次の方針
「二チームに分かれて対決しようと思うんだ」
「へえ……、それはおもしろそうだねえ」
亀田はにこやかに頷きながら拍手する。美空は少し首を傾げていた。
「……」
「中山さん、どうしたんや」
「うん、東山くんにしては珍しいやり方だなって思って」
「そんなことはないよ。人数的にも対決形式にしてみたほうが話題になるかなって思ったんだよね」
和信の言葉を聞いた恒章は、彼に少し鋭く視線を向ける。彼も美空と同じような違和感を感じたからだ。
「本当にどれだけ? 他にも理由があるんじゃない?」
「いや? ただの気まぐれだよ」
和信はそう言って鼻歌を歌いながら背を向ける。美空は少し納得のいかない様子だったが、これ以上追及しても仕方ないと思ったのか。
「そっちの東山くんが隠したとしても、こっちの東山に聞けばわかるんじゃない?」
七菜香は恒章に話を振る。和信を除く全員が恒章に視線を向けた。恒章は一瞬目を見開くも、訝しげに答えた。
「あいつと一緒にしないでくれよ」
「双子だからテレパシーあんでしょ?」
「二卵性だしわかんないって」
「うそだあ!」
七菜香は思い切り立ち上がると、和信に呼びかける。
「そうだよ。二卵性双生児」
「……そっかー。残念」
七菜香は少しがっかりしながらも、ゆっくりと椅子に座った。すると、美空が思い出したかのように話し始めた。
「そういえばさ。ゲンゾーくんといくまるくんって。なんか昔の東山くんたちに似てる気がするんだよね」
「似てない! 絶対似てない!」
「かっ、亀やん……?」
亀田が声を張り上げて否定した。隣にいた土呂をはじめ、二年生全員が思わず身体をビクッとさせてしまった。亀田は気を取り直すと、周りが驚いた様子で自信を見つめていることに気がついた。
「……あっ、ごめん。でも恒くんと和くんよりも不仲度が高いというか」
「あれは東山が一方的に嫌っていたっていうか」
七菜香の発言に、恒章は思わずしかめっ面になっていた。和信はそれを見ると、慌てて話の舵を切る。
「まあまあ、今は笹床くんたちの話をしないと。亀田くんが言うように、確かに二人の間に確執があるのは確かだね」
「こないだも九州の荒くれ者とか、蝦夷の気取り屋とか言って喧嘩したらしいで」
「笹床……、対立……」
恒章は何かを思い出したかのように、スマホであることを検索していた。そしてネットの電子辞書的なWEBサイトを開く。そしてある記事を見つけると、恒章は二年生のチャットグループにURLを送信した。
「もしかしたら、これかもしれない」
そして二年生たちは、恒章が送ったその内容を確認していく。ある記事を見た途端、みな少し納得したように感じられた。
「これは根深いね……和くんと恒くん以上に」
「亀田氏、それは言わないで」
そんな中、和信はあることを確信していた。
「これは、もしかしたら使えるかもしれないな」
二年生の中で今後の方向性が見えてきた頃、部活の時間は終わりのチャイムを迎えた。下校時刻になり各々が家路につく。東山兄弟は電車を乗り継いで、いつもの最寄り駅で降りて、改札を抜けていった。しばらく無言になりながらも並んで歩く二人だったが、やがて恒章が口火を切った。
「お前さ、やっぱ気まぐれって嘘だろ」
「さすがですな。恒章くん」
「……やっぱり、お前嫌いだわ」
にこやかに返す和信とは対照的に、恒章は怪訝そうに彼を見つめていた。和信は恒章の表情を気にすることなく、このまま続けて言った。
「その割にはこっちに来てんじゃん。ボドゲ部はどうしたの」
「……」
和信の言葉に恒章は思わず口を真一文字に結んでいた。
「今は、俺のことはいいだろ。それよりさっきの話!」
「……笹床くんたちを今のまま一緒にするのは危ないと思うんだ」
「アイツらを一発退場させればいいだろ」
恒章の言葉を受けて、和信は思わず豆鉄砲を喰らったような表情を向けた。
「結構辛辣なこと言うね……。片っぽはボドゲ部でも先輩なのに」
「あとは察してくれ」
「でもそれは職権乱用だから、逆に部活がなくなっちゃうからダメ」
「頭固いな」
和信は少し首を傾げながらも、恒章にこう返した。
「別に? 僕はありのままで生きてるだけだよ」
和信はそう言って、恒章よりも先に歩いて行ってしまった。
「お前のありのままって何なんだよ……。そんなの見たことねえよ……」
和信に対してそう思いながら、恒章はその後を追うように家路につくのだった。
*
次の日の放課後、部員全員が舞台創造部の部室に集まる。開始前に、岡山が話があると言って和信から時間をもらうと、一年生から謝罪があった。
「先輩方、昨日はすみませんでした」
岡山の言葉に続いて、残りの一年生も全員が頭を深々と下げた。向かい側にいる二年生は、部長の和信の方に視線を向けた。和信は少し驚きながらも、ゆっくりと一年生に冷たい声で告げた。
「こんなことは二度と起こさないように、全員反省してください」
小さくなりながらも一年生は、もう一度頭を下げる。二年生はその様子を見届ける。そして和信は、一年生に頭を上げるように言うと、いつもの明るい調子で
「じゃ、今回の方向性について軽く話すね」
と話を進めていった。今回は部員を二チームに分けて、チームごとに発表を行う。二作品見たお客さんにどちらのチームが良かったかを判定してもらい勝敗を決めるという流れになったことを話した。一通り話した後、花奈が手を上げた。
「あの……。実は、齋藤先生から去年の『詩のボクシング』をやったっていうのを聞いたばかりで……」
花奈の言葉にみな耳を傾けていく。その様子に少し安心したのか、
「もし先輩方が許してくださるなら、二チームバラバラで対決するんじゃなくて、対決勝負型で一つの作品をやることはできないですか?」
「昨日と同じことが練習中に起こらない保証はできるのかい?」
「……」
花奈が和信に気圧されて、黙りこくってしまう。しかし、なんとか負けじと視線を逸らさないでいた。そのとき、岡山が彼女に加勢した。
「先輩方がそう思うのはわかります。でも自分たち一年生がこの問題から逃げているようで、たぶん後悔すると思うんです。絶対、先輩たちを後悔させませんので」
「……岡山くんと赤坂さんしかしゃべってないけど、ほかの六人はどうなの?」
「……」
ほかの一年生は岡山と花奈のほうを見守るばかりで、誰も口を開こうとはしなかった。
「部長だから厳しいこと言うね。正直、一緒に活動するほうが――」
「今から和信が台本書き直してくれるから心配するな」
和信に割り込んだのは恒章だった。思わぬその発言にみな恒章の方を向いた。
「つっ、恒くん?! 今からはちょっと無理じゃないかな」
和信の表情を窺いながらも、亀田は焦って恒章を止めにかかる。
「天才子役だった部長ならきっと大丈夫だろ。な、和信くん?」
恒章は煽るように和信に向けてピースサインを送る。和信は少し苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。その一方で一年生は、少しずつ表情が明るくなっていく。
「そうなったら私も手伝うし、大丈夫だよ」
「そうそう! 勝っても負けても東山は罰ゲームってことなら、東山くんも納得してくれるかな?」
美空と七菜香も恒章に加勢するような形で、和信に追い打ちをかける。恒章は七菜香に抗議するも、受け入れてもらえなかった。
「一年たち」
突然、土呂が一年生に向けてぴしゃりと声をかける。
「ひーやんは真面目過ぎて怖いって思ってるかもしれへんけど、何で怒っているのかとか、どうしてこんなこと言ってるのか考えたことあるか?」
戸惑う一年生。土呂は一年生各々の様子を認めると、続けてこう言った。
「好き嫌いで動く人間やない。みんなのことが本当に大事だから、厳しいこと言うこともあるんや。部活を守ってくれた人のことを、これ以上傷つけたらあかん。それだけは覚えておき」
「はい」
一年生全員から返事が聞こえたところで、土呂は和信に笑顔を向けた。
「……分かったよ。今回だけだからね。そして恒章はあとで廊下に出ろよ」




