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on the stage  作者: すごろくひろ
1年生
15/61

再びのきょうだい

 恒章は帰宅すると、和信が階段から下りてきていた。

「ただいま」

「おかえり」

そして和信はリビングへ、恒章は二階の自室へとそれぞれ向かう。例の騒動のおかげで、しばらくの間、授業が終わったら帰宅しなければならなくなり、部屋に籠るしかなかった。

 恒章は、最初はベッドの上に寝っ転がっていたが、数学の宿題があることを思い出した。カードゲームも封印されてしまい、手持ち無沙汰になったからか、机に向かって取り掛かろうとする。しかしカバンの中を探しても、彼の教科書は見つからない。

「あっ、やば……」

数学の教科書を机の中に置いてきたことに気づいた。今更学校に取りに戻ったって、再び家に戻る頃には夜になってしまうし、学校に行ったところで門前払いになってしまう。恒章は溜息交じりに頭を抱える。

「ちょっと、お邪魔しますよー」

恒章はやむなく和信の部屋へ侵入した。同じ双子でも、和信の部屋は整然としていた。子役の仕事をしていたとはいえ、さすがは優等生。何事にもきっちりとした性格を、その机は物語っていた。恒章は数学の教科書を本棚から取り出すと、そっと自室へ戻っていった。

 数十分後、宿題を終えた恒章は、教科書を戻すために、またこっそりと和信の部屋に侵入する。

「どうもー」

小さな声で数学の教科書をこっそり戻して、退散しよう。そう思ったときだった。和信の机の上に上がっていた冊子のようなものをふと認めた。

「何だこれ? 」

いつもなら気にも留めないのだが、なぜだか妙に気になってしまった。誰もいないことを確認して、こっそりとその冊子を手に取り、パラパラとページをめくっていく。和信が部活で使う台本のようだった。

 中身を一通り確認して自室へ戻ろうと振り返ると、部屋の主がそこに立っていた。

「何してんの?」

「別になんでもない」

と言って部屋から脱出を試みたが、ちょうど腹の位置で兄の腕にひっかかるように、妨げられてしまった。負けじと外へ行こうとするが、勢いが余ってバランスを崩し、和信のベッドの上に頭から飛び込むような形になってしまった。

「さあ、久々に事情聴取させてもらおうか」

和信は、恒章を取り抑えた。


*


「教科書、借りて返そうとしただけだって」

「勝手に借りてくだけでなく、机の中まで荒そうとするのはいただけないな」

弟にヘッドロックをかましながら、追及の手を緩めない和信。

「そんな趣味ないよ。いろんな意味で」

恒章の口撃に思わず手を緩めてしまう和信。恒章はその隙をついて、ドアに手をかけた。しかし、事態は思わぬ方向に進んでいた。

ガチャ、ガチャ――。

「あれ、開かない……」

「いやあ、こういうガジェットは役立つもんだね」

よく見ると、ドアの鍵の部分には電子ロックがかけられる機械がつけられていた。いくらノブを動かしても、開く気配は一向になかった。そうするうちに、兄は弟に襲いかからんとゆっくりと近づいていった。

「だから……、そういう趣味は」

ピコッ、ピコッ、ピコッ。

「僕もそういう趣味はないから」

和信は恒章にピコピコハンマーで三発お見舞いした後、もう一度ヘッドロックをかました。

「借りるときはちゃんと言ってよ」

「……すみませんでした」

謝罪の言葉を聞いたからか、兄は弟を解放した。弟は起き上がると、部屋を出ていこうとする。その間際に言葉を放った。

「ずっと輝かしい世界にいて、外面良くて、やっぱ嫌いだわ」

「そっちこそ勝手によそよそしく避けてきて、腹立つから嫌いだわ」

恒章の売り言葉に、和信は即座に言い返していた。恒章は、兄の反撃に呆気にとられた。

「まあ、お互いさまということで」

「そうですな」

そう言って、恒章は兄の部屋から出ていった。


*


 翌朝、恒章は一時間早く起きてしまった。いつもなら、ギリギリまで二度寝に費やすのだが、なぜか眠気もダルさもなかった。朝食の準備ができているのに気づいた彼は、リビングのある一階へ下りた。

「和信は、今日は学校休んでゆっくりなさい」

「いや、行くよ。僕は何も悪いこともしてないから」

ほんとに真面目なんだからとぼやきながら母親が朝食の準備をすると、恒章の姿に気づいた。

「あんた、今日は早いのね! 準備してないわよ! 」

「いいよ、待ってるから」

大急ぎで母親は二人分の朝食を準備すると、兄弟は一瞬で平らげた。それぞれの部屋で制服に着替えて、二人一緒に家を出た。

「「いってきます」」

「いってらっしゃい」

母親の見送りを受けて、二人は最寄り駅へと向かった。

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