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on the stage  作者: すごろくひろ
1年生

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かくしごと

 ある日の放課後、舞台創造部の部員たちはいつもどおり各自で基礎トレから行う。部員たちは準備体操に取り掛かると、はじめに頭や首を少しずつ伸ばしたり回したりしていく。十分伸びてきたところで、今度は上半身から下半身にかけて、じっくりと部分的に筋肉を伸ばす。所謂、体育の準備体操をじっくりと行うようなイメージだ。

 その次は、柔軟体操に移る。全員で股を開いて上体を前方に倒していく。美空がゆったりと上体を倒すと、床に完全につくくらいに完璧な状態になっていた。少し経ってから起き上がると、隣にいた恒章を見かねて、話しかけた。

「恒章くん大丈夫? 結構、身体が硬いようなのだけど……」

「いやあ大丈夫。あまり運動とかしてこなかっ……痛っ!」

 和信が恒章の背中をゆっくりと押していくのに気がついた。恒章がいくら喚いても、素知らぬ顔でじっくりと圧をかけていく。恒章は反発しようとするが、和信の力には抗えなかった。

「痛い痛い痛い! 何すんだ!」

「もうちょっと柔らかくならないとね……。ってか、女子に何やらせようとしてるんだ」

「ちょっと悪意あるだろ、それ!」

 恒章は少しムキになりながら、和信を座らせて同じように背中を強めに押した。しかしその思惑は外れ、彼の体は抵抗することなく、すんなりと前の方へ進んだ。支障があるとすれば、和信のお腹の肉くらいのものではあるものの、その差は歴然としていた。

「まあ、これはひーやんに軍配やろうな」

 土呂から審判が下され、恒章は不服ながらも自分の持ち場に戻っていった。

「あれ、そういえば亀田くんは?」

「今日は通院でお休み」

 柔軟体操が一通り終わり、今度は筋トレに入る。今回は腹筋と背筋を三十回休むことなく続けていくメニューだ。土呂と七菜香は淡々とスピーディーかつしっかりとこなしていった。

「土呂くんやるじゃん」

「南野もさすがやな」

 呼吸が乱れることのない二人をよそに、ほかの三人は少しヘトヘトになっていた。休みながらも、所定の三十回はこなすことはできたが、終わった途端にバテてしまい、すぐには動ける状況ではなかった。

「日頃から身体を動かさんと、あかんで」

「うへえ……」

 恒章はそう答えるのに精一杯だった。このまま、練習は発声練習に移行する。今回は長音と短音、滑舌練習を順々にこなすメニューを行っていく。

「あーえーいーうーえーおーあーおー……」

「あいうえお いうえおあ うえおあい えおあいう おあいうえ……」

 全員が一通りトレーニングを終えると、男子は飲み物を買いに外へ出た。美空も飲み物を買いに行こうと七菜香を誘った。しかし返事はなかった。

「ななちゃん?」

 美空は七菜香に話しかけるが、七菜香はイヤホンをつけて動画に集中しており、気づく様子はなかった。美空がちらっと覗き込むと、アイドルたちが躍動して輝いている様子が映っていた。

「……」

「……ななちゃん!」

 七菜香は大声で呼ばれて驚きのあまり、スマホを落としてしまった。

「み、美空! びっくりしちゃったじゃん! 」

「ごめんごめん」

「あ、飲み物買いに行こ! 」

 七菜香は急いでカバンから財布を取り出して、美空と一緒に部室を出ていった。しかし気まずさを感じて、二人の口からは言葉がなかなか出てこなかった。

「そういえば、できた? 例のやつ」

「ああ、あれね……。実はまだ終わってなくてさ」

 七菜香は苦笑しながらも美空に答える。

「自分の思いを詩にするのって難しいんだ」

「そうね。普段話すような感じとは……違うものね……」

 そして沈黙が二人の間に戻ってくる。気まずい空気はいまだに二人を包み込み、二人の小さな足音が廊下に響く。ついに美空は意を決して七菜香に尋ねた。

「さっきの動画……」

 七菜香は少し黙っていたが、やがて静かに話し始めた。

「高校生アイドル。ダンス練習の動画を見てたら、思わず惹きつけられて。やっぱ絵を描くよりも体動かす方が好きって気づいたの。自分もあんな風になりたいって」

「……」

 美空は何も言えなかった。七菜香が少し先を進んでいたことを美空は思い知らされ、遠くに行ってしまうように寂しさを感じたのだ。美空が一人で考えているうちに七菜香が自販機から戻ってくるのを認める。

「とりあえず戻ろう。みんな待ってる」

 美空はそう答えるのが精一杯だった。


 *


 女子二人が戻ると、男子たちが椅子とスズランテープを使ってあるものを作っていた。例の「詩のボクシング」の舞台、すなわち簡単なリングを作っていた。土呂は、まず四脚の椅子を目印として四隅に置いていた。次にリングの左側を青色、右側を赤色のスズランテープを使って椅子同士を結ぶ。和信と恒章はリングの前後を白色のスズランテープで椅子を結んでいた。

「とりあえず簡単に作ってみたで」

「土呂ちゃん、さすがだね」

 和信は土呂に小さく拍手を送ると、自身のスマホで写真を一枚撮った。対照的に恒章は軽口を叩く。

「やっぱ簡易的だとショボいな」

「うるさいな」

 和信は、戻ってきた美空と七菜香にリングを作ってみたことを話していた。試しに赤コーナーに美空、青コーナーに七菜香を立たせた。

「意外と空間があるのね」

 美空が思わず呟いた。いざ中心に立ってみると左右には誰もいなかった。今、青コーナーにいるはずの七菜香も、自分が披露するときには後ろの方にいて、見えなくなってしまった。さっきの七菜香のこともあってか、美空は一層虚しさを感じてしまった。

「東山! こっちに椅子ないの?」

「自分で持ってこいよ」

 そんな彼女をよそに、七菜香は恒章に椅子を持ってこさせようとする。恒章は渋々と一脚持ってこようとした。

「私の分だけじゃなくて、美空の分も!」

 七菜香に言われて恒章は不服そうにもう一脚椅子を重ねて運ぶと、それぞれのコーナーに椅子を置いた。

「ありがとう」

「うん……。大丈夫?」

「大丈夫、ありがとう」

 美空は用意された椅子に座った。

「じゃ、試しに二人でちょっとやってみたら?」

 和信の提案に、女子二人は慌てて答える。

「いやいや、まだできてないよ!」

「どんな感じかは簡単にイメージできたし、詩を作るのに時間を割きたいわ」

 それもそうだなと、和信は一度リングを撤収させて、机や椅子を元に戻すと、各自で詩を作り時間としたのだった。

 しばらくして、全員が一作は完成させたようだった。とりあえずその作品を当日までは内緒にすることにして、今日の活動を終えたのだった。


 *


「美空……、怒ってる?」

「怒ってないよ。ただ自分のために振り回してたって思うと情けなくて」

いつもであれば、美空と七菜香は帰りの電車の中でたわいもない会話をしているのだが、部活の休憩中から続いていた蟠りがいまだにとけていなかった。

「……そんなことないよ」

「でもななちゃんがやりたかったことを私は邪魔をした。それは変わらない」

「私は紙芝居も楽しかったのは同じだよ!」

七菜香は思わず大きな声で言い返した。周囲の乗客が驚いたり、冷たい視線を浴びて平謝りをする二人。

「こんなあたしでも誘ってくれた。だからいいの」

「そっか」

美空は少し笑みを浮かべ、続けてこう言った。

「今までありがとう」

「これからもでしょ!」

七菜香も笑みを返した。

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