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on the stage  作者: すごろくひろ
2年生

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空白を埋める

 夕食時、和信と恒章は両親とともに顔を合わせる。テーブルの上には、二人の大好物のステーキとサラダが置かれていた。和信は嬉しそうに、恒章は息を飲みながら今か今かと待ち構えていた。

「いただきます」

 こうして二人はステーキにがっついていく。職に対して徐々に勢いを見せる二人に、両親は思わず吹き出していた。

「いやあ、こうしてまた四人で食えるとはなあ」

「本当よね。和信はお仕事で忙しいし、恒章は部屋から出てこないし」

 和信は笑いながらそうだねと答える。

「そういえばこないだ部室掃除してたら、昔の日誌を見つけたんだけどさ……。父さんも母さんも、舞台創造部みたいなとこ居たんだよね? 港山の」

 恒章の手が思わず止まる。

「そうだな。と言っても、父さんは落語研究部、母さんは演劇部ではあったけど」

「……俺、退部届出そうかな」

「ちょっとやめてよ」

 和信は頬を膨らませて恒章に言う。恒章は少し面倒くさそうにしながらも、軽く和信の頬にパンチを喰らわせる。しかし和信は負けじと頬で押し返していた。そして思い出したかのように、両親に話を振った。

「昔って、どんなことやってたの?」

「なんでもありだったな。落語もやったし、同級生と漫才もやったし」

 和信は両親の話に聞き入っていた。

「そうそう。言い忘れてたけど夏休み終わったら、菜心なこがウチに戻ってくるからな」

「え?」

「なんで?」

 思わず目が点になる和信と恒章。ちなみに菜心というのは和信と恒章の妹である。彼女もまた和信と同じく天才子役と評されていたが、彼以上にドラマに引っ張りだこな上、成績も全国レベルで優秀という才色兼備の持ち主だった。父の話によると、アメリカに留学していた二人の妹が港山高校に進学を希望しており、夏休み以降に戻ってくるとのことだった。

「もし菜心も合格したら、みんな港山なのねえ」

「一家で同じ高校で同じ部活になれば、テレビの注目を浴びるだろうなあ」

 そんな両親をよそに恒章は一つの疑問を抱く。

「なんで日本に戻ることにしたの? なんかもったいないじゃん」

「私もそれは思うわよ。どうしても港山でやりたいことがあるんですって」

「やっぱ天才の考えることはよくわからないなあ」

 父の反応とは違って、恒章は少し冷めた顔で、へぇ。と空返事した。

(悪かったですね。俺はできが悪くて)

 恒章は心の中でそう呟いた。一世を風靡した元お笑い芸人の父、圧倒的な演技で名を轟かせた元舞台女優の母、天才子役と称された兄と成績優秀な人気子役の妹。恒章はその中に自分がいることに、なんとなく虚しさを感じるようになっていった。行き場のない少しのモヤモヤが恒章を苦しめていく。

「—―ね……。恒章!」

「あっ……えっと……?」

 和信の大きな声に、恒章は思わずビクついてしまった。そんな彼に父は声をかける。

「恒章も高校で勉強頑張ってるそうじゃないか。和信とも一緒の部活で楽しめてるようだし」

「いや、楽しいってわけじゃないよ。和信がドヤ顔で仕切ってるのは、見ててなんかムカつくし」

「うるさい。授業中に寝たりゲームしたりして怒られてるくせに。こないだなんか、僕が怒られたんだからね」

 和信の爆弾発言に、母の顔がだんだんと般若と化していく。

「恒章? どういうことかしら」

「ごちそうさまでーす」

 恒章は危険を察知して、すぐさま逃げ帰るように部屋へと向かった。

「あっ、僕も宿題やらなきゃ」

 和信も恒章の後を追って二階へ上がっていった。部屋の前まで行くと、恒章の姿があった。潜り抜けて自分の部屋へ向かおうとするも、恒章に通せんぼされる。

「さっきはよくもやってくれたな」

「いやいや、事実を言ったまでよ」

 和信は恒章から視線を少しだけ逸らす。

「それより勝手に道上さんに変なこと頼んだでしょ。亀田くんと」

「いろいろあったんだよ……」

「僕ってそんなに頼りないかな?」

 和信は語気を強めて恒章に言う。

「……別に?」

「じゃあ、なんで勝手なことを――」

「お前だって勝手なことしすぎだろ」

「……」

 恒章も負けじと語気を強めて和信に言い返す。思わぬ反撃だったのか、和信は黙りこくってしまった。その落ち込みようを見た恒章の口から思わず言葉が出た。

「ごめん。言い過ぎた」

「別にいいよ」

 和信はそう言うものの、一向に落ち込むばかりだった。

「えっとさ……。みんな部活もお前も好きなんだって」

「だったら一言言ってくれたっていいじゃん」

「変に責任感じて無理するじゃん」

 恒章の言葉に、和信は思わず目を見開く。そしてゆっくりと溜息を吐いた。

「生まれて初めて、双子って嫌だって思ったよ」

「お前が言うな」

 恒章が思わず突っ込む。

「やっぱり恒章が羨ましいよ」

「どの口が言うか」

 つっけんどんな恒章の反応に、和信は少し苦い顔をするがふと思い出したかのように呟いた。

「あっ……、そういうことか」

 そして恒章の方を見つめてこう言った。

「恒章、ちょっといい?」


 *


 数日後、舞台創造部の部員達に台本が配られた。一年生は少し期待を抱きながら、台本を眺めていた。

「あれ? 何も書いてない……?」

「対決シーン未定って……?」

 花奈と岡山がその異変に一早く気づいたようだった。そして、つられるようにほかの部員たちもその部分を確認する。ざわつく中、和信は部員たちにこう答えた。

「その対決部分については、当日のお楽しみ。チームごとで作戦を練って稽古してもらうね。それまでその部分は内緒ってことで」

「えっ、じゃあアドリブでってこと?」

 七菜香が和信に尋ねる。

「各チームで作ってもらうことにしたよ。な、恒章?」

 恒章は部員たちから視線を浴びたせいか、思わず顔を強張らせる。

「笹床くんたちがその場で決着つけたいなら、そうするしかないってこと」

 全員がそういうことかと納得した表情を見せる。元と育はバチバチと視線を交わしていた。しかし、そんな中でも暖乃だけが首を傾げていた。

「でも、それでいいんでしょうか……。部活を道具にしているようで私は嫌です」

「俺たちが決めたんだ。部外者は口を出すなよ」

「これ以上、僕たちのせいで迷惑かけるわけにいかないからね」

 元と育の勢いに圧されて、暖乃は引っ込んでしまった。


 その後、全員で発声練習や基礎トレを行った後、二チームに分かれて稽古をすることになった。この日は和信たち赤軍が講堂へ、恒章たち青軍が部室で練習することになった。

「育くんはどうしたい?」

 美空が育に尋ねていく。

「……正直、元を完膚なきまで潰したいですね」

「そうじゃなくて、対決の内容よ」

 美空は少しコケながらも、改めて今作の流れを確認する。今回の台本では、先鋒は二年生が三人ずつ、次鋒は一年生が三人ずつ戦い、最後に大将戦で育と元が戦う流れになった。

「僕は恒くんと漫才することにしたよ。和くんと亮くんには負けたくないからね」

「中山さん扮する『紙芝居おばさん』が僕たちを召喚するって感じでいいんじゃないか?」

「ねえ、『おばさん』ってどういうこと?」

 美空が恒章と亀田に冷たい声で二人に語り掛ける。二人はヤバいと思いながら互いに顔を見合わせる。

「別室で話しましょ?」

「はい……」

「すみません……」

 美空は、恒章と亀田を連れて隣の部屋へ移動していく。少し怒りに満ちた彼女とは反対に、恒章と亀田は顔を真っ青にし、いかにも処刑間近で怯えている囚人のようだった。

「一年生でちょっと話しててねー」

 二人を廊下に出した後、美空は力強くドアを閉めた。一年生の育や竹園、花奈と愛紗は、先輩たちの様子を呆然としながら見ていたが、しばらくして愛紗が育に話しかけた。

「育くんはさ、どうしてこの部活に入ったの?」

 育はしばらく考え込むと、ゆっくりと答えはじめた。

「歌で日本一を取りたいから。その憧れてた先輩を追っかけて、この高校に越県入学したんだ。でもその人はいなくなっちゃったけどね」

 すごいね。と竹園がその言葉に返す。

「僕は育くんみたいに才能もないし、元くんみたいに自信持ってないし、輝くんみたいに全体を見渡せないし……。できることがなくて嫌になるんだ」

「……そう思うなら、なんで無理してまで部活やろうとするの? 苦しくないの?」

 育の言葉に竹園は少し表情を曇らす。しかし、自分のカバンから棒のようなものを取り出すとそれをおそるおそる育に手渡した。

「これ……、横のボタンを押してみてくれないかな?」

 育は促されるがままにそのボタンを押す。すると上部の蓋がぱかっと開き、マイクらしきものがポンッと勢いよく出てきた。

「うおっ! びっくりした……」

「僕、こういう仕掛けじみたものが好きでさ。おもしろい小道具とか作ってみたかったんだよね」

 三人は思わず拍手を送っていた。

「竹ちゃんにこんな才能があったとは……!」

「すごいじゃん」

 愛紗と育の思わぬ誉め言葉に、竹園は表情が明るくなる。そして食い入るように二人にもう一度尋ねる。

「本当? お世辞じゃない?」

「そんなことないよ。私にはできないから、そういうの羨ましいって思う」

 花奈は静かに笑った。

「でも花奈ちゃんって帰国子女じゃん! 外国語とかペラペラだし、頭いいし、いいなあって思うよ」

「あまり日本語とか得意じゃない。愛紗みたいに誰とでも楽しく話せないし、凝った動画編集とかもできない」

「あれは趣味の延長だよ。調子乗りすぎて怒られちゃうけどさ」

 そしてだんだんと四人の中で、自分たちの好きなことやら趣味やら話が広がっていった。最初はぎこちなかったものの、次第に表情も和らいできて、気づけば三十分ほど時間が経っていた。

「意外とみんなのこと見えてなかったんだな……」

 育は今の時間を通して、初めて舞台創造部での楽しさを感じた。それとともに少し胸がキュッときつく感じたようだった。そのとき、二年生の美空と恒章、亀田の三人が戻ってきた。二人はかなり絞られたらしく、半泣きの状態だった。

「お疲れ様です……」

 四人は少し引きながらも、そう言うのが精いっぱいだった。

「口は禍の元……。気をつけないと大変な目に遭うからね……」

 亀田の言葉に美空は笑みを浮かべる。亀田は彼女から殺気を感じたのか、再び顔を下に向けることしかできなかった。

「そうだ、育くん。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかな?」

「何をですか?」

 育は首を傾げながら美空に尋ねた。

「この台本の『鍵』であろう、君と元くんとの確執について教えてもらえないかしら?」

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