴染みと総長さんの恋路を見守るチームの人達。元々歓迎ムードではあったけれど、その事情が事情だったためその内チラホラ不満が出るのではと思っていたが。一生懸命な様子の総長さんをチーム全体が応援している。良い人たちだな。……ねぇ、ほんとに不良チームなの?

何だか複雑な気分になりながらまた二人を眺める。嫌われないよう必死な総長さんはヘタレとも言えるし微笑ましいとも言える。取り敢えず不良のトップとはやっぱり思えない。とは思ったが、ふと思い出した格言に溜め息を吐いた。



「……まぁ、あぁなるのも仕方無い事かもしれませんね。恋は人を馬鹿にするって言うみたいですし?」


「ふーん」



まるっきり興味なさげな返事に苦笑する。まぁ、どうでも良いか。他人の恋愛の機微なんて。


飲み掛けのペットボトルをチャプンと揺らし視線を戻す。

主に幼馴染に自分の想いをちゃんと自覚させるために立てたこの作戦。ここに来てから直ぐにやらせた事なのでまだチャイムが鳴るまで時間はあるが宥め終わるにはまだまだ時間が掛かりそうで。作戦は失敗かもしれない。けれど必死に弁解したり良い所、好きな所を言ってくる総長さんの言葉にたまに反応している様子を見る限り効果はあったのだと思っておく事にする。






「……ねぇ、メガネくんはおチビくんのいいトコはどんなトコだと思ってる?」


「俺ですか?そうですねぇ……」



いい加減話の進まない二人を見るのに飽きたのだろう。副総長がグニャリと体を前屈させて聞いてきた。良い所なぁ、とペットボトルで肩を叩き目の前の小さな背中を眺めて考える。



「う~ん……。人の感情の機微に敏い所ですかね。どんな相手にでも分け隔てなく手を差し伸べていけるのは凄いと思います。何だかんだ人好きされる性格なんでここにも慣れれば割りと直ぐ受け入れられてましたし。……ただ妙なとこで鈍くてドジったり、首を突っ込む気がなくても巻き込まれる運の無さが半端ないのが残念ですけどね」


「ん~やっぱさいごは落とすねぇ」


「あはは」



短く笑えば同じように笑って返される。裏の無い、純粋に面白がって笑う声が耳に心地良い。良い気分に口角を上げたまま、覗き込むよう横を見上げた。



「副総長さんはどうなんですか?総長さんの良いとこ」


「そーだねー。さっき言ったのプラスで、運でもなんでも跳ね飛ばしてなんでもやり遂げるトコかなぁ。その勢いでまわりをひっぱってってるしまわりもついてきてるし。悪いトコはあんまりじぶんもまわりもみえてなかったトコ。一応リーダーなのにねー。でもさいきんちょっと変わってきたみたいだよ~」


「そうですか」



変わった原因は、言わずもがな。楽しそうに話す様子から良い変化なのだと分かる。なら何よりだ。

スッキリした気持ちで食べ終わった弁当空を足元に置き、伸びをする。さて。あちらはだいぶ良い感じになってきたみたいだけどそろそろ止めないと際限無いよな、と思ったところでそういえば、と声を掛けられた。



「キミの言った通りあのコ、かなりのハプニング体質っぽいけどキミはそばにいてだいじょーぶなの?」


「はい。俺、危機回避スキルMaxみたいで。大抵離れている間に何か起きるんで毎回俺は平気なんですよ」


「そうなの?」


「戻る頃には殆ど終わった後ですね。俺には何にも起きません」


「……あぁ、それでかぁ」



納得したと頷き頭をポンポンと叩く副総長さん。それでって……何が?

突然の行動に眉を寄せ見上げれば珍しくも苦笑した顔。益々訝しく見ればその顔のまま口を開いた。



「チビくんのこと助けてあげれないの、歯痒くおもってたんでしょ」


「はい?」



疑問符すら付かない断定の言葉に瞬けば、ん?と首を傾げられる。何だ。何の話だ。

目を軽く見開いたまま固まる俺に言い聞かせるよう、副総長さんは話し出した。



「だからウチのそーちょーと付きあうことになっても反対しなかったんじゃない?ナニかあってもアイツがソバにいるならたいがい解決できるもんね。危ないコトあってもすぐに守ってくれるし」


「……なん、で」


「いっくら害意がないとしてもトモダチそう簡単に不良にやるようなコにみえなかったからねぇキミ」



うんうん頷きながら、だから納得した、と事も無げに言ってきた副総長からジリジリ体を離す。



「……そんな呑気に言っていいんですか?俺は、貴方達の頭を利用してるんですよ」



自分じゃどうしようもないから、強い上にベタ惚れしてくれた総長に幼馴染の問題を世話させようとした。そう、言われた事はそのまま考えていた事だから何も言えない。勿論、それで制裁されても文句を言えないってのも分かっている。だからって素直にそれを受ける気はないので警戒を込めて睨んだ。しかし、



「イーんじゃない?オレだってアイツの機嫌なおすためにあのコ使ってるし」



オアイコオアイコ。と言う目の前の人物からはそんな不穏な様子は微塵も感じられず。あっけらかんとした返事にポカンとする。そうして呆ける俺に笑った副総長、さんは話を続けた。



「めーいっぱい心配して、少しでもイイ方向につれていこうとしてのコトなんでしょ?それに、ムリヤリじゃなくてちゃんとおたがいのキモチわかっててやったコトだし」



尚も言い募られる言葉に知らず項垂れていく頭へ大きな手が乗せられる。チラリと視線をやれば副総長さんはいつもとちょっと違う笑顔を浮かべていた。



「オレ、キミのそういうトコけっこう気にいってるよ」



ポスポスと頭を叩かれ益々俯く。言った声の柔らかさにほっとするのと同時に、何か追い詰められていく気分になる。何か、は出来れば考えたくない。――けれど。

一度ギュッと歯を食い縛った後、俺も、と小さく口を開く。



「茶化したり面白がったりしてるけど、ちゃんと真剣に応援してるとこ、好感持ってますよ」



あの日、幼馴染が総長さんに好意を持っていると伝えた時にほっとした声で言った科白を、俺は覚えている。

「よかった」、と呟いた声は心から安堵と喜びを含んでいた。



初めて会った時は、変に引っ掻き回したり可笑しな真似をしたりしないように見張るつもりで近付いた。けれどその声を聞いて、この人物は信用できると思ったのだ。彼が本当に自分の友人の恋を心配しているのだと分かったからこそ今もこうして一緒に作戦を練っている。



いつの間にか叩いていたのが止まり、置かれたままになった手。振り払うこともできず、身動ぎ目を逸らした先で下っ端さん達の何人かがこちらを見ているのが見えた。……幼馴染達を見るのと同じ目で。


やめろキモい。

睨んで視線を散らせた所で予鈴が鳴る。離れていく手を追おうとする目を幼馴染に向け戻るかと声を掛けた。



帰り道、放課後デートだと言って入ったゲーセンで総長さんは幼馴染にユーフォーキャッチャーででかいぬいぐるみを取ってやっていた。そういやプレゼントというベタな方法を忘れていた。やるな、総長さん。やっと、と付けたいけど。

その後総長さんと副総長さんが対戦しているのを見ていると、貰った猫の頭に顔を埋めた幼馴染が何か悩んでる?と聞いてきた。そろそろキスでもさせた方が良いのかな、なんて言ったら鞄で頭を狙ってきたので足払いを掛ける。

文句言う暇あったらとっとと認めてしまえ面倒くさい。というのは黙っておいて驚いてこちらを見てきた不良二人に目をやる。



あぁほんとに、めんどくさい。






『目の前の攻防』

『隣との応酬』

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