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on the stage  作者: すごろくひろ
2年生

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53/64

大将の首

 発声練習や柔軟体操、休憩時間を迎え、恒章はそっと部室から出ていこうとする。和信は彼を見止めると、その後をすぐに追いかける。そして恒章が外に出た瞬間、彼の左肩につかみかかった。

「恒章」

 恒章は、少し面倒くさそうな顔をしながら、くるりと和信の方へ振り向いた。

「お前の独擅場がどうしても許せなくてな」

「いや。僕、部長だからね?」

 和信の物言いに少し眉を顰める恒章。

「その口ぶりでいつも思うんだけどさ。お前にとって俺は、ただの役立たずな弟だと思ってるのかしら?」

「いい加減に自ら貶めるのはやめろって言ってんじゃん。それに部長ってのはね――」

 互いに頬をつねり合う東山兄弟。竹園と愛紗が部室から出ようにも出られず、陰から覗くしかなかった。土呂が二人を呼ぶ。

「篠原、これでちょっと撮ってみ? 一分だけでいいから」

 土呂はそう言って愛紗にビデオカメラを手渡す。愛紗は言われるがままにその一部始終を撮影した。そして戻ってくると、竹園にサウンドトラックが入ったCDを持って来させ、適当にBGMを選ばせる。

「ええか? さっきの映像にBGMを鳴らすと……」

 小さめな音で某刑事ドラマのBGMが流れ始める。

「すごい。バトルって感じですね」

「あはは! なんかギャグシーンみたいでおもしろい!」

 二人の様子を見た土呂はこう答える。

「せやろ? 使いようによっては印象も変わるねん。おもしろいやろ?」

「土呂ちゃん?」

 三人が振り向くと、そこには和信が戻ってきていた。

「ひーやん、休憩は終了や」

 土呂はそそくさとその場から逃げて練習の準備をし始める。和信は彼を追従しながら、机を寄せたりなどして彼を手伝っていく。その様子を見た一年生たちは、急いで彼らに声をかけて、準備を手伝っていた。

「……」

 しかし、育はその最中で、ある動画に目を留めていた。先ほどの和信と恒章の言い争いの動画であった。思わず手を留めた育は、その様子を静かに見ていた。

「育くん、もうすぐ練習始まるよ」

「はい、今行きます」


 その一方、恒章は和信に置いてきぼりにされたものの、思い出したかのようにトイレに向かう。用を済ませて部室に戻ろうとしたその時だった。

「お前、何してんの?」

「おっ、久しぶりだな」

 ボドゲ部の山口が通りがかりに声をかけてきた。

「たまにはこっちに来いよ」

「ごめんって。ってか今日はどうなの?」

 恒章は山口に手招きされると、ボドゲ部の部室を覗いた。そこでは元が数々のボードゲームを無双しており、満足げな顔を浮かべていた。対照的に、ほかの部員たちが打ちひしがれていた。すると、元は恒章の姿に気づくと、大声で彼に呼びかける。

「東山先輩、早く来てくださいよ! 勝負しましょ!」

「今日は舞創なの。ってか、お前練習前には戻ってくる約束だったろ?」

「いっけねっ!」

 元は恒章の言葉を聞いて時計を見るや否や、大急ぎで荷物を片づけたと思うと、その場で着替え始めた。今日は女子部員がいないのが幸いしたのか、すぐに着替え終わるとボドゲ部を後にする。彼が去った部室を見ると、ボドゲ部員は少しばかり安堵したかのように見えた。

「大丈夫か?」

 恒章は、近くにいた一年生部員に声をかける。すると急に顔がくしゃくしゃになり泣き出してしまった。恒章は部員を宥めていく。

「東山先輩がいないと……、今の部活は正直おもしろくないっす」

「えっ……、どゆこと?」

 恒章が尋ねるも、山口は少しバツが悪そうにしながらも彼を廊下へ連れ出した。その後、恒章は山口からその原因について語られると、思わず頭を抱えてしまった。その様子に山口はすまんなと謝る。

「恒章先輩、もうすぐ休憩終わりですよー」

「今行くねー」

 暖乃が恒章に声をかけると、隣にいた山口と目を合わせた。

「……」

「……」

 暖乃は山口を一瞥すると、すぐさま部室へと戻っていった。

「山口、暖乃ちゃんと知り合いなの?」

「妹」

「あっ……」


 *


 恒章が舞台創造部の部室に戻ると、既にチーム分けがなされていた。青チームと赤チームに分かれて劇中で対決するコンセプトとなった。学年ごとにくじ引きをした結果、恒章は青チームに決まった。そして各チームが部室の端と端に分かれてると、くじ引きで大将役を決めていく。青チームは元が大将役になった。声こそあげなかったものの、元はにんまりとガッツポーズをしていた。

「それじゃ、大将は顔合わせしようか」

 和信の声に呼ばれて、元は立ち上がった。そこで彼と対峙したのは、同じ名字の育であった。

「……君には絶対負けないから」

「俺の勝利は目に見えてるがな」

 敵愾心を向ける育に対して、自慢気に煽る元。その様子を見て、ほかの一年生たちは、内心ハラハラとしていた。

「じゃあ、もし負けたらどうする?」

 元の問いに育は少し考えると、こう答えた。

「……負けたチームの大将はこの部活を辞める。笹床は二人もいらない。それでどう?」

「いいぜ。敵を討ち取るみたいでおもしろいしな。受けて立つぜ」

 その後、部内が紛糾したのは言うまでもなかった。考え直せという声も上がる。しかし二人は引き下がる気配はなかった。結局、和信たち二年生の説得の甲斐なく、どちらかの退部を賭けることになってしまい、そのまま下校時刻を迎えてしまった。

「気軽にそんなこと言っていいのかしら? やっぱりあの件が原因なのかしら」

 美空が不安げに二年生全員に尋ねる。

「もうさ、本人たちがそう言うならそうするしかないんじゃない?」

「恒くん、それは無責任だよ」

 和信の答えに対して亀田は少し呆れながら返す。そんなとき、ふと和信が呟いた。

「僕は辞めてほしくないかなあ……。二人とも」

「あんなに暴れん坊なのに?」

 七菜香は和信に尋ねる。

「そうだね……。それでもやっぱり――」

「あ、忘れ物した。先行ってて」

「僕も行くよ」

 恒章は和信から部室の鍵を借りると、亀田とともに急いで部室へと戻っていった。忘れた漫画とカードデッキを見つけると、それをカバンにしまって一階へ下りていく。その道中、一階にある特別スタジオに目が入った。その窓を覗くと、見覚えのある女子生徒の姿があった。

「あれ、生徒会長……? 何やってるんだろ」

「この部屋、確かモーションキャプチャーあるんだよね」

「なんでこの学校って凝った設備があったりするの……?」

 ピロンと恒章のスマホの通知が鳴る。以前見ていたVTuber・みっちーの久々の配信通知だった。恒章は意気揚々とその画面を開く。

『みんなー、お久しぶり!』

 恒章は、画面に向かって思わず手を振った。亀田の視線に気づいてふと見上げると、奏美も同じように手を振っているのが見えた。恒章は、彼女と画面を見比べながらその部屋のドアを開けた。奏美は思わず固まると、ゆっくりと恒章たちのいる後方へ振り向いた。そして、画面の中のVtuberも後ろに振り向いていた。


「……」

「……」

 奏美は配信を切ると、恒章と亀田を部屋に招き入れた。二人は隣の音響ブースにある椅子に腰かける。数分後、奏美もそのブースに入ってきた。

「あっ、あの……」

「何か?」

 恒章は少しぶっきらぼうに答える。

「このことは、ほかの方には内緒にしてくださいませんか?」

「別に言いふらすつもりはないけど、何で?」

「……『生徒会長』だから、知られるわけにはいかないのですわ」

複雑そうな顔をする恒章だった。その一方で奏美は、ぼそりと何かを呟いていた。

「かなみん、モーションキャプチャー使いこなせるなんてすごいよね! 生徒会の学校紹介の動画作るために頑張ってたの?」

思わず目が点になる恒章と奏美だった。どうやら彼の中では、すごい機材を使えるこを隠していた程度にしか思えていなかったようだった。奏美は少し胸を撫で下ろしていた。

「じゃあ、条件あるんだけどいいかな?」

 奏美は亀田の声を聞くと、ゆっくりと顔を上げた。そして亀田は彼女に向き直ると、真剣な眼差しを向けてこう告げた。

「かなみん、僕たちを助けてほしいんだ。舞台創造部を」

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