ダイレクトメッセージ
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私は彼と別れた。
今になって、医療機器を武器にしたことが罪深い気がしてきた。こういうのって、人を助けるために使うものである。
結局はセレネローザさんを助けるために使ったのだ……と自分を納得させた。
ああ、業。
『ハマシマ・ヨシキ……』
ハンマーがつぶやく。
『狡猾だぞ。彼女を欺いて殺したからには』
「必ず倒さないと」
私は考えた。というのも、このままこの道を行くことについて、である。
問題の敵、ハマシマ・ヨシキとすれ違いになったり、しないか?
見たところ、道は今進んでいるここ、一本だ。
日本、特に都市部にいると、そのような感覚がどのくらいあるかわからないが――森の道とは、外れて抜けられるようなものではない。整備された道を外れるのは自殺行為だ。こういう場所には、木の根もあるし岩も斜面もある。しかも野生動物のなわばりに入りかねない。自然にできた獣道など、道に含めてはいけない。
このまま行くと、必ずぶつかるだろう。
「この先の土地はどうなってるの?」
『ひらけた土地がある。すぐ着く。あれだ』
小高い丘があった。
高くなるにつれて、草も木もだんだんと姿を消していく、痩せた荒れ地がぽっこりと高いところにある。
――瘴気、というべき空気を感じる。
といっても、嗅覚上でなにかにおいを感じるわけじゃない。
喩えるなら、高濃度の二酸化炭素のよう――普通なら身の回りにあるし、吸っては吐いている。けれども、濃くなったならば無臭の劇毒と化す。
しかし今回のこれは、この土地の多めの降雨や風でも、なお消えない。
登るにつれて、それはだんだんと濃くなってくる。
なんとなく、その瘴気こそが、このあたりを枯らした原因なのではないかと思った。
きっと、そうなのだ。
これに関しては感覚でわかる。カテゴリとしては魔物だったものね、私。そういうものを感じ取る感覚器はあるんだろうか。
身体の中では、とくに翼が、それらを感じ取っているようである。
なんか禍々しい空気、毒のありそうな空気、って感じか? 空気中の性質として、上へ上がる性質があるんだろう。翼、つまり風を受ける部分に感覚があるのは、ある意味、理にかなっている。
私は、丘の頂上に立った。
「こっちから、誘ってやる。とっとと終わらせよう」
家が待っているのだ。
仕事は、定時で帰るべし。
「やっぱ決闘なら、これを建てるべきだよね」
私は、ハンマーを構えた。
うちの会社は、ローマ帝国とその軍団にあやかって社名を付けたという。
私でも知っている歴史上の大帝国だ。
今でも残る偉大な建築物を多く建て、西洋文明にあまりに大きな影響をおよぼした、ある種の母胎。その兵士らは、平時には工兵として建設にも励んだ。戦では防備を築きあげ、橋も建てて川を渡り、進軍した。
彼らの帝国には、ある決闘場があった。
「――導きの星は私だ!」
大地を打ちつけた。
稲光の輝きがほとばしる。
「だから来い、私の敵!」
土が盛り上がり、古い地層から岩塊が削りだされる。
形を整え、地響きを立てて浮上する。
そして、それは建った。
建った当時、西暦80年の姿ではなく現代の姿で、そこにある。
途中までが袈裟斬りにされたような外観の全体をしている、三階層に及ぶアーチの巨大な連続。
時を経て削られた岩の、荒く削れた表面を晒している。
フラウィウス円形闘技場――
――またの名を、コロッセオ。
剣闘士試合で数多くの戦士と猛獣が戦って死に、そしてたくさんの市民がそれを見た。
血なまぐさい歴史があった場所だ。
一階層めのアーチはドーリア式という、ギリシャ建築由来のシンプルな柱をしている。
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ある意味転生者同士でのみ通じるメタ表現




