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on the stage  作者: すごろくひろ
2年生

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確執の所以

 「『確執』……ですか?」

「うん。二年生はある程度は調べたけどね。やっぱり本人の口から聞きたいの」

 美空は追及の手を緩めない。一年生の竹園、花奈、愛紗も育のほうをじっと見つめていた。育は視線に耐え切れず黙って出ていこうとした。

「育くん、だめだよ」

 ドアの前では、亀田が両手を伸ばして育の行く手を阻もうとしている。育は彼を避けようとするも、より大きな図体の亀田の前には、力も及ばなかった。

「亀田先輩、あまり触れたくないんです。この話は……」

「気持ちはわかるよ。でも――」

「いい加減にしてください! 勝手に人の家の事情に首を突っ込まないでください! みんなには関係ないじゃないですか!」

 育は思わず声を荒らげる。シーンとなるその場に誰もが呆然とするばかりだった。育は気を取り直すと、すみません。とか細い声で謝った。

「……話さなくていいと思う」

「東山くん?!」

「恒くん?!」

 美空や亀田の反応をよそに、恒章は育にそのまま話を続ける。

「あまり自分の過去とかって話したくないもんな。俺も中学時代のこととかほじくり返されたくないし」

 恒章の言葉に育は黙ってゆっくりと頷く。

「あのバカとの喧嘩に部員を巻き込んでいた自覚はあるだろ? その責任があることは肝に銘じとけよ」

「……そうですね、わかりました」

 そして全員が席に着くと、育はゆっくりと話し始めた。


 とてもとてもはるか昔の話。近畿地方のある地域に笹床家という商人がいたらしい。かなり裕福だったその一家には十人の子どもが生まれたものの、戦争や病気でその多くは早世した。生き残った二人兄弟は、たいそう可愛がられながら仲良く育ったそうだ。

 しかしあるとき、両親を流行病で亡くしてしまった兄弟は、それぞれ別々の親戚に引き取られる。その親戚同士は仲が悪く、家業の方針で対立しはじめる。しだいにそれは激化していき、町中を巻き込んだ争いにまで発展したそうだ。その戦禍で生き残ったのは、二人兄弟とその使用人たち数名だけだった。

 二人は互いのことを恨みながら、兄は九州・福岡へ、弟は北海道・札幌へと別れたとのことだった。そして、数百年の時を経て、互いに遺恨を残しながら今に至る。ということらしい。


「でも、いつわかったの? ゲンゾーくんがその子孫だって」

 竹園がメモを取りながら、育に質問していく。

「入学式のとき。僕のクラスに和信先輩と中山先輩が来たときにね」

「笹床って苗字ってあまりいないの?」

 続けて花奈が育に質問する。

「北海道と九州に一世帯ずつしかいないって聞いてる」

「なんか運命感じちゃうなー。これを機に育くんたちが和解? 仲良くなれば、さもはや快挙じゃない?」

 愛紗が育に問いかけるも、育はその内容に難色を示すような表情をする。

「いや、無理だよ。性が合わないし」

「……」

 恒章は一年生の四人のやり取りを見ているうちに、ついに黙り込んでしまった。

「どうしたの、東山くん?」

「いや、ちょっとね……」


 *


「恒章くーん?」

「気持ち悪いからやめろ」

 和信は帰りの電車から降りた後、改札で見かけた恒章に声をかける。

「って後ろから抱き着くなよ。最近、スキンシップが激しい」

「まあまあ落ち着きなって」

「お前が落ち着け」

 恒章は嫌々ながら身体を揺すって和信を振りほどく。和信は彼から離れると、恒章から頭にゲンコツを喰らう。

「痛いよ。もう少し加減してよ」

 和信が文句を言うもスルーして家路に向かう恒章。数分歩いているうちに、あることに気づいた。

「って、逆じゃねえか。いつも殴られるのって俺なのに」

「……そういえば、そうだね」

「変なことして雨とか降らすなよ?」

「……」

 冗談交じりでそう告げる恒章だったが、珍しく和信が無表情で黙ってしまっていた。しばらくの間、二人とも会話することなく並んで歩いていたが、家の玄関前に着いた途端、恒章は沈黙に耐え切れなくなり、思わず和信に問いかけた。

「お前、何かあった?」

「い、いや……。別に何も……」

 和信は少し目くばせするも、そのまま家へと入ってしまった。

 二人は夕食を済ませると、それぞれの部屋に向かう。恒章はゲームを一時間ほどした後、数学の宿題に取り組む。三角関数の和積の公式などが恒章の頭の中に飛び交うも、なかなか解くことができない。

「困ったときの和信様だな」

 そして恒章は、和信の部屋に向かおうとドアを開ける。

「あっ」

「あっ」

 目の前には、同じく自室のドアを開けて出ようとした和信の姿があった。思わず目を合わせて動かなくなってしまう二人。

「……数学教えて」

「じゃ、こっち来る?」

 恒章は和信から教えを請いながら、三角関数の問題を解いていく。しかし、いつもの和信には見られないため息などが気になって仕方がなかった。

「……やっぱり何かあった?」

「……」

 和信は黙ったまま動かなかったが、やがて恒章に尋ねる。

「そっちはどんな感じ? 青軍」

「中山さんがブチ切れた」

「なんでよ」

 和信は思わず吹き出してしまった。美空が怒った原因について恒章が離すと、和信はさらに笑い出した。その後は一年生の四人が会話するようになったこと、育が元との確執の経緯について話したことなどを伝えた。

「とうとう育くん、自分で言ったんだね。でもいいなあ……」

「いいなあってどういうことよ?」

和信はハッとして思わず口を閉ざしてしまう。恒章は容赦なく和信を見つめる。すると観念したのか、和信はぽつりぽつりと話し始めた。

「こっちはなんかねバチバチなんだ。まあそれはいいんだけどさ……」

「何だよ、はっきりしろよ」

和信の要領を得ない内容に、恒章は少し苛立ってしまった。

「今日喧嘩しちゃったんだよ。衣絵ちゃんと暖乃ちゃん」

「なんでその二人が?」

 恒章は思わず耳を疑った。

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