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傍観者  作者: 美也
4/10

楽しい作戦会議

「恋人ってどんなコトやるもんなんだろー」


「いた事無いんで知りませんよ。副総長さんの方がその辺の経験、豊富なんじゃないですか?」


「オレもいたコトないよ。恋人は」


「恋人は、ですか」






今日も今日とて作戦会議。晴れ渡る空の下、屋上での食事会も慣れたもの。なのは俺だけで、総長さんの前に座るアイツは今日もぎこちない。いい加減慣れろや。



食べては箸を止め思い思いの意見を出して副総長さんと話し合い。気持ちは一応お互い向いていると分かったので、本日からは恋人として振る舞わせる事でしっかり意識させてしまおうという話になった。そんな訳で恋人らしいお付き合いの仕方というのを二人で考える。……何が悲しくて幼馴染の、男同士のお付き合いを思案せねばならんのか。弄るのは面白いが改めて状況を見ると何だか虚しくなった。

一瞬過った冷静な思考にやる気がガッと下がる。だがそれで放り投げてはいけないと頭を振って話を進めた。



「取り敢えず。恋人出来たらしたい事でも挙げてみましょうか」


「ん~じゃあセック、」


「もっと段階踏まんと嫌われますよ」



丁度摘まんでいた卵焼きを副総長さんの口の中へ突っ込み言わんとする事を遮る。言うと思ったけど。という言葉はお茶と共に胸の中へ流し込み溜め息一つ。俺の奇行を見ていた下っ端さん達が驚いていたが知るか。

大人しく咀嚼する副総長さんをジトリと睨めば飲み込んだ後儲けた、と笑顔で返された。イラッと痛む頭を眉間を揉む事で誤魔化して弁当をかっ込む。もう一つ寄越せと言ってくるのを無視して最後の一口を飲み込み、箱を仕舞ってからまたジッと副総長さんを睨んだ。



「ていうか男同士でそれは無いでしょ」


「そんなコトないよ?男同士でもできるらしいし。女のアレの代わりに……」


「説明は要らんです」



出来るんか。知りたくなかった。

一瞬、目の前でぎこちなく食事をする二人で想像しかけて吐き掛ける。考えるな、俺。

一気に詰め込んだ腹が重い。そこを擦りつつ話を変える、というか戻そうと口を開いた。



「……兎に角。それ以外で相手にしてあげたい事、してほしい事を挙げてください」


「え~、だからセ」


「相手がされて喜んだり、ドキッとするような感じのものが良いんですかねえ」



言いながら自分も考える。う~ん。全く思い浮かばん。隣の茶々が五月蝿いのもあるけどそんなの今まで全然考えてこなかったからなぁ。……ほんと、虚しい。

一人黄昏る俺に、構うのを諦めたらしい副総長さんも漸く考える姿勢を取る。どうせ考えてもろくな答えじゃないだろうな、なんて考えてお茶に口をつけていると、唸りの後ポツリと言葉が落とされた。



「そうだなぁ、とりあえず~」



ぼやっとした声に何だと顔を向けると、声の通りぼんやりとした顔をして空を見上げている副総長さんが目に入る。予想外な様子に目を見張れば、ややあって唇が動いた。



「あまやかすかなぁ」


「……へぇ」


「オレ以外のとこにいったりしないように、オレ以外をみないように。全力でどっろどろに愛してあげようかね」



たぶんだけど、と副総長さんはヘラリ笑ってこちらを見る。口調はおどけているが話している間の眼はマジに見えた。



「副総長さん……」


「ん?なに?ドキッとした?」


「えぇ、生命の危機的に」



え~、等という不満の声を黙殺し、残りのお茶を煽る。

甘やかすとか意外だなと思った自分が馬鹿だった。まともな甘やかしなわけなかった。どう好意的に取ろうとしても、ガッチガチに束縛しまくりな状況しか思い浮かばない。こいつの恋人となる人は可哀相だな。遊びでも本気でも大変な目に遭うだろう。そして、もしうっかりその恋人に懸想をしてしまった人がいたとしたらきっとどっちも殺されるんじゃないかなとか考えたら、更に哀れさが増した。

静かながらも不穏な空気を感じ取ったのか心配げな視線を感じる。下っ端さん達、何だかんだ良い人達ね。



「もー。じゃあ、キミは?」


「……俺ですか?」



だから、思い付かないんだけれど。

空のペットボトルを手で遊ばせながら、ちょっとまた考えてさっきの副総長さんのように空を見上げた。



「俺も……甘やかしますかね」


「ほほう」



楽しそうに目を細める副総長さんをチラッと見て、ただし、と続ける。



「副総長さんみたいなのじゃなくて、もっとこう、優しく大切にする感じで」


「え~?なあに?それってオレのはやさしくないってコト?あまやかすってゆってんのに~」


「明らかに違うでしょ。監禁とか、そういう事やりかねないヤバ気な雰囲気でしたよ」



そう言うと、一応の否定はしてくるが分かって言っているようでヘラヘラと笑われる。それに呆れて溜め息を吐くと俺の態度に笑いながらブーブー楽しそうに文句を言う副総長さん。放って呆れた脱力感に空の弁当箱を叩きながら空を見上げた。



「やっぱ、実際そういう相手がいなければよく分かんない事ですね」


「だねぇ」



しょーがないねぇとくつくつと笑った副総長さんはそれはもう楽しそうに目の前にいる二人を見る。つられて俺も視線をやる先で恋人な筈の二人はどうにもぎこちなく危なっかしい様子。しかしそれはそれで面白い。



「じゃ、そのへんは若いふたりにがんばってもらおうというコトで。オレらはてきとーに楽しくひっかきまわしてやりますか」


「そうですね」



何の為にぐだぐだ話したのか。結局結論はそうなる訳で。同じように笑っていればさらに遠巻きになる下っ端さん達。妙な空気に敏感なんですね。



引くギャラリーを気にも止めずに足を伸ばして楽な体勢を取る。我ながら寛ぎ過ぎだろうと考えつつ。ふと、視線を前へ戻すと何やら大きな掌を覗き込む小動物。もとい幼馴染が。ガチリと体を固めされるがままそれを見降ろす総長さんの目は完璧恋する男子のそれで。

ふーん、と呟いて頬杖をつく。



「甘やかすという点ではもう十分と言っていい程甘やかされてますよね。あれ」


「まあねぇ。ふつーあんな近づいたら即殴るよ、アイツ」



でかいのが小さいのと一生懸命触れ合おうとする姿にうっかり和んだ。下っ端さん達もほのぼのと見ている。

良かったな。良い人に拾われて。可愛がってもらえよ。ん?拾われたのはどちらかというと総長さんか?怪我したところを手当てして懐いたんだし。と考えたところでいや、捨て猫とかじゃないからと我に返りセルフ突っ込み。

地味に思考が可笑しくなってきたかと己の頭の心配をしていると、ツンと肩をつつかれた。



「ごちそうさま」


「はい?」


「たまごやき。おいしかったよ」


「あぁ、どういたしまして?」


「塩より砂糖のほーがすきだけどね」



お礼を言われるとは思わなかった。しかし黙らせるために突っ込んだ物なので好みなんぞ知らん。

パチパチ瞬きながらそんな事を考えて。でもまぁ良いかと話に乗った。



「甘党なんですか」


「あまいほうがいいでしょ?」



そうかねぇ。

適当に相槌を打ってフェンスに寄り掛かりまた空を見る。その隣で副総長さんはまたまた楽しそうに二人を眺める。その後は特に会話する事なく時間が過ぎた。



放っていても気にしない関係が楽だ、なんて思う。アイツよりこの状況に馴染んでどうすんだとは思ったが、なかなかにこの時間を楽しく感じているのは確かで。早く慣れればいいのに。と、真っ赤になり慌てて飛びずさった幼馴染をちょっとだけ見て目を閉じた。

眠くなってきた頭で次は何を話し合おうかと思考を巡らせる。何を話そう何を考えよう。

しかしそんな風に考えたところで結局はほぼアイツらに丸投げな作戦しか立てる気がないという事は、瑣末な事だと思う事にする。






『楽しい作戦会議』

『実行するのは自分じゃないし』

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