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第2話:スパダリの皆さん

「み、皆さん、どうしてこんなところに……?」


 三人の男性方を見て、思わず呟く。

 みな私の知り合いで、このような暗い森の中にいるのは似つかわしくないお三方っだった。


「クロエちゃんが婚約破棄……おまけに追放されたと聞いてね。居ても立ってもいられなくなったのさ」


 青い髪をさらりとなびかせながら言うのは、ロッド様。

 ミロスニア王国第一魔術師団の師団長を務めておいでで、ラブルダン公爵の跡取り息子だ。 

 国内でも数人しかいない無詠唱魔法の使い手であり、深い知識と実力は"歩く魔導書”と名高い。

 澄んだ青い瞳と優男な風体で、国中の令嬢から羨望を集めていた。


「あの馬鹿王子はどこまでも馬鹿だな。クロエがどんなに国に貢献してきたかわからねえらしい」


 ぞんざいな口調で話すのは、アラン様。

 王国騎士団の精鋭部隊"外苑"の第三席を務められる。

 ルーチス侯爵の次男でいらっしゃり、硬質な赤い髪と真っ赤な瞳が力強い印象だ。

 左目には引っかかれたような大きな傷があり、武勇の重みを感じる。

 豪胆な性格とワイルドな見た目で、国中の令嬢を虜にしていた。


「クロエ君こそ真の聖女でしょうに。あんな下品な女に"聖女の神託"が降りたとは、とうてい考えられませんよ」


 四角い眼鏡をくいっとかけ直しながら喋るのは、ジェローム様。

 腰ほどまでに伸びた黒い髪は、手入れが行き届いておりキラキラと輝く。

 平民出身であられるけど、類い希な錬金術の実力で伯爵の爵位を賜った。

 今は国営錬金術師ギルドの総支配人を務めてらっしゃる。

 少々気難しい性格が近寄りがたくて素敵だと、国中の令嬢から熱視線を集める。

 要するに、三人とも国を代表する"スパダリ”たちだった。

 この光景をマルティや他の令嬢たちに見られたら、凄まじく嫉妬されそうだ。

 三人がトリスタン様とマルティに文句を言っているのを聞いていたら、素朴な疑問が思い浮かんだ。


「し、しかし……どうして私が婚約破棄と追放されたと知っているのですか?」


 私がトリスタン様たちに諸々告げられたのは、つい一時間ほど前の出来事。

 いくらスパダリでもこんな短時間で把握するのは難しいんじゃ……。

 そんな私の疑問に対し、ロッド様、アラン様、ジェローム様は、顔を見合わせると同時に答えた。


「「それは秘密だ(です)」」

「そ、そうですか……」


 彼らはスパダリなので、きっと何でもできるのだろう。

 それ以上深く詮索するのは止め、港へ向かうことにする。

 別れの挨拶を告げるため、三人に丁寧に頭を下げた。


「ロッド様、アラン様、ジェローム様。今まで大変お世話になりました。もうお会いできないかもしれませんが、皆様によくしていただいたことは決して忘れません」


 本来なら、私などが関われるような人たちではないのだ。

 良き思い出として胸にしまい、これからも頑張ろう。

 そう思いながら一歩踏み出したとき、三人はザッ……! と私の前に立ちはだかった。

 そして、衝撃的なセリフを言われる。


「「一緒についてく」」

「……えっ!?」


 驚愕で思わず大きな声を出してしまった。

 唖然とする私に、三人はさも当然といった具合に話す。

 

「クロエちゃんのおかげで、僕は今も生きているのさ。君が国に貢献してくれた恩は計り知れないものがある」

「ああ、俺もだ。クロエがいなかったら、俺は騎士を辞めていたかもしれない」

「私だってクロエ君には大変世話になりました。感謝してもしきれませんよ」


 いつの間にかより近くに来られていて、私は三方向から囲まれる形になってしまった。

 た、たしかに、お三方とは何度か聖女の仕事でお会いしたことがある。

 ロッド様は魔族との戦闘で"呪い”を受けてしまい、死に瀕していたところを解呪させていただいた。

 アラン様の時は帰還率が一割と言われる任務に同行し、聖女の力で常に回復魔法をかけ続け、騎士隊はみな無事に帰還した。

 ジェローム様は国王陛下から頼まれた魔導具の錬成に必要な聖なる魔力が足りず、少し分けたことがあった。

 三人はしきりに感謝してくれるけど、いずれも自分にできることをしただけだ。


「エスベア島なんて絶望の島に、君一人で行かせるはずがないじゃないか」

「魔物もたくさんいるらしいからな。俺が守ってやる」

「私も魔導具を作って手助けいたしましょう。島暮らしに最適な魔導具を用意しますよ」


 冗談かと思っていたけど、本当についてきてくれるらしい。

 正直なところ、"絶望が具現化した"とも評されるエスベア島に行くのは心細かった。

 ロッド様たちが仲間になってくれたらもちろん嬉しいけど……。


「ついてきてくださるのは大変にありがたいのですが……み、皆さんのお仕事はどうされたのでしょうか……」


 三人はいずれも、国を代表するスパダリたち。

 当然のように重職に就いている。

 魔術師団や騎士団、国営ギルドは運営が成り立たないのでは……という心配を払拭するように、三人は明るく言った。


「辞めたさ」

「辞めたぜ」

「辞めました」


 そんなあっさり……。

 動揺する私に、三人は事の経緯を教えてくれた。


「トップが抜けても問題なく機能する。組織とはそういうものさ」

「騎士団は優秀な人材ばっかだからな。俺が抜けても問題ない」

「ようやく弟子が育ってきましたので、安心して後を任せられます」

「そ、そうでしたか」


 どうやら、私の知らないところで色々と話がついていたらしい。

 三人がそう言うのなら大丈夫なのかな。


「では、僕の転送魔法で送ってあげよう」

「待て。俺が背負いながら泳いで運ぶ」

「いいえ、私の飛行魔導具で緩やかな空の旅をするべきです」


 三人はしばらく私をエスベア島に送る方法で張り合った後、ロッド様の転送魔法で送っていただけることに決まった。

 ロッド様は他の二人を置いていきたかったみたいだけど、"大きな貸し"ということで片がついていた。

 魔力で地面に魔法陣を描くと、ロッド様は私をそっと抱き寄せる。


「クロエちゃんは僕の隣においで。……他の二人は端っこだ」

「「……チッ」」


 私はロッド様の隣に立ち、アラン様とジェローム様は不機嫌そうな顔で魔法陣の端っこに立つ。

 魔法陣が輝き始める中、心の中で静かに思う。

 王国の聖女はマルティとなった。

 でも、女神様から改めて聖女剥奪の神託を受けたわけではない。

 要するに、私はまだ聖女ではあるのだ。


 ――どんな環境に行こうとも、私は自分の務めを果たすだけ……。


 そう決心しながら、私は白い光に包まれた。

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