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傍観者  作者: 美也
3/10

意外性

「まあ、漫画とかでよくある話なら捨て猫拾ったとこ見て意外な優しさにドキッと~とかですかね?」


「あームリムリ。アイツ動物アレルギーなんだわ」


「あちゃー。そりゃ無理ですね」






本日もここ数日恒例となった屋上でお弁当広げて楽しい会食。

幼馴染は総長さんの真正面。俺は副総長さんのお隣さん。最早どっちも定位置になり、周りの下っ端さん達も慣れたもの。前からじわりと向けられる助けてという視線を無視して今日もお隣さんと作戦会議を開きます。

議題は幼馴染をどうやって総長さんに惚れさせるか。



「じゃあ人助けでもさせちゃう?」


「えー?駄目でしょう」


「何で~?」


「うっかり相手が惚れたらめんどいですよ~」


「そっか~、アイツ顔イイもんね~」



ぱくりと俺はウインナー、副総長さんはパンを口に放り込み暫し味わう。その間無言。口に物を入れている時は喋らない。不良だがその辺りの分別はきっちりしているらしい。静かで助かる。

震えながら弁当を食う幼馴染みと、それをメッチャガン見している総長さんを眺めながら食事は進む。平和だなぁ、なんて思いながらお茶を飲んでいると、副総長さんはジュースパックを片手に伸びをして後ろのフェンスに凭れ掛かった。



「ん~。そもそもさ。おチビくん、男いけんの?」


「さあ?今までの好みは全部女子ですけど。意識なんてした事無いでしょうね」


「だよねぇ。ゲイとかホモとかふつー近くにいないしー。かんがえもしないかぁ」



う~ん、と悩んでいるようには見えない顔で副総長さんが唸る。まぁ、くっ付けるにはそこが一番ネックだよなと思いながら箸を動かした。


因みに総長さんも元は勿論異性愛者で、男に惚れるだなんて思いもせず相当悩んだらしい。幼馴染は特別。という事で決着をつけたという話だが、その間荒れに荒れまくって八つ当たりで他チームを潰すどころか自チームすら危うい状況になったんだとか。下っ端さん達が幼馴染に文句どころか安堵の目を向けていたのはそういう理由だったのか。不良も苦労してんのね。

ひっそり哀れみの目を下っ端さん達へ向けていると、横の副総長さんはポンと手を叩いた。



「となりでオレらが付きあってみせて意識させる~とかどう?」


「リアクションにたいへん興味はありますがお断りします」


「ざ~んねん。じゃあそのへんのヤツらテキトーにくっつけさせてみる?」



初めの頃より何故か離れた所にいる下っ端さん達に俺らの会話は聞こえていない筈だが。あからさまにビクリと肩を跳ねさせオロオロと動揺しだしたのが見える。面白い。が、……ちょっと可哀相だ。



「あんまりなんで止めたげてくださいな」


「う~ん。わがままだねぇ」



口を尖らせて文句を言われるが、最初から冗談で言っていると分かっているので問題無い。品定めの目が外れた事でほっと脱力する下っ端さん達。お疲れ様です。


しかし、さっきからかなり意見を否定したりしているのに何のお咎めも無し。口調も態度も砕けまくりだが気にした様子も無し。どうやら対等に扱っていただいているようでありがたいが何を企んでいるのやら。

不安にならなくもないがそん時はそん時と気持ちを切り替え最後の一口を飲み込んだ。ごちそうさまでしたと手を合わせれば隣も食べ終わったらしく、ごちそうさまという声が聞こえる。ほんと、その辺しっかりしてるんだな。



弁当箱を片付けて横に置く。目の前の二人の昼食は未だ続くらしい。いい加減飽きてきたなぁ、と思いながら俺もフェンスに背中を預ける。隣の副総長さんは相変わらず楽しげだ。そんな副総長さんをチラリと横目にし、対等扱いのお礼に一つ情報でもくれてやるかと口を開いた。



「下手に小細工せんでも大丈夫だと思いますよ」


「ん~?なんで~?」


「アイツ、ビビりまくった姿しか見せてませんけど意識はしてるみたいなんで」


「うっそ。マジで?」


「えぇ。本人も無意識みたいですが」


「……ホントに?」


「そうでなければ流石に俺も不良な男とマジでくっ付けようとなんてしませんよ」



半信半疑な副総長さんにおどけつつも目だけはしっかりと合わせて答える。また面白い事を聞いたと笑いだすだろうか、と見詰めたその顔は、しかし思案する顔のままで。



「そっか~……――――」



どこかぼんやりとした声の後、小さな声で呟かれた言葉を風に拐われる前にうっかり耳に入れてしまった俺の顔は、たぶんとても間抜けだったと思う。それ程意外な言葉だった。

空耳かと聞き返したかったが、十中八九はぐらかされるので止める。思っていたよりこの人の事は信用出来るのかもしれない、と少しだけ認識を改めた。……ところでぱっと顔を上げた副総長さんは。



「なら、えんりょなくどんどん押させちゃってかまわないんだね」



……前言撤回。やっぱりただの愉快犯だこの人。

ニマニマ笑う副総長さんを半目で見上げてからこっそり小さく溜め息を吐いてカクリと頭を落とす。楽しい事好きなのは俺もだからそれで構わないけど。



ほんの数分前の真面目っぽい雰囲気はどこへやら。始めの時と同じように二人をどう弄るか……いや、どうやってちゃんと恋人にさせるかまた話し合う。

たまに小さく上がる友人の悲鳴をBGM、時折怯える下っ端さん達を背景に時間が過ぎていく。

そんないつもの昼下がり。






『意外性』

『見ても印象変わりなし』

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