最強を問う
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私はハマシマ・ヨシキを見る。
……。縛り上げたほうがいいのだろうか? それとも牢でも建てるべきか。
コロッセオの地下には猛獣をつなぎ止めておいて、エレベーターを使って舞台に上げてきたというが……もちろんそんな通常の猛獣のようにはいかない。
彼のあの攻撃力を考えると、どんな縄でも引きちぎるし鉄でも破壊しそう。
「ぐっ……」
「起きたのかな……」
「……」
「ねえ。腕とか脚とか折って動きを封じたくはないんだよ。ボロッボロじゃん。もう諦めて帰りな。もう一度立ち向かってきたりしたら、次は手加減できるかわからない」
「……」
「なんで、セレネローザさんにあんなことを?」
「俺は……あんなところで……朽ち果てたく、ねえ……」
彼は血を吐いた。
「ぶっふっ!」
うわ。
大丈夫かな。
「俺は『鉄人』……活かすチャンスが、あったんだ……戦いさえ、起こりゃあ……」
「誰も戦いたくなんてないんだよ」
私はふと思った。
戦いというものに、人は呪われすぎている。
話し合いで解決する問題なんて少ないから、力に頼りたくなるのはわかる。だけど、だからって。
昔っから今まで、なんで……。みんな、戦わないといけないんだろう。
どこかで、連鎖を止めないと。
でもどうしたらいいのかは、私にもわからない。
彼はなにかをぶつぶつ呟いている。
「……承認……進化……種族……」
「ラジオ、外そうか? このあたりに立ち入らなきゃ、受信しないと思うけど」
「――『ファイアドラゴン』」
「え?」
ハマシマ・ヨシキの身体が爆発して光った。
彼の身体から、何かよくない力が――ほとばしる。私は押し出された。
な、なにが――!?
『――種族進化!?』
ハンマーが叫んだ。
『馬鹿なッ!! 魔物の力だぞッ!! 人間にそれは不可能――』
「うおおおおわあああああああああっっ!! パンツがめくれるううううううッッ!!」
私は跳ね飛んでいた。
斜めに吹き飛ばされて、柱にぶつかり、地上階の方向へ。
視界がぐるぐる回った。
『パンツッ、今、ねええええええーーーーッッ!!』
そしてコロッセオ外周部の三階、建築様式としてはコリント式のアーチの柱に叩きつけられる。
私は観客席の斜面に落ちた。――修復されていない、ただのすり鉢の外周部と言っていいところだ。
転がりそうになるのをなんとか、手の爪でザックリと床を刺して、止まる。スパイク靴の要領である。
「ぶお」
「ウガアアアアアアアアアアアッッ!!」
頭を上げた。
アリーナ全部を占有する、デカい、赤いドラゴンがいた。
は?
なにそれ?
『に――逃げろユスタッッッ!!』
「グオオオオオオオオッッ!!」
傷がまったく存在しなかった。
あ――これ、ひょっとして。
進化とやらをすると、完全に体力が回復する、っていうシステムですか? ゲームには、たまにある。
私よりもメチャクチャでかいぞ、こいつ。
私、たぶん170cmくらい。
敵、30メートルくらい。単位を統一したほうが分かりやすそうだから、センチメートルに直すと3000cmくらい。
えーと。うん。
「畜生ッ!!」
私は吐き出される炎のブレスを避けた。
お尻が、熱い。
ロケットランチャーが無傷で、MRIで筋肉バキバキに傷ついた「にすぎない」私の防御力では、あの炎に触れてみようとは思えなかった。
おまけにあれの素体がハマシマ・ヨシキなら「レベルは42」とかなんとか言っていた強さを、引き継いでいる可能性はある。
――さっきの時点で、攻撃は私に通ったんだぞ――。
「これがモニター越しなら、かっけえドラゴンだワーイだったのにいいいいいッッ!!」
『走れえええエエエーーーッ!!』
私は観客席の斜面を走った。しかし――繰り返すようだがこの地面は修復がなされていない。
途中で脚を踏み外し、ごろごろとアリーナへと吸い込まれていく。
「ノオーーーーッッ!!」
敵の足下で、私が建てたラジオ塔が、あとかたもなく潰れていた。
私はそのひしゃげた鉄の中にスポッとはまりこむ。
「くそうっ!!」
私は初めて挫折を味わった。
敵は私の頭上から、脚をズンズン踏みつけて、あちこちさらに踏み潰している。
こいつ――私がどこなのか、わかっていないみたいだ。
このまま隠れていれば、時間は稼げるだろう……。
が。
「デカイものは、私が打ち勝つものだッ!! そういう性向なんだ私はあッ!!」
『えっ、ユスタ?』
「時間を稼いでいる暇もないッ!!」
私は外に躍り出た。
はるか頭上の敵――もうこれヨシキって呼んでいいのかな――の目が、完全に私に向く。
私は地面をハンマーで打ち、再び鉄塔を出現させた。
「現代の、ヴラド三世ッ!!」
鉄塔は、敵の喉元を貫く。
「ギャアアアアアアッッ!?」
「私が串刺し公だあああああああああッッ!!」
『やめろーーーッ!! 前に出るなあああああッ!!』
ハンマーの叫びが頭の中に響く。
頭上に、敵の前脚が迫る。
私に、その陰がかかった。
あ。やばい。振り下ろされる――
「転移、第七改良式ッッ!!」
誰かの声がした。
――!?
それは、セレネローザさんだった。
敵の首の上、なにもない空中に、彼女はいた。
両手剣を構え、敵の首をめがけて、振り下ろして落ちてくる。
「――バカでかい声が聞こえたのでな。あのビョーインとやらで、寝てもいられないんだ」
「なッ――」
――安静にしていてください――。
ズウゥゥンッ!!
私は振り下ろされた爪と爪の間に入っていて、潰されるのを危うく逃れた。
私は、頭を抱えながら立ち上がろうとする――その時、地面に、でっかい首の落ちてくる分離した影を見た。
ばしゃばしゃと熱いなにかの滴る音が続いた。
首が、ゆっくりと落ちてくる。
しかし。
「――まだだっ!!」
「えっ、まだあるのッッ!?」
「そいつ、炎のブレスを、すぐ――」
「あ」
私を見ながら落ちてくる首と、目が合った。
喉元に、炎の噴出を見てとる。
私をめがけて――その熱が注がれようとしていた。
もはや、狙いはセレネローザさんじゃないのか――
(終わった)
私は死を覚悟した。
たぶん電力で身体を修復する、とかそんなヒマはない。
炎が、放たれる。
(兄さん、みんな――!)
その時。
なにか大きなものが、目の前に落ちてきた。
それが、私のかわりに炎を受けた。
私を覆い隠し――超高熱のそれを退けていく。
「え――!?」
私は目をぱちくりさせた。
すっごいアホな顔をしていたと思う。
いったい、なにが?
炎の光に包まれる光のなか、かろうじて――
――その塊の、ドーリア式の柱が見えた。
まさか――敵が暴れた拍子に、跳ね飛んでいたのか?
それはコロッセオの、名もなきひとつの壁だった。
――建物はいつも、人を守ってくれる。
自然に抗うための盾。
日々に抗うため。死に抗うため。
炎は、止んだ。
「まだ、その首は生きてるッ!!」
声がかけられる。
「とどめを――!」
私は、外へ飛び出した。
目の前に、首があった。再び、炎を吐こうとしている。
私はふいに、左腰の剣を思いだし――それを抜き――雷光の刃が現れたのを見た。
「お……の……れ……」
目の前の首が喋った。どうやら発声と炎の放射は、口の中の別の穴らしい。
「ちょっと、やんちゃしすぎだよ」
私は飛びかかった。
剣を、逆手に構える。
その額に突き刺した。




