ひーやん
――キーンコーンカーンコーン。
「次は、簡単なプログラミングをしてもらうから、教科書に目を通しておくように」
「気をつけー、礼」
「「ありがとうございました」」
生徒たちは、情報教室から出ていく。その中には、東山和信がいた。
「ひーやん、昼飯食べに行こうぜ」
「土呂ちゃん」
同級生の土呂亮平が和信に声をかけてきた。
「今日、弁当なんだよな」
「持っていけばいいよ。ほら、行こう」
半ば強引に、食堂へ連れて行かれてしまう和信。そして、食堂で同級生数人と食べ始めた。
「ひーやん、今日はお弁当なんだね」
「うん」
「ポテト買った?」
「うん、ついでに買ってきた」
「サンキュー」
亮平をはじめ同級生たちは、均等にお金を支払った。和信はぽかーんとして、ただ小銭たちを見つめていた。
「……」
「どしたの、ひーやん」
「あっ、いやお金返ってくるとか思わなくて」
「奢ってくれるの?」
「うん」
「冗談。クセになるから、ちゃんと払いますわ」
亮平は、小銭をまとめて掌に認めると、和信のポッケに突っ込んだ。
「うわっ!」
「どうせ受け取らないんだから、強制執行じゃ」
「わかったよ」
和信は少し呆れながらも受け取った。
その後、みんなで食べ終わると、和信は図書室へと向かった。その道中、図書室前の部活動の勧誘ポスターがある掲示板を見かけた。そこには、見覚えのある大柄な男子生徒と少しふくよかな二人組が掲示板を見つめていた。弟の恒章とその同級生の福徳だった。和信は二人に気づかれぬよう背中を向けて横切った。
「そういえば、部活どうしようかな…」
「ツネさん、まだ決めてなかったの?」
「それはお互い様でしょ」
ハハっと福徳は笑い飛ばしながら、恒章の肩をバシバシと叩く。
「僕には夢があるから。部活というものは少々物足りな――」
「現実をちゃんとみましょうね」
「だってさあ、同じ演歌仲間も部活に入らんとCDデビュー決めてるし。」
ふーん。と恒章は彼の話を聞き流していく。
「そういえば、勧誘受けてなかった?」
「アメフトとかラグビーとか相撲とか勧誘されたかな。でも断ったけど」
「あらまあ」
「そりゃあね、私の性には合いませんよ。こんなオタクには、二次元に空間移動するのが一番でね」
「それにしてもいろいろあるねえ、なんか気になるのないの?」
福徳が恒章に尋ねても、しばらく反応がなかった。視線を辿ると、ある部活のポスターに行き着いた。
「最近は変わった部活もできてきたよね」
「うん、なんだか福ちゃんが暴れる光景が目に浮かぶよ」
福徳が怪訝そうに恒章の顔を見た。少し寂しそうな雰囲気がしていた。
「ちょっと、言い方ひどいなあ」
「事実じゃないすか」
福徳は少し頬を膨らました。しかし何か閃いたかのように、顔を少しにやつかせ、手を恒章の肩に置く。
「それじゃあ、僕が暴れないためにも、一緒に見学ついてきてもらおうかなあ」
「いやあ、それはちょっと……」
「最初にひっかけたのは君だからねえ。あ、ちょうど今日じゃん。放課後よろしくねえ」
恒章に有無を言わさず、福徳は彼を引きずって、階段の方へ去っていった。
ふたりがいなくなった後、和信は掲示板のポスターを見た。
「あいつが見てた部活は……。舞台創造部?」
「『ステージを使ったさまざまなジャンルを体感しませんか。』ねえ……」
昼休み終了の予鈴が鳴る。和信は踵を返し、午後の授業へと向かった。