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プロローグ

 剣と魔法と冒険の世界、エルガンデ。

 様々な種族が暮らし、魔獣や不死者やドラゴンが存在する世界。

 そこでは、過去に何度も魔王と勇者の戦いがあった。

 星の数程の物語が、その世界で幕を開け、そして閉じる。

 ゆえに、吟遊詩人が歌う唄に困る事はなく、物語の執筆者が筆を休める暇は無い。そんな英雄達の活躍に、人々は瞳を輝かせ、胸を躍らせた。

 特に子供らは、英雄に憧れ、未来の英雄と成る事を夢見ていた。そして、その夢を叶えるために、多くの若者が故郷を旅立ち冒険者となったのだ。


 しかし、実際に夢を叶える事が出来るのはほんの一握り。数多の英雄達の煌びやかな活躍の裏側で、舞台に上がれずに消えていく多くの者達がいた。そして世界も、激しい戦いにより滅びと再生を繰り返している。


 ほんの数十年前にも、新たな魔王と勇者の戦いがあった。魔王の力は凄まじく、それは世界を巻き込む大戦となった。いまだその大戦の爪痕が残る世界は、ようやくその疲弊から立ち直り始めていた。


 そして、そんな世界で。とある国のとある学園で。また一つ、新たな物語が幕を開けようとしていた。


 その学園の名は、聖王国立アルディア学園。

 王都に存在し、王国一の学生数を誇る巨大な学園である。

 そして、王国唯一の冒険者育成科がある学園でもある。過去の英雄達に魅入られた、冒険者を夢見る若者達が集う場所だ。

 そのために、その敷地内には訓練用の迷宮が存在していた。魔王の迷宮を改造し、学生の訓練の場とした十階層の迷宮。

 物語は、この迷宮から始まる事となる。


 ◆


 薄暗い迷宮の中、大きく開けた広間に、一体の魔物と一組の男女の学生が対峙していた。

 魔物は巨大な狼のような姿をしており、その目は赤くギラギラと輝いていた。鋭い牙が覗く口からは、獲物を前にしているからなのか、だらだらと唾液が垂れ流されている。

 その巨狼からは凄まじい威圧感が放たれている。とてもではないが学生の手に負える相手には思えなかった。


 対して、相対する学生達は満身創痍といった様子であった。

 少女は歩く事ができないのか、少年にその身をしっかりと抱き抱えられていた。少年は身体中に怪我を負っているようで、身に付けている制服が所々破れ、かつ赤く染まっていた。

 二人共が荒い息を吐いており、極度の疲労が見て取れた。目の前の魔物から逃げる事は出来ないだろう。それは、絶望的な状況だった。


 しかし、二人の目は死んではいなかった。この絶望的な状況を前に、何一つ諦めた様子は無い。

 わずかに幼さを残す容貌をしているその二人は、しかしそこいらの大人よりも遥かに凛とした態度でそこにいる。それは、この状況を切り抜け平和な日常に戻るために。ただひたすらに前を、日常への道を阻む敵を睨み付けていた。

 その眼差しは、大切な者のために勇気を振り絞り死地へと踏み込む覚悟を決めた、正しく勇者のモノであった。


 まるで開戦の合図のように、巨狼の魔物が吼えた。聞く者すべてに恐怖を与えるかのような凶悪な咆哮に、広間内の空気が痛いほどに振動する。

 しかし、少年も負けてはいない。それに対抗するように、自らを奮い立たせるかのように、少年が吼えた。


 戦いが始まる。

 少年は、胸に抱く少女を敵の手から守るために、全身に気力を張り巡らせる。

 少女は、自分を抱く少年の代わりに敵を討つために、魔力とイメージを練り上げる。

 お互いがお互いのために、痛む体に鞭打って力を振り絞った。二人で生き残るために、全身全霊をかけて戦いに臨んだ。

 二人は信じていた。相手がどれだけ強大でも、自分達なら負けないと。自分一人では勝てなくても、この人が一緒なら、絶対に負けないと。

 そしてその想いこそが、物語開演の鍵となったのだった。


 その出会いは、偶然か、それとも必然か。

 その目覚めは、奇跡か、もしかすると運命か。


 今、新たな物語が、眩い光と共に幕を開ける――

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