すこしおちつこう
後ろから、執事が追いかけてきた。
手に何かを持っている……。
「これはいったい? 敵に会ってないよね?」
「いましたが、このあたりで見えた竜巻から逃れようとして、木にしがみついて絶叫していました。隠れる気はなかったようですな。……それも結局はあれに巻きこまれて……」
「で、何を持ってきたの……?」
「削りだした、二本目の柄でございます。念のために武器を、と思い、すぐに削りあげました」
「あっ! あの角の!」
「こちらの柄、作業途中に偶然なのですが……」
彼は言いにくそうに口をもごもご動かした。
「触れたところ、刃が現れました」
「刃が?」
私はあっけにとられたけれど……。
すぐに、それがなぜかの考えは浮かぶ。
……さすがに私も慣れてきた、ってことかな。
きっと、その現象――『神秘の材料』だろう。
肉体の傷を修復できたのなら、角で作った柄も、刃が補われた……とか?
ええー……。
仮説どころか思いつき程度だけど……なんだか、ありうる気はする。
「はい。光輝く不思議なものでした。それでうっかりと、手を切ってしまいました」
「傷は?」
「それが何事もなかったのです。こちらが、作業中に切った指です」
私は彼の指を見た。
綺麗だった。
傷は本当に、まったくない。
「……?」
「……奇っ怪なことです。この世界はこんなことばかりですな……。これはおそらく、実態のない刃、なのかと」
私は言葉を吞みこんだ。
な、なんだそれは……ってツッコミだ。
切ることのできない刃だって?
それは果たして武器なのか?
「しかし――切ったときに、なのですが」
「?」
「私の中に、なにか、情報が流れこんでくる感覚がありました」
「え。……どういう感覚なんだろう、それ……」
「私どもは機械です。単純に、私どもに読み取れない情報だったのかも――しかし」
「しかし?」
「唯一、読み取ることのできた情報がありました」
「それは一体?」
「私の中央の処理部の中で――『クソラノベ最高』という、声が」
雨はざあざあ降っている。
今はもう夜らしい。
彼は真面目に言っているみたいだった。
えっと……その……。
あの……はい。
反応に困る。
「セレネローザ様も首をかしげておりましたね……。また、彼女からの伝言です」
(……もうダンスは終わっただろうか……)
「彼女によれば、敵はまだいる、とも」
「む。正直、そうだと思ってた」
敵はセレネローザさんが街(文明圏?)から出てきた段階で、すぐ兵士を集めた。
ちょっと早すぎる。
だから、彼女の動向を調べていた者と、兵士のまとめ役が、別々にいる。
さっき倒したのは後者。
一方で、前者――こちらの仕事は彼女のそばにいる必要がある。
きっと、彼女を一度、隙を突いて殺した者だ。
知り合いの可能性は高い。
「彼女によると――その名前は、ハマシマ・ヨシキ」
「! 転生者、か」
「さようでございます」
私は振り返って、そびえる城を見た。
「ありがとう。城に戻って。彼女を守って」
「了解いたしました」
「このMRI、修理できると思う?」
「……。残念ながら処分しかありません……そのヘコみ方では」
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