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どのくらいの時間が経ったのだろうか、辺りは完全に暗くなっていた。
街灯がすでに点灯していて、二人を真上から照らしだしている。
お互いひとしきり泣いて落ち着いたようで、並んで歩き始めていた。
「先輩、これからどうしたいですか?」
涙子は秦野の顔を覗き込むようにして表情を伺う。
「正直、わからない、自分がそんな存在であったなんて理解できていないからね」
「そうですよね……」
「けれども、一つだけ言えることはあるよ、それはお互いの立場って言うか状況が分かった事かな」
「はい、私も想いを受けたのは久しぶりのことですし、何より先輩の身近にようやくたどり着くことが出来ました」
涙子はそう言って秦野に微笑みかけてくる、想いの出所でずっと慕われてきた相手にようやく会えた訳だからほっとしたのだろう。
いったい涙子は、想いを受け止めながらどうやって過ごしてきたのだろうか、まったく顔も知らない相手への想いだというのに。
「涙子さんは、昔からこの町にいたのかな?」
「あ、涙子でいいですよ先輩なんですから! 生まれも育ちもこの町です」
そのまま、今更ながらの自己紹介をしていく二人、今までまったく接点のなかった事が不思議なほど夢中で会話を続けていく。
「あ、先輩、私の家はここなので、失礼しますね」
涙子は立ち止まり、秦野に向き直る。
「うん、今日はありがとう、今後のことは一緒に考えていきたいけどどうかな?」
「はい! それで一つ提案というか、先輩が嫌じゃなければ良いんですけど……お付き合いしてもらえませんか?」
そう言って涙子は頬を染める。
「事情は分かっているけど……そんな簡単に決めていいのかい?」
「はい! 先輩に対する想いを受けてきてずっと気になっていたのは事実ですし、それとは別に今日先輩と話して好きになりましたから……」
「分かったよ、でも僕は奪う存在、涙子も消えてしまうかもしれないんだよ?」
「それを試したいのもあるんです、私と先輩は他の人と違うんですから……」
「すべては、明日になれば分かるね」
「はい、今日は失礼しますね、おやすみなさい」
そういって涙子は、自宅へ向かっていった。
奪う者と受け継ぐ者、その二人がようやくここで出会う。
それは果たして偶然なのか必然なのか。
その答えを迎える朝はまだ遠い。