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馬肉になりたくないんです! ~転生、異世界で強制競走馬生活ですか?!~  作者: ゆうらり薄暮


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20.約束



 ――そして季節はさらに進み、私は“約束のGⅠ”に立っていた。


 これでクラシック三冠目。

 私はすでにクラシック二冠馬になっていた。

 2歳の時に勝ったG1レースも含めればこれを勝てば四つ目だ。

 

 観衆のざわめきは、波みたいだ。


 近くで聞けばうるさいだけなのに

 遠くからだとただの音になる。


 旗が揺れる。

 人間が叫ぶ。

 金属が鳴る。


 ――いつも通り。


 育成牧場にいたのは私が一歳か、二歳の頃だったかしら。


 朝は決まった時間に起こされて。

 草を食べて。

 友達と喧嘩をして。

 歩いて。

 走って。


 厳しくてでも毎日が同じの穏やかな日々。


 今のこの光景とは、ずいぶん違う。


 ねぇ、お父さん。


 私は、約束を果たしにここまで辿り着いたよ。


 背の上でチモシーの重さがわずかに動く。


 軽い。

 変わらない。


 ――行けるね。


 私は、そう思った。


 ゲートの中は、静かだ。

 周囲の馬の呼吸が聞こえる。


 近くにいる牡馬は、気が立っている。

 別の一頭は、もう脚を使っている。


 焦り。

 緊張。

 勝ちたい……という匂い。


 悪くない。

 でも――


 私は、それを抱えて走らない。


 金属音。


 扉が開いた。


 前に出る。

 出過ぎない。

 下げすぎない。


 ただ、流れに乗る。


 芝の感触は、良い。


 それに――


 雨だ。


 いつの間にか、細い雨が落ちてきている。

冷たくもなく、重くもない。


 たてがみの上をすべって、首筋に落ちる。


 ああ。


 今日は、走れる日だ。

 

 隊列ができる。

 馬群が固まる。


 内。

 外。

 前。

 後ろ。


 全部、見える。


 ――まだ。


 誰かが仕掛ける。

 前が少しだけ速くなる。


 私は、合わせない。


 チモシーも何も言わない。


 風が変わる。

 息が変わる。


 それだけで、

 走る理由は十分だ。


 向こう正面。


 一頭が、無理に上がった。

 別の一頭が、釣られた。


 馬群がわずかに歪む。

 その瞬間に鞭がとぶ。


 ――空いた。


 えぇもちろんわかってますよ、相棒。

 私は、そこに脚を置く。


 力はいらない。

 ただ、通る。


 草が下に流れる。

 風が横を抜ける。


 誰かの叫び声が少し近づいた。


 直線。


 前にいた背中が。

 一つ。

 また一つ。

 下がっていく。


 追われている馬の匂いが濃い。


 ――まだ、脚はある。


 チモシーがもう一度鞭を振るう。


 それだけでいい。


 私は、伸びる。


 無理はしない。

 壊れない。


 ただ、前に行く。


 視界が開けた。

 歓声が割れる。


 後ろは、見ない。


 前だけを見て、私は駆け抜ける。


 ――終わった。


 減速。

 呼吸を整える。


 芝の上に、影が落ちる。


 チモシーが息を吐きポンポンを首を軽く叩いた。


「……やったな」


 声は、静かだった。


 私は、首を少しだけ下げる。


 空は、いつもと同じ色だ。

 

 雨が私を祝福するように優しく身体を撫でた。


 ◇


 ウイニングランが終われば遠くに星の瞳を持つ男が見えた。


 ――私の主に。クラシック三冠馬の栄誉を――

 

 ――これで……約束は果たしたよ。

 ねぇ、お父さん。


 次は……どこまで行こうか。


※完結まで毎日投稿です。

本日、2話投稿、2話目。

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