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涙子にズルズルと引きづられたまま、屋上にたどり着く秦野、既に昼休みもほぼ半分近く過ぎていた、屋上にいる人数はまばらで、昼寝をしている生徒などが見受けられるが、そんなのはお構いなしに涙子は秦野を引きずりながら進んでいく。
やがて、校庭が見える端っこの方まで来ると涙子は手を離し振り返る。
「先輩! 座ってください!」
レジャーシートが目の前に敷かれ、涙子が座り秦野に対しても座るように促す。
「ありがとう、それでどうして君は――――」
秦野は聞こうとするが、それを遮ぎるように涙子は話してくる、明らかにさっきとは全然違う口調で。
「先輩、今日何か違和感を感じませんでしたか?」
「え? それってまさか――――」
「はい、『広田由美』先輩のことです」
秦野は驚きを隠すことができなかった、クラスメイトすらいなくて当たり前の態度だったのに、面識があるか疑わしい涙子がその存在を知っている。
しかも、違和感として感じ取っているのだ。
「どうして君がそれを?」
「実は、警察に届けたのは私なんです、そしてお昼に連絡すると言われていたんですが、一向に連絡がないんです」
「警察の人が忘れているんじゃないのかい?」
「そうかもしれないんですけど、何となく不安で」
確かに言っていることの辻褄はあう、発見者だしなにか進展があれば連絡はよこすだろう、だけど今気にしたいことはそこじゃない、秦野は意を決して聞いてみる。
「どうして、僕が違和感を感じていると思った? それにずっと前から知っていたと言うけど、どうして知っていたんだい?」
黙って下を向く涙子、声を絞り出すかのように答えを紡ぎ出す。
「すいません、今ここではダメなんです。放課後まで時間をもらえませんか? その時はきちんとお答えします。ただ生徒会の仕事もあるんで、少し待ってもらうことになるんですけどいいですか?」
涙子は下を向いたままだが、秦野はその言葉から明確な意思を感じたようだ。
「分かったよ、じゃ放課後に校門前で」
「はい、分かりました先輩」
そういって涙子は立ち上がり屋上の出入口へ向かっていく、それを追って秦野も屋上から立ち去った。