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on the stage  作者: すごろくひろ
2年生

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よろしくね

 元は全力で階段を一段飛ばしで駆けのぼる。そして屋上に辿り着くも息が上がってしまう。欄干に寄りかかりながら空を見上げている育の姿があった。物音に気づいた彼は、目を擦って振り向いた。

「なんで来たの」

「……別にいいだろ」

 育は正面に向き直る。元はその場で一瞬立ち止まるも、ゆっくり一歩ずつ前に進んだ。やがて育の隣に来ると欄干に寄りかかった。しばらく無言で立ち尽くす二人の間をじめっとした風が通り抜けていく。

「嫌な風だね」

「格好つけんな、道産子野郎」

「うるさい、さす九」

 いつもどおり二人は互いに憎まれ口を叩く。しかしこの日は何も言葉が続かない。育はなるべく顔を見られないように背き、元はただぼんやりと空を見上げていた。飛行機の音が虚しく鳴り響く。


 すると恒章が屋上にふらりとやって来た。彼は時々こうして一人屋上に立ち寄って物思いに耽るのだ。屋上に入ろうとすると、そこには二人の先客の姿があった。恒章は後輩二人の姿を認めると、静かに扉を開けて物陰に隠れた。そんな彼に二人は気づかぬまま、話を続けていた。

「こんなことに命賭けるなんて、本当くだらねえな。お前んところ」

「負けた以上は腹を括らないといけない。それが僕たちの仕来りでしょ?」

 育はそう言って欄干をよじ登ろうとした。その姿を見た恒章は思わず飛び出して駆け寄ろうとする。しかし、彼の体格が少しふくよかなせいか乗り越えることは儘ならなかった。その結果に安堵した恒章は、また物陰に隠れていく。


「そこまで言って腹を括りたいなら、俺の命令を一つ聞けよ」

 育の様子を見た元は、ある提案を持ちかけながらニヤついた。

「……わかったよ。敗者は勝者に従うっていうのも一理あるしね」

 育は大見得を切って元を挑発する。その行動とは裏腹に身体を震わせていた。もう終わりかもしれない。一生奴隷のようにこき使われるかもしれない。そう考えると、育の頭の中には後悔しか入ってこなかった。

「それじゃ、命令だ」

 元は冷たい声で育に告げる。育は食いしばって恐怖から抗いながら、彼からの宣告を待った。元は右手を大きく上げると、その腕を彼の目の前に差し出した。


「同じ笹床の人間として、俺とも仲良くしてください」

「……え?」

 思わぬ言葉に育は呆然とする。その反応に元は赤面しながらもう一度育に告げる。

「だから仲良くなりたいんだって。何回も言わせるなよ」

「そんなの許されるわけないじゃん。仕来りだって……」

 元はカバンの中から一冊の本を取り出す。それは育も見覚えがあるものだった。

「これって、ご先祖様の本?」

「ここ見なよ」

 育は促されるように付箋で貼られた部分を開くと、示された部分を読み進めていく。「『いずれ雪解けの日を迎える時が来れば、それを受け入れてまたともに歩むべし――。』これって……」

 育は思わず涙を流すも元と顔を見合わせた。元の目からも同じように一筋の涙が流れていた。

「これを機に名コンビになるしかないな。東山先輩を超えるような。」

「そこまで言われたら、仕方ないね」

 二人は改めて右手を差し出し、互いの掌を握り合った。


 恒章は二人の生末を見守ると、静かに屋上から出ていく。階段を降りようと生徒たちの賑やかな声が聞こえてくる。恒章は思わず物陰隠れて、息を潜めることにした。

 やがて下の踊り場には、ほかの一年生部員が続々とやってくる。そして、元と育が屋上から出て来たところで、竹園が二人に声をかけた。

「元くん、育くん! 一緒に帰ろう!」

 ほかの一年生も二人を見守ったり手を振ったりしながら、二人が下りてくるのを待っていた。元はにこやかに元気よく答える。

「……おう! 今行く!」

 そう言って元は階段を降りようとする。一方で育は立ち止まったままだった。どうやら躊躇しているらしい彼に元は声をかけた。

「いいから行こうぜ。お前がいないとやっぱ楽しくないしな」

 そう言って元は育の腕を掴んで一年生たちのもとに降りていった。そのとき、育は彼に引っ張られながらも、少しだけだが無意識に表情が緩んでいたのだった。


 一年生が去ったのを確認した後、恒章は物陰から現れる。

「……よかったな」

 恒章は優しく微笑みながらも小さく呟いた。そのとき聞き覚えのある大きな声が、恒章の聴覚を突いてきた。

「なんだかんだ言って心配性だなあ、恒章は」

「……お前いつからいたんだよ」

 反対側の物陰から和信が姿を現した。恒章は思わずムスッとした表情で彼を出迎える。

「ずっと前から。僕も部長としての責務がありますから」

「嘘つけ。その責務は今日ここで使うべきじゃないだろ」

「まあまあ、でも良かったじゃないの」

 和信はあっけらかんと

「あの二人ってさ……」

「似てません」

「僕、何も言ってないよ」

 和信の言葉が鉄砲玉のように恒章を喰らっていく。そして恒章は顔を赤くすると、勢いに任せて和信に喰ってかかった。

「うるさいな、先帰るから!」

 そう言って恒章は、和信のもとから離れると一目散に逃げだした。

「僕たちの雪解けは、いつになるかなあ……」


 *


「どうぞ」

 生徒会室の戸が開く。入ってきたのは、土呂と亀田と美空と七菜香の四人だった。七菜香は、生徒会長の席に勢いよく向かって行くと、机に手を置いて奏美を捲し立てる。

「あんただったのね」

「何のことでしょう? 私は忙しいので構っている暇なんてありません」

 奏美はツンとした表情をしながら、机上の書類ファイルを棚にしまう。

「全部わかってんの。あたしたちの舞台に――」

「言いがかりをつけるなら邪魔なので、お帰りくださいな」

 二人の応酬に土呂や亀田は間に入り何とか二人を引きはがしたものの、張り詰めてしまった雰囲気にたじろいでしまった。

「ちょっと待って」

 美空は精いっぱいの声を上げた。

「私たち、道上さんにお礼が言いたくて来たの」

「記憶にございませんわ」

「亀やんから聞いたで。陰でいろいろと動いてくれたってな」

 奏美は亀田の方を一瞥する。亀田は彼女の視線に気づくと、にっこりと笑顔で返した。奏美は彼の姿を見た後、落ち着いて淡々と告げる。

「……私は生徒会長である以上、頑張っている生徒に協力は惜しまないポリシーがあるだけですわ」

「だから、あたしはあんたに謝りに来たの」

 突然のことに目を丸くする奏美であった。しかし七菜香は気にせずに、言葉を続ける。

「あたし、あんたのこと誤解してた。だから、嫌な態度とってごめんなさい」

 七菜香は深々と奏美に頭を下げた。続けて土呂や美空、そして亀田も一緒に美空に頭を下げる。四人の様子を見た奏美は、頭を上げるように言った。

「……私も、人を見る目を養わないといけませんわね。そのせいで嫌な思いをさせましたわ。お詫びいたします」

 また、奏美も上品にゆっくりと頭を下げたのだった。そして亀田が彼女に尋ねる。

「かなみんも一緒に部活やらない? VTuberのこととかも勉強したいし!」

「その話は秘密ですわよ、陽大くん」

 奏美は亀田に釘を刺すも、三人は奏美が学校で密かに練習や配信していることを既に知っていた。

「奏美ちゃんが入ってくれれば、活動の幅も広がるね」

「いっそここまで来たら、一緒にやらんか?」

 嬉々としている四人の姿を見て、奏美はこう言った。

「そしたら不束者ですが、よろしくお願い申し上げますわ」

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