建築王のハンマー
(これは……?)
建物が、できていた。
近いので、全体がわからない。離れて見ないといけないだろう。
少なくとも、外側は石でできている。
花崗岩と粘板岩だろうか? ……なんだか重厚な壁だった。
『城だ!』
「し……?」
『城』
私は離れて、それを見上げた。
古風な城だった。
ゆうに300年は経っているだろうか。
高いところに、銃眼――つまり弓や銃を構える小さな窓がいくつかある。外壁ごと、その銃眼の中にまで入っていくツタで覆われている。
すごいスケールだった。
すごい……。
すごいのだが。
『この城。この場所に建てるにしては、やや中途半端だ』
「私も、ちょっと思った……」
『美しい。だが……整備されていない?』
美にもさまざまな基準、というものがある。
たとえば、それは二種類。
一つめ。
城、といえば堅牢さや重厚さ、外敵に対して威圧感を与える防御性を持っているものだ。安心と安全を与える力強さを、人は美しさととらえることはあるだろう。大砲が壁を簡単に打ち崩すようになる前の城などは、特に求められた性質だ……。そういう歴史がある。
しかし――たとえば一方で――。
二つめ。
21世紀の日本人が、城への観光に出かけていく時のような、古城の魅力だ。つまりは防御の役割をひとまず終えている、あたかも引退した老兵のごとき『枯れた』魅力、というもの。
目の前の城は、二つめだ。
ここが説明を受けたような物騒な土地なら、どちらかというと、一つめのほうが場所に適しているはずなのだ。
あくまで、土地と建築物は、調和のうえに完成する。
土地のことを考慮しない建築物は、どこかに歪さを持つものだ。
危険な場所なら、安全を保証する強固な城としての機能を、保ってあるべき――ということである。
しかし、なのに……出たのは古城。
(いや、要するに――廃墟、では?)
――ツタで覆われた銃眼、というところからそんな印象を受ける。
悪く言えば――時代に取り残されたもの。
いやいや。ま、たしかに、建物としては豪華すぎるくらいだけどさ。
これが……私の能力の結果……?
……いや、待て。
そう、私はまさしく異世界転生者なのだ。
まさに、21世紀日本からやってきた存在。
この世界にとっては、まさに観光客、みたいなモンである。
ハンマーはなにやらぶつぶつ言っていた。
『よく見れば知らない建築様式だな。……魔法戦を想定していないようにも見える……対・魔物の城でもないし……あっ!?』
「ちょちょ、ちょっと中を見てみる!」
『もっと眺めていたい!! 建築はサスペンスなのだ! 建てた歴史や文化を推測する、知的な鑑賞ってものだ! ここでもうちょっと』
「ごめん、私にはわかりかけてきたっ!」
私は城の入り口を探す。
しばらくヒョイヒョイ歩いていると、大きい両開きの扉があった。
「ううおっほい! 扉みっけ!」
鍵はかかっていない。私は扉を押し開いた。
中は――
――ホテルだった。
そう、ホテル!
『へおっっおおおお゛お゛! これはあああああああああ!!』
「むむむ。うおおおおおお……」
『み、見ただけでわかるぞ! お前の世界は、平和だったのか! いいなあ! いいなあ!』
「そりゃ、防御的な性格なんてものは、なくなっていくよねえ」
『いいなあ……』
ハンマーがぶるぶる震えだした。
私の頭の中に響いたその声には、悲しみの響きがあった。
『戦いの予感に怯えることもなく、城を、ただ人々をもてなすために作り替えることのできる世界って……いいなあ……』
そう。
この力は――私の中にある建築物の概念を、持ってきて、そのままここに出現させているんだ。
この世界にある建築物、ではない。
「け、け、け。いや。……い?」
私は――
自分に与えられた力のことを理解した。
「……異世界建築チート……」
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建築王のハンマー:
スキル「建築王」の効果により所有するアーティファクト。
所有者の建てたいものを建てることができる。
建物を叩くと、一瞬で改築・減築・解体することも可。
建てたいもののイメージが不完全であってもよい(自動で補完する)。建物に通常ついてくる設備や物資についても、自動で生成する(家ならベッド、クローゼット、玄関、テーブルや食料品など)。
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