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法規制のない改築

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 彼がかき消えた。

 私は頭を守ると、右にヨシキが出現している。

 肘に走る衝撃があったが、私はその力の方向を外へ逃がして一回転し、ハンマーの殴打を浴びせる。

「ぐうっ!」

「浅い。電気流すまでいきたかった」

 後ずさるヨシキ。

 私は地を蹴って飛びだした。

 ヨシキはあの武器を逆手に持ちかえ――

 地に突き刺す。

「滅ッ!」

「!?」

 地面が、ヨシキのそれを中心として『消滅』した。崩壊ではない。床の修復前、かつてのコロッセオのように、地下階からはあちこち柱がむき出しになっている。

 私は空中に投げだされた。

(――!? ぬうおおおおおお!?)

 ヨシキは柱を蹴り飛びだしてくる。

 私の額をめがけて、あのドライバーを突き刺そうとしてくる。

「――ッ!!」

「脳に、断層をくれてやるッ!!」

 ――このままでは、攻撃を避けられない。

 刺突が迫る。

 私は自分の頭の下に、短い柱があることに気がつき――

「……ハン、マアアッッ!!」

 それを打った。

 目の数ミリメートル先に、彼のドライバーが迫り――

 私の視界は急に、空へと投げ出され、高く上がった。

「な――っ!?」

「へへっ! 送電用鉄塔だよおっ!」

 私は無骨な鉄塔に乗っかる形で、上空に射出されたのだった。

 そしてヨシキは勢いのまま、真下のそれにぶつかった。

「ぐごおおおおおおおおお!?」

 ――ごいいいいいんっ……。

 鉄塔が音を立てて揺れた。

 彼がぶつかったところが、たわんで歪む。後を引く鉄の不協和音が、あたり一帯に甲高く響いた。

 ヨシキはそこから剥がれ落ちていく。

「ぬっ……わあああああ!?」

 私もまた空中でくるくる回って落ちていきながら――

「さらに――改築ッ!!」

 その鉄塔をハンマーで打った。

 鉄塔がさらに太くなり、高くなり、姿を変える。

 ラジオ塔に変貌する。

 電波を送信し、音声を受信機器へと送りこむ機能を持っている、あれだ。

 私とヨシキはともにコロッセオ地下階の荒れ果てた地面に激突しかけ、しかし、受け身をとって着地した。

「――なぜ!!」

「ん?」

「なぜ、こんなものを建てた! 舐めているのか……ッ!!」

「いや?」

 私は言った。

 ラジオ塔は、当然、受信する機器が必要となる。

 ラジオがないのに、電波だけあっても、意味がない――意味の無い行動は舐めた行為――ってか?

 ――ヨシキが再び私に飛びかかってくる。

「勝負はね」

 私めがけて突きを繰り出してくる。

「――もう終わったよ」

「っ……!」

 私はヒョイと突撃を避けた。

 ヨシキが勢いのまま、倒れこんで、背後の柱にぶつかった。

 どごぉぉぉんっ。

 ……もうもうと煙を立てて柱が崩れた。

 これが本当のコロッセオなら遺産の破壊だが、本当のそれではないので……まあいいでしょう。

 彼の動きは、明らかに精彩を欠いている。

「あっ……ああああああ……!?」

「――鉱石ラジオって聞いた事ない?」

「ああああああああああああああああッッ!?!?」

「一番最初にハンマーで打ったときにね。奥に、銀歯を増やしておいたんだよ――」

「ぐううううああああああああああああああっ!?」

 ハマシマ・ヨシキは今、自身の奥歯から、ラジオの電波を受信している。

 ちょっと繊細な調整が必要だったけど――銀歯がアンテナの働きをし、彼は音声を聞いているのだ。

 身体そのものが、ラジオ。

 いま、その音が彼を混乱させている。

「く……くそっがあああああああああ!!」

 彼はフラフラと立ち上がる。壁を蹴り、今度は跳び蹴りを放ってきた。

 しかし。

 私は右へ飛び、そのまま柱の陰に隠れた。

 勢いのまま、柱に手をかけ支点とし、回りこむようにして飛び越え、上から出る。

 それだけで、彼の背後を取ることができた。

 彼は、私の姿を探して、まったく見当違いの方向へと向かって立ち尽くしていた。こっちに背中をさらしている。

「!? どこにっ……」

「……まだ音から情報を拾おうとしている」

 私はハンマーをしまった。

 そして腰を落とし――息を吐く。

「ッ!?」

「勝負あり」

 彼が振り向いたその動きは、やけにゆっくりと見えた。

 私は、その顔に――

 渾身の力で、手のひらを叩きつけた。

「――肉球掌底ッッ!!」

「っ……かっ……ああああああッッ!!」

 彼はそのまま――柱を壊し、砕き、そのままぶっ飛んでいく。

「ぐううううおおおおおおおおおおああああああああッッ!!!?!?」

 私は勢いのままに、残心をした。――剣道で相手を打った後にそのまま通り抜けていき、敵を向くアレだ。

「ふん」 

 ぱんぱん、と手を叩いてホコリを払う。

 彼は柱をなぎ倒し、軌道を描いて吹き飛んでいたようである。

 ハマシマ・ヨシキがその奥で、完全にのびていた。

 顔面には、どでかい肉球のあとがある。

「――ラジオで落語でも聞くといい」

「ぐっ……ご……」

「これで、セレネローザさんに手を出すのは、諦めな。私が立ちはだかるんだから、無理だよ」

「俺……は……」

 がくり。

「活……躍、を……」

 彼の顔が下を向いた。

 ……。

 終わった。

 倒した。

 見たところ、彼は満身創痍だった。痙攣はしているし、かと思えばぴくりとも動かなくなる。

 ……。ていうか、私のこの身体の筋力を直接受けたら、やばいんじゃないのか?

 敵のことながら、私は心配になった。

「……ラジオ。か」

 私自身が建てたものだけど、どんなのが流れているんだろう? それはわからなかった。

 ハンマーを取り出して、自分自身の頭を、ぽこっと叩いた。

 奥歯に銀歯を作りだし、同じ放送を聞いてみる。

 ラジオが聞こえてきた。

『今日は千葉県の「処刑用BGMの流され役」さんからのおたよりです――考えたオヤジギャグをラジオで全国に発表したくなりました。それでは聞いてください、――』

 内容は割愛する。

 文化はいつも通り自由だった。

 安直な性表現やシモネタの類いが、誰にもはばかることなく電波で世に放たれるさまを、私は聞いた。

 おたよりは採用されると、1万円相当のお礼があるという。

「お金はおっかねー」

 私はうめいた。

 すぐにまた自分に『改築』を施して、銀歯を元に戻した。

 もう聞かん。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます! この下部にある「☆☆☆☆☆」のマークにて、評価をいただけると幸いです。

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