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on the stage  作者: すごろくひろ
2年生

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はじまり

 数時間前、昼休みの時間に、和信は奥田先生に呼び出されて職員室にいた。

「和信、基礎練もいいが、そろそろ本番に向けて切り替えたらどうだ?」

「なかなか個性的過ぎて、不安しかないです……。それに今のまま舞台に出したところで……」

 奥田先生は腕を組みながらため息を吐く。

「和信。お前はもう先輩だし、舞台創造部の部長なんだからな。それに部活動は子役の仕事とは違うんだ。全体を見て判断したり、あえて失敗を見据えて挑戦したりすることも必要だぞ」

「はあ、なるほど……」

 和信は、半信半疑ながらもそう返事することしかできなかった。

「完璧を求めると何も進めなくなるぞ」

「はい……。でも何すればいいかわからなくなってしまって」

 和信は少し表情を曇らせる。奥田先生は何か察したのか、今回だけと言って条件を出してきた。

「一つ目は、複数のジャンルを組み合わせたものにすること」

「複数ですか……?」

「そうだ。演劇に注視しがちだが、舞台を活用するものであればなんでもいい。漫才でもコンサートでも。とにかくいろんなジャンルを混ぜ合わせて挑戦するのがこの部活だからな」

 和信は、なるほどと呟きながら奥田先生の言葉をメモに書き留めていく。

「二つ目は、全員がキャスト、全員がスタッフをやること。それを条件としてやること」


 *


「ということです」

「やったあ! 全員出れますね!」

 暖乃はそう言って歓声をあげる。女子たちは続いて喜びを分かち合う。しかし、一年生男子は少々不服そうな顔をしていた。

「だから次の夏の発表会では何やるかを決めたいなと思うんだ」

「一ついいですか」

 開口一番、育が静かに物申した。部員たちは育の方へ視線を向ける。

「それって歌だけやりたいって言ってもだめってことですかね」

「この部活は幅広いジャンルに挑戦するのがモットーだから。今回は一年生が初めて出るんだし」

 育は苦虫を潰したような顔をする。そしてもう一人、複雑な表情をしていた者がいた。

「裏方希望なんですけど、それでも絶対立たなきゃいけないですかね……」

 竹園が不安そうに尋ねる。

「申し訳ないけど、全員舞台に立つのが条件だって。苦手かもしれないけど、腹をくくってほしいな」

「そうですか……」

 竹園は和信の言葉に肩を落とす。そんな彼を岡山は心配そうに見つめていた。その一方、元はニヤニヤしながら育に向けて投げかける。

「やっぱ自信ないんだ」

「君よりは上手な自信があるよ。僕も竹園くんも」

「は?」

「え?」

 育は挑発するように返すが、竹園は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「そっ、そんなことはないよ。僕は……」

「見栄っ張りなお前に言っただけだ。竹園を巻き込むな」

「ゲンゾー、今のは竹園も挑発してる」

 岡山の言葉に元は思わず口を手で隠す。

「別に挑発なんか!」

「笹床うるさい! ハウス!」

 衣絵が元に指をさしながら隅の方へ行くように促す。

「おい、誰が犬だよ」

「君のことだよ。早くボドゲ部に帰りなよ」

 育の発言を皮切りに、元は彼の襟首をつかみ始めると取っ組み合いになった。

「なんなんだお前はさっきから! っていうか、お前も笹床だろう!」

「今の小倉の発言は、どう考えても君に対してだろ! うるさいのは事実だ」

 暴れまくる二人に、和信と土呂は間に入って二人を止めにかかる。

「笹床くん、一回離れよう。」

「一旦落ち着け!」

「おーっ、これはいいニュースになりそう!」

 愛紗は意気揚々とスマホでその様子を撮影し始める。竹園と岡山も加わって、なんとか二人を抑えながら、和信や土呂とともに二人を引き離すことに成功した。肩で息をしながら寄りかかる元と育。そして愛紗はその様子を収めた後、衣絵のほうにカメラを向けた。

「ちょっと、私にカメラ向けないでよ!」

「衣絵ちゃんがゴングを鳴らしたようなもんじゃない!」

 衣絵は愛紗を手で払おうとするが、愛紗はそれを避け続ける。花奈はついに見かねて

「愛紗、ダメ。火に油を注いでる」

「頭硬いなー。花奈ちゃんは」

 愛紗はそう言いながらも撮影をやめる気配がなかった。

「いい加減にしなさい」

 そしてスマホを七菜香に取り上げられてしまう。一年生のそれぞれの喧騒、そしてなんとかして抑えようとする二年生。それらについに耐えかねた和信は、頭の中で何かが切れる。そして和信の喉元まであるものが出かかったそのときだった。


 ガチャン――。

 後ろから大きな物音がした。視線を向けると暖乃が立ちすくんでおり、彼女の足元には、美空の紙芝居用の舞台が落ちてしまった。どうやら資料を取ろうとした際の事故だったようだ。

「美空先輩、ごめんなさい……。落としちゃいました……」

「……これくらいなら、ちょっと直せば大丈夫。暖乃ちゃんは怪我ない?」

「大丈夫です。本当にごめんなさい」

 暖乃は深々と美空に謝った。部員たちはハッとした途端、誰とも目を合わせようとしなかった。部室内は一気に静かになり、誰も言葉を発することができなくなる。

「はいはい、そこまで!」

 七菜香が手を一回叩きながら声を張り上げる。

「早く内容決めちゃおう! と言ってもこんなんじゃ落ち着いて話せないしなあ……」

 美空は暖乃と一緒にプリントを運びながら、元と育の顔を覗き込んだ。

「あら、ちょっと腫れちゃってるね……。保健室に行った方がいいかも」

「先輩方すみません。ちょっとこのアホども、竹園と一緒に保健室に連れていきます」

「あいよ、気をつけてね」

 岡山はそう言って竹園とともに、元と育を保健室へと連れて行った。

「ついでに篠原も借りていきます」

「えー、なんで私?」

「保健委員だろ。証拠映像持ってるお前がいた方が話が早い」

「はーい」

 愛紗は少々面倒そうにしながらも、一緒に部室を出ていった。そして一年生は衣絵、花奈そして暖乃の三人が残った。

「今日のところは切り上げて、何やるかはとりあえず宿題にしよう」

「せやな。あとでグループチャットに送ってくれや」

 美空と七菜香も頷くと、奥のロッカーから掃除道具を取りに行った。

「私もやります」

「私も」

 暖乃と花奈も続いて掃除道具を取りに行く。衣絵は取り残されたかのようにずっと立ち尽くしていた。和信は、そんな衣絵に気づいて声をかけた。

「それでいいかな。小倉さん」

「あっ、はい! 本当はやりたいことありますけど、うまくまとまらなくて……。私たちも考える時間がほしかったので助かります」

 そして衣絵も合流して掃除に加わった。


 *


「先生、恒くん目を覚ましました」

 恒章はゆっくりと保健室のベッドから起き上がる。隣には亀田の姿があった。その向こう側から齋藤先生の声が聞こえてくる。

「恒章くん、大丈夫? だいぶうなされてたようだけど」

「あっ、はい。すみません。亀田氏もありがとう」

「またゲームで寝不足かしら?」

 恒章は少し躊躇いながらも、齋藤先生の問いにゆっくりと答え始めた。

「ゲームではないっすけど……。一週間家から出られませんでした」

「今日、ちゃんと出席できたのは偉いじゃないの」

「昨晩から部屋まで乗り込まれて、逃げられなかったです」

「ええー⁈」

 亀田が驚きのあまり、保健室中に響き渡る大声をだしてしまった。恒章は思わず耳を塞ぐも、そして亀田は齋藤先生に静かにするように叱られてしまった。そして恒章は亀田にデコピンを喰らわせる。

「ちょっとびっくりしただけだよ」

「和信がなあ」

 亀田は少し胸を撫でおろしたようだった。

「ってか、恒くんが突然来なくなっちゃって、心配したんだからね。みんな」

「放っておいてくれてもよかったのに。なんで……」

「……さあ、何ででしょうね」

 亀田はそう言いながら氷枕を持ち出して齋藤先生に渡す。その時、彼のスマホが鳴った。

「恒くん。僕、部室に戻るよ」

「うん、そしたら俺も行く」

 恒章は齋藤先生に礼を述べると、亀田と一緒に部室へと戻っていった。


 数分後、保健室の戸からノックが聞こえた。齋藤先生が返事をすると、そこには岡山と竹園の姿があった。

「あら、岡山くんと竹園君じゃない。珍しいわね」

 岡山は挨拶を軽く済ませると元を保健室のソファに座らせる。竹園も同様に育を運びながら保健室の椅子に座らせた。右頬が赤くなっている元と育の様子に、状況が掴めない齋藤先生だった。あとになって愛紗が保健室にやってくる。

「せんせー、こいつらが殴り合いしたから連れてきたー」

「篠原さん、ちゃんと敬語使うようにしなさい。保健委員会でも怒られたでしょ?」

「はーい」

 そう言いながら、齋藤先生は元と育の二人に氷嚢をそれぞれ渡す。二人はそれを受け取ると、頬を冷やしていく。

「あなたたち、入学早々殴り合いって何があったのよ」

「くだらない見栄の張り合いです」

 岡山の言葉に、元と育は何も言い返せなかった。

「動画見る? せんせー」

「なんで撮影してるのよ……。一応、事実確認のために見せてもらえるかしら」

 愛紗はいつの間にか動画データを移したUSBを齋藤先生に手渡す。齋藤先生は、その動画を再生し、その一部始終を確認していく。

「笹床くんと……笹床くん。この件については、顧問の奥田先生と私、担任の先生と面談になると思うから、反省しなさい」

「はい……」

「すみませんでした……」

 元と育は、それぞれ肩を落としながら先生に謝罪した。齋藤先生は思わず頭を抱える。

「まったく。舞台創造部は、いつから本格的なボクシング部になったのよ」

「本格的?」

 竹園はその言葉に引っかかりを感じながらも、保健室の棚を見つめていた。すると、ある一枚の写真に目が留まる。

「もしかして先輩たちも……?」

 竹園がそれを指さしながら、齋藤先生に尋ねる。岡山と愛紗、元と育もその写真を見つめていた。

「ボクシングと言っても、『詩のボクシング』ってやつね。あなたたちが入るちょっと前にやってみたのよ」

 ふいに保健室の戸からノックが聞こえてきた。そこには衣絵、花奈、暖乃の三人の姿があった。

「みんなの荷物持ってきたよ」

「サンキュー」

 衣絵たちは全員の荷物を近くのソファに置いていく。

「一年生、全員揃っちゃったわね……。この機会だし、少しお話ししましょう」


 *


「一年生、みんな帰ったよ」

「二年生だけ残ってもらってごめん。……情けないよね、部長なのにさ」

 和信は肩をすぼめるも、土呂が彼の両肩をバンバンと叩いた。

「今年の一年生は濃すぎる。それだけや」

「そうそう! 東山くんは問題ないって」

 土呂と七菜香は和信をフォローするも、言葉は続かなかった。静まり返る中、恒章と亀田が部室に戻ってきた。

「ただいま……ってどうしたの……」

「まあ、いろいろあったんよ。特に一年生がな」

「とりあえず話を聞こうか」

 恒章はそう言いながら、亀田とともに席につく。和信は、二人がいなかった間に部室で起きたできごとを淡々と話していく。そして今日の一年生の様子を見て、気がかりなこともお互いに話していく。

「やっぱりアイツかー。ボドゲ部でもちょっと調子乗ることあるけど」

 恒章は元について、こう続けて言った。

「あいつはボドゲ部で乱闘騒ぎなんてしたことないぞ? 波長が合うからなのかもしれないけど」

「あ、あの……」

 美空が手を上げながら呼びかける。

「ゲンゾーくんといくまるちゃん。なんか東山くんたちを見てる感じがするの」

「それわかる! なんかVSって感じ!」

 七菜香は大笑いする。土呂は和信の様子をうかがうと、和信は不思議そうに首を傾げていた。次に恒章の方を見た途端、美空にコソッと話しかけた。

「中山さん、それは地雷やで」

 美空は思わず両手で口を覆う。そして恒章にごめんねと謝った。

「いや、恒くんが一方的に嫌ってるってのが正解かなあ?」

「亀やん」

 亀田が隣を見た途端、恒章が顔を伏せてしまった。その様子を見た亀田は慌てながらもこう続ける。

「で、でもさ。和くんと恒くんが一緒に部活やったことで少しずつ修復できてるってことはさ、元くんと育くんもきっと仲良くなれるんじゃないかなあって思うんだ」

「笹床たちはひーやんたちと違って、双子どころか従兄弟でもないやん。ただ苗字が同じってだけで」

「あっ……」

 和信が何か閃いたかと思うと、ふと笑みを零した。

「いいこと思いついた」

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