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それでも司馬仲達はニートを貫く  作者: 全裸なのではなくプライドという名の服を着ているのだ
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プロローグ


 陳留(ちんりゅう)郡に一門の名家有り。その名を司馬(しば)家という。 司馬家の来歴を辿れば秦代にまで及び、その歴史はおよそ四○○年にもなる由緒正しき名家である。





 司馬家の今代(こんだい)の名は司馬防(しばぼう)という。(あざな)建公(けんこう)といい、年齢は四○半ばの女性である。その容姿は若々しく、また美しく、そうとは知らぬ者から見れば、最大限上に見積もったとしても二○代後半程にしか見えないだろう。

 司馬家は代々、武に、文に、芸にと様々な分野において優れた能力を持つ人材を数多く輩出している。当主である司馬防自身もその多数例から外れることはない。

 司馬防は、武においては一騎当千(いっきとうせん)、文においては聡明叡知(そうめいえいち)と、英俊豪傑(えいしゅんごうけつ)を絵に描いたような人物であった。

 彼女は若くして洛陽(らくよう)県令(けんれい)や、京兆尹(けいちょういん)騎都尉(きとい)という重要な地位を歴任するほどの逸材であり、順当に行けば将来的には宰相すらも夢ではないと周囲からは羨望と嫉妬のない交じった視線を向けられていた。

 しかしそんな司馬防であるが、たった一つだけ、だが決して無視の出来ない最大の欠点があった。それは非常に「夫婦仲が良い」ことであった。世間一般論では、夫婦仲は良ければ良いほど好ましいとされているが、残念なことに司馬防は世間一般の世界に住む住人ではなかった。

 二○代半ばで結婚した司馬防であったがある時、夫との間に子を成したのだ。妊娠初期ならともかく出産予定日が近付けば仕事をするわけにもいかず、産休として公務を休まなければならない。一度や二度ならば、女性官吏である以上避けられぬ事態として多少は大目に見られるが、それが三度、四度と同じことが続けば、流石に司馬防が優秀とはいえ問題視される。

 そして司馬防は周囲の予想を裏切り、全ての官職を辞して官吏としての人生を捨てた。女として妻として母として生きる道を選んだのだった。

 官職を辞して後の司馬防は、当時の当主であった父の司馬儁(しばしゅん)を次期当主として補佐し続け、司馬儁の死語はそのまま順当に新当主の座についた。










 さて、そんな才色兼備の司馬防であるが彼女には八人の子供がいる。彼女が官職を辞する原因ともなった一男七女の子達である。



 第一子。長女であり八兄弟の長女である司馬朗(しばろう)。字は伯達(はくたつ)

 第二子。長男の司馬懿しばい。字は仲達ちゅうたつ)。八兄弟唯一の男子である。

 第三子。次女の司馬孚(しばふ)。字は叔達(しゅくたつ)

 第四子。三女の司馬馗(しばき)。字は季達(きたつ)

 第五子。四女の司馬恂(しばじゅん)。字は顕達(けんたつ)

 第六子。五女の司馬進(しばしん)。字は恵達(けいたつ)

 第七子。六女の司馬通(しばつう)。字は雅達(がたつ)

 第八子。七女である末っ子の司馬敏(しばびん)。字は幼達(ようたつ)



 彼ら八人のいずれもが名門司馬家の名に恥じぬ逸材である。

 八兄弟のその全ての字に「達」の文字が入ることから、彼ら八兄弟は世間から『司馬八達』と呼ばれている。この呼び名には「司馬家の八人の達人」という意味合いも込められている。



 そんな粒揃いな司馬家の八人兄弟であるが中でも一際優秀とされているのが、第二子の司馬懿である。

 幼少の頃から聡明で、数えで三歳を越える頃には周りの大人たちと同等に話せるほどになり、五歳には『論語』を(そらん)じられるほどであった。



 そのような評判が広まり、一○歳を越える頃には、元服も済ませていないにも関わらず、司馬懿を食客として召し抱えたいという申し出が数多くきていた。

 だが司馬懿がそれらの申し出をどれひとつとして受け入れることはなかった。













 そんな司馬懿にはとある秘密がある。彼には前世の記憶というものがあるのだ。

 彼の前世は、日本という国に住む一人の労働者(サラリーマン)であった。

 このことを知る者は司馬懿本人を除いて存在しない。



 そしてもう一つ秘密がある。

 これは司馬家の家中の者や司馬懿と親しい者だけは知っているのだが──












「働いたら負けだと思っている」


「にゃー」


「おお春華(しゅんか)もそう思ってくれるか!」


「にゃー」




──司馬仲達はニートである。

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