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on the stage  作者: すごろくひろ
1年生
16/51

ゆっくりと

 和信と恒章の兄弟は、はじめて一緒に電車を乗り継ぎ、港山高校に登校した。しかし、その道中に会話は一言もない。単に大きな双子が隣同士にいて、兄は英語の教科書の音源を、弟はゲーム実況の動画を聞いているだけだった。

 校門に到着すると、和信は振り返った。恒章は後方数メートルの距離を取っていたのだった。

「なんで離れてるんだよ」

「和信フィーバー怖いから離れとくわ」

 まったく。と和信は呟きながら昇降口へと向かった。近くの掲示板を見ると、昨日発表された、課外活動の活動中止についてのポスターが大きく貼られていた。後から、恒章がやってくる。

「なんかフィーバーがないの意外だわ」

「フィーバー言うな」

 和信が恒章を小突いた。

「まあこの方が気疲れしなくて済むし、一緒って感じがして楽だよ」

 二人は各々の教室へと向かう。恒章は一組側の階段から教室へ向かい、六組の教室へと向かった。

 七時四十分。恒章はいつもより早く来てしまった。教室には誰もいない。机の中をのぞくと、昨日、忘れた数学の教科書が入っていた。その事実に恒章は安堵する。カバンを机の上に置くと、ガラッと教室の扉が開いた。

「えっ、ひがしやまっ!」

 名前を突然呼ばれた恒章は、身体をびくつかせながら振り向いた。紙芝居のときに一緒になった南野七菜香だった。

「南野、早いな……」

「いつもこの時間! って、東山がこんなに早く来るなんて……、雨でも降るんじゃない? 」

「失礼だな! 」

 七菜香が自分の席に向かうと、続々とクラスメイトたちが登校してきた。みんなして、恒章が既に登校していた事実に驚きを隠せないようだった。同じカードゲーム仲間も恒章の姿を見ては、

「東山が早く学校に来てるだと……」

「今日は雪が降るな……」

 と膝から崩れ落ちたり、天気の心配をしたりと、物珍しさに驚愕するばかりだった。そうこうしているうちに、始業十分前になる。福徳も登校してきた。

「おはよー」

 恒章と目が合った途端に、教室の時計と恒章を数回視線を往復する福徳。自席につくと、後ろの席の彼にこう話しかける。

「あれ……、東山くん、一組はここじゃないよ?」

「弟のほうだぞ」

「えっ、ツネさん? まさか……、熱でもあるんじゃない?」

 福徳はそういって、恒章の額に手を当てようとするが、恒章に軽く払われてしまった。

「こちとら平熱じゃい」


 *


 その一方、一組ではちょっとした騒ぎになっていた。クラスメイトの土呂亮平が、和信の姿を見つけ、ほかの生徒とともに声をかけてきた。

「ひーやん、大丈夫やったか? 」

「うん、大丈夫だよ」

 和信は軽くピースサインをして返す。

「ちょっと心配して損したわ! まったく」

「さすがというか、鋼のメンタルだなあ」

 友人たちが口々に言い始める。

「関係ないのに引っ込んでいたら、余計に疑いが深まるからね」

 確かになあと友人たちは頷いた。

「にしてもなあ……。部活もできないんじゃ、何もできないべ」

「そんなら、サイバー攻撃仕掛けて犯人を探してみようか」

 和信を含めて友人たちは一斉に土呂の方を見た。

「土呂ちゃん、そういうのできんの?」

「知らん」

 ガクッとなった一同。

「ひーやん二号とかは得意そうやけどな?」

「あいつはゲーマーなだけだよ」

 笑い合う二人、しかし他の友人たちはあまり状況を掴めていないのか、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。

「二号って?」

「僕、双子なの」

「もしかして、よく遅刻間際に来る……六組のでかいヤツか!」

 おおっ。と合点が入った一同であった。和信は少し複雑な面持ちだった。

「東山に似たやつがいつも遅れてくるんだよなあ。後ろにいると思って教室に行ったら、すでに東山が座ってるから、瞬間移動テレポートでも使ったのかと思った」

 和信は手を横に振った。チャイムが鳴り、一同は各々の席に着いた。


 *


 昼休みになり、和信と土呂、そしてその一組の友人たちは、食堂の方に向かっていた。今日は、食堂で自家製フライドポテトが売られる日で、絶品とも言える味を誰よりも早く手に入れようと足を急がせていた。

「ひーやん、早いで! 」

「ポテトが待っているんだ……。じゃあ!」

 和信は早足で食堂へ向かい、十人以上並んでいる待機列へと並んだ。その中には見覚えのある生徒もいた。その生徒がふと和信の方を見て、手を上げる。

「あれ、東山くん」

「榊先輩、お疲れ様です」

 少しの沈黙が流れた。そうしている間に、一人また一人とアイスやらスナックなどを購入していく。列はだんだんと前に位置するようになった。

「榊先輩もポテトですか? 」

「だとしたらどうする?」

「前譲ってください」

 和信は真剣な眼差しで榊を見つめた。榊も負けじと冷めた目で和信を見つめ返す。そしてふっと笑うとこう返した。

「残念、今日はパフェの気分でした」

 和信は安堵して、大きく息を吐いた。

「脅かさないでください!」

「ごめんごめん」

 和信は少し頬を膨らませた。少し気持ちが落ち着いた和信は続けて話しかけた。

「いろいろとご迷惑をおかけしました」

「君のせいじゃないし仕方ない。まあでも、そろそろ受験に向けて切り替える時期だし、いい機会だったと思うことにしてるから」

「そうなんですね……」

 和信はそう答えるしかなかった。

 榊がパフェの引換券を買い、和信がポテトを注文した。

「ごめんねぇ、ポテトは売り切れちゃったのよ」

「あっ、そしたらフライドチキンで……」

「はい、百五十円ね」

 受け渡した際に和信がふと横を見ると、恒章が福徳と一緒にフライドポテトを貪っているのを見かけた。呆然とする和信。その様子を見てた榊は和信の肩をポンと叩いた。

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