1/13
プロローグ ある病
私が生まれる少し前のこと。
世界は、ある奇妙な病気の出現によって大きく変わった。それは酷く奇妙な病だった。患者自身が症状を被るのではない。症状が起こるのはその周囲の人々、いわば世界そのもの。世界のありようを御置き換えてしまうと言っても過言ではない、そんな病。
けれど、私が物心ついたときには、もうその病気の話をする人はほとんどいなかった。怖がるのでも気にかけるのでもない。ただ、どこかに忘れられたかのように。
でも、その病もその患者も、今でも確かに存在している。
その病気の名は存在認識障害症候群――通称、虚構症候群といった。