言いたいことは一つだけです
「そしたらこのタイミングで照明を切り替えてほしいんですけど」
「なるほどなるほど……」
陽大と愛紗は軽音楽部の面々と打ち合わせをしていた。機材の搬入や設置のタイミング、場ミリ作業を行いながらバインダーに記録したり、タブレットで撮影したりしていく。
「アンプってどうやって繋げばいいんですか?」
「このコードをそっちに繋いで――」
愛紗は軽音楽部の部員たちからレクチャーを受けながら、準備を進めていく。そんな様子を見ていた陽大はすこし微笑ましそうに見つめていた。彼の様子に奏美は少し不機嫌そうな顔をして近づいた。
「陽大くん、鼻の下が伸びてますわよ」
「そっ、そんなことないよ!」
振り向き様に陽大は書類をうっかり落としてしまう。慌てる彼をよそに、奏美はてきぱきと拾い上げると、軽く整えてから手渡した。
「あっ、ありがとねえ。かなみん」
「……。ちょっと目を離すと、大変なんだから……」
その時、矢のようなものが彼らの目の前を横切る。そして壁に勢いよく突き刺さった。奏美は恐る恐る見に行くと、矢のようなものが刺さっていた。思わず蒼白した彼女は、その場で倒れこんでしまう。
「竹園! そんな物騒なものを飛ばしたらあかんで!」
「すっ、すみません! ……って、道上先輩! 大丈夫ですか?!」
亮平に怒られながら、翔也が事件現場に駆け付けた。倒れこんだ奏美は、亮平の力を借りながらなんとか立ち上がった。
「高校生でボーガン作るなんて、何を考えているんですの! そんな危険物は認めてないですわよ!」
「すっ、すみません……。解体して片づけますので……」
「当たり前や。奥先や齋藤ちゃんにバレたらたまったもんやないで!」
翔也はそう言いながら壁に刺さった矢を引き抜くと、亮平に連行されながら部室に戻っていった。心なしか翔也の顔は、少し泣きそうな顔をしていた。
「竹園くん、あんなにオドオドしてたのに、イキイキしてるね」
「銃とか作らなきゃいいですけど……」
呆然と二人を見送る彼らの背後から、和信が声をかけてきた。少し息の上がった様子で、かいた汗を首に巻いたタオルで吹きながら、今の状況を尋ねる。
「舞台設営とかスケジュール管理とか、中山さんはさすがだね」
「そんなことないよ。花奈ちゃんがすごく頭の回転が速くて助かってるの」
花奈は無言のまま首を横に振る。美空が彼女を微笑ましく見た後に、ふと辺りを見渡す。
「岡山くんはまだ来ないの? 東山……恒章くんもいないようだけど?」
「あいつは……決闘に行くって言って出てったかな」
*
その頃、恒章は縦砂駅近くにある例の喫茶店の前にいた。いつもであれば、カードショップに行って無双する予定なのだが、今日は少し違っていた。ある人物を待っていたのだった。
「すみません、お呼び立てして」
目の前に現れたのは、舞台創造部の後輩、岡山輝の姿だった。
「別にいいけど」
恒章はそう言って、輝を連れて店内に入っていった。マスターに案内された二人は、奥の部屋に通される。
「こんな洒落た店を知ってるなんて意外ですね」
「うるさい」
メイドたちに促され、席にゆっくりと着く二人。輝は、対応してくれたメイドに軽く一礼をした。
「一つ聞きたいんだが」
「はい」
恒章は一呼吸を置いて、輝にゆっくりと尋ねる。
「俺は和信じゃないぞ」
輝は恒章の顔を一瞥した後、同じようにゆっくりと話した。
「知っています。俺が用があるのは恒章先輩なんで」
そう言って輝はすました顔をしながら、差し出されたミルクティーを一口飲んだ。
「かえって好都合です。みんなの前では、なかなか話ができないことなんで」
輝はそう言いながらまた一口、ミルクティーを口に含む。
「言いたいことは一つだけです」
輝はすっと大きく息を吸った後、息を止める。恒章はなんだか輝が大きな怪物のごとく見えてくる。恒章は思わず体が震えだす。そんな彼の様子に気づかない輝は、一言彼に告げたのだった。
「恒章先輩、舞台創造部をやめてくれませんか」




