バーサス
『なんと……荘厳な』
ハンマーのほうは素直な感想を言っている。
「これを見れば、私の意図も、向こうには伝わるよ」
『それはつまり?』
「――受けて立つ。打ち負かしてやるってこと」
『! 闘技場か! ……って石の造形だけでこの豪華さを演出した建物なのかこれ! 凄すぎるだろ!? 均整の上に華美さが現れるのってそうそうないぞ!! これは難しいことで……おっと黙る』
私は石のアーチの下へと入っていった。
中は、外よりもなおさらに暗い。
そこを抜けていくと、アリーナの舞台があった。
うちの世界にあるオリジナルのコロッセオだと、少し前までは地上舞台に立つと地下の構造が丸見えだった。が、今あるここの地上舞台は、イタリア政府によって修復された床である。私はその広大な中央に立った。
あたりは、風の音がうなっている。
晴れはじめた雲のあいまから、月が見えた。
私は、左の腰に、ツノで作ったあの剣を確かめる。
何に使えるかはわからない……。
でも、なんだか、これが鍵になる気がする。
私は、ハンマーを掲げて叫んだ。
「とっととやるぞ! ハマシマ・ヨシキ!」
瞬間。
ごうっ、と風の音が止んだ。――それは左でだけ起こった。
ハマシマ・ヨシキの膝蹴りが私の頭に迫っていた。
「――もうやってる」
「っ!!」
私は吹き飛ばされた。
「……っくおおおおッ!」
勢いのままに側転をし、地を滑りながら踏みとどまった。
ロケットランチャーでさえ無傷だった私なのに――わずかに痛みがある。
(あれ。……効いてるの? 私に)
「驚いているようだな」
「――! 何をしたっ!?」
「俺は『鉄人』だ――ゼテア=ヌンの国教で『実際にレベルアップができる転生者』を言う」
ハマシマ・ヨシキは迷彩柄の布の上に、肩や心臓を覆うくらいの軽装鎧。胸には『自助』。黒いサングラスは溶接のために使うもののよう。
見慣れない武器を手にしていた。
それは、マイナスのドライバーのような刺突武器だった。しかし彼の握る把手よりも手前の部分が、不釣り合いに大きな球体をしている。
「俺のレベルは42――筋力や敏捷にステータスを振った。あのセレネローザを殺した時に、レベルは49となった。それが今は、元に戻ったんだが――何をした? お前」
蘇生のことだな。
「あんたたちの一番嫌がる事を、やったよ」
「そうか」
「――私が胸を張れることを、ちょっとね」
イタリアの世界遺産って多そうだし保全も大変そう




