ホットケーキは思いつかない
「ホットケーキってどう思う?」
「好きやで」
「どれくらい?」
「まぁ、そこそこ」
「地球最後の日に食いたい?」
「嫌、それはないな」
「ないよなぁ?」
「うん」
「やっぱないわ、あの女、ほんまムカつく」
「森下さん?」
「昨日な、真由に地球最後の日何したいって聞いたんや」
「うん」
「そしたらあの女、ホットケーキ腹いっぱい食いたいとか抜かしよったんやで、ひどない?」
「何が?」
「俺という完璧な彼氏がおりながらホットケーキて」
「自分で言いなや、別にええやん、最後に食いたいもんてことやろ」
「そこに俺はおんの?」
「おるんちゃうの、知らんけど」
「ホットケーキに負けた男」
「そんな落ち込まんでも」
「なんやねん、小麦粉で膨らましたもんに負けるとか、有り得へんわ」
「卵も入っとるやろ」
「地球最後の日感ないやん、ホットケーキやで」
「馬鹿にしすぎやろ、美味いやん、お前も嫌いやないやろ?」
「嫌いやないけど、残りの人生でもう食わんでも後悔はないよ、死ぬ時思い出す食いもんではないやろ」
「まぁそうかもしれへんけど、そんな親の仇みたいに言うもんでもないやろ」
「アカン、もうプライドずたずたや」
「お前の聞き方が悪いやろ、何がしたいやなくて、誰といたいって聞いたら良かったやん」
「俺やなかったら立ち直れへんやん」
「どんだけ自信なくしとんねん」
「即座に思いつく?すぐ言うたで。ホットケーキ食いたいって、十七年間これに決めてましたみたいに」
「生まれた時からなんや」
「前から薄情やと思っとったわ」
「めんどくさいな、お前」
「俺なんて四六時中真由のこと考えとるのに、あいつは多分ホットケーキのこと考えとるねん、俺かわいそう。気持ち釣り合わんやん、シーソーやったらガバガバやで、一生上がらんやん」
「そんなわけないやん」
「シュークリームでええやん、焼かんでええんやし」
「そんな問題?」
「どら焼き、バームクーヘン」
「なんやねん」
「焼かんでも食える小麦粉使ったもん」
「もう他のこと考ええや」
「俺は生きとる限りずっと昨日の真由を思い出すわけやで、二人が結婚して子供産まれて爺さんになってもことあるごとに思い出すねん。ホットケーキに敗北した高二の冬を」
「知らんがな、結婚すんの確定なんやな、前向きやなお前」
「当たり前やん、他の男なんかに絶対やらんよ、小麦粉の塊には負けたけど」
「ホットケーキ性別ないからええんちゃう」
「それもそやね」




