寄り道
次は新下関、新下関
広島行の新幹線は順調に進んでいる。月も星も隠れた曇天に、LEDで車内が灯された車両は冷たい闇夜を切り裂いて進んでいる。前の席からは愉快なおばさん三人組の声が響いて聞こえる。隣のサラリーマンはビール缶一本を空にして眠りについた。
スマホを開き、20時15分だと知る。まだ既読を付けていないLINEの通知が目に入り、どうしようもない気分になる。「さようなら」この言葉だけが重くのしかかる。
いつかはこうなると思っていたものの、心の準備というものはできなかった、できるはずがなかった。
今までにない、この喪失感は私の行先も知らずにどこまでも勝手についてくる。
「なあ、そこの兄ちゃん。お金とかはきにせんで、このアイスもらってくれん?買いすぎてしまったったい。」
そういって愉快なおばさん一号は私の座席用の背面テーブルを開いてアイスと木製スプーンを置く。
「あんた元気なさそうやけん、これ食べんね。」
もう断れる雰囲気ではなかった。「お気遣いありがとうございます。いただきます。」といかにもな定型文で返答する。また望んでいなかったものが手元に来てしまった。本当に欲しいものは去っていくというのに。
現実から目をそむけたいのなら、寝てしまえばいいと最初は思った。しかし、いざ目を閉じると瞼の裏に今までの日常がこびりついている。そんなものを見せられるくらいなら、つまらないこの車内の情報を取り込んでいた方が幾分かましだ。
広島には何があるのだろう、私は広島で何をするつもりだったのだろう。
夜中にただ、知った場所から離れたいと衝動的に購入した新幹線の乗車券は何も教えてくれなかった。
広島駅から出た私の最初の感想は「なんにも変わらねぇ」だった。
広島はまったく悪くない。私の感性がふてくされてしまっているのだ。
あいてしまった心の穴は、あるかも分からぬ再びぴったりとはまる欠片を自分で探して埋めることでしか満たされないことは分かっている。不純物で突貫工事がしたいわけではない。
私は夜行バスのチケットを購入した。その日のうちに帰れるような広島を選んだ自分自身の中途半端さに嫌気がさしたが無視をすることにする。
帰ったら福岡に何があるのだろう、私は福岡で次に何ができるのだろう。
当然、夜行バスのチケットも教えてくれることはなかった。
私は帰りの夜行バスの中でLINEに既読をつけた。
更なる喪失感が私を襲ったが、それはするりと心の穴を通り抜けていってしまった。
博多行の夜行バスは順調に進んでいる。




