呼び出されました
「トイレ行ってる間にいなくなるとかどうしたと思ってたら。んな事になってたの」
「っど~しよぉぉぉお……!!」
またか。と呆れながら、グズグズと鼻を啜りつつ泣き付いてきた幼馴染みを引き剥がして胡乱に見やる。「またってなんだよう」と懲りずに抱き付こうとするのを力尽くで止めると、「冷たい」と拗ねて机に突っ伏しズビズビ泣き出した。
家が隣で高校までずっと一緒な腐れ縁のこの幼馴染は、自他共に認めるトラブル吸引体質である。
躓いた人にぶつかられて盛大に転んだり。犬に追い掛けられている人と何故か一緒に逃げる事になったり。知らない人の家の夫婦喧嘩の仲裁をする羽目になったり。自分が何かやらかすというより他人の何かに巻き込まれる。そんな厄介な体質。
道を歩けば棒にあたるよりも高い確率で面倒事にぶち当っているのを子供の頃からしょっちゅう見ていた。今までは辛うじて警察沙汰になるような事には巻き込まれていなかったのだが。年々酷くなる内容にいつかきっとやばい目にあうだろうな、とは思っていたのだけれど。
「不良に呼びだされて屋上に連れてかれ、告白されて付き合う事になった。ねぇ」
「……なんでそんな冷静なんだよぅ……うぅっ」
とうとう本日、巻き込まれるのではなく見事当事者として面倒事の中心に立たされたらしい。離れたのはほんの数十分なのに怒涛の展開過ぎるだろ。
「命と財布の危機は無かったみたいだし、いんじゃない?」
「いくねぇよ!なにそのめっちゃ他人事発言!!」
「他人事だ。リンチでもパシリでもないならいいじゃないか。贅沢者め」
「……そうだけどさぁ~」
泣き止みはしたが依然、弱った様子で愚痴ってくる幼馴染。そろそろ鬱陶しい。軽く手刀を頭に落としてこれ見よがしに溜息を吐く。
「で?その恋人とやらのお名前は?」
「……それが……」
消え入るような声で答えた後何故だ何でだと呻くこいつには悪いが、出された名前を聞いた俺は一人ひっそりと納得していた。
『呼び出されました』
『友達が』