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医療事故

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『いったいこんなところにどんな武器があるのだ』

「変わった武器だよ」

 ――15分ほど経過。

 急いでいるので全力疾走、最短距離でそれを見つけだした。

 私のよく通った施設なので内部設計は頭に入っている。エレベーターに電気を流して稼働させ、地下2階にてそれを見つけだした。

 リノリウムの白い廊下は、暗い中だと怖い。ホラー映画の雰囲気がある。

 高齢者人口の多い日本らしい、あちこちある椅子や、張り紙に「二回流してください」とあるトイレなどは、こんなに急いでいなければ懐かしく思えるだろうか……。

 少しだけ、私の予想は外れた。

 見つけだしたMRIの重量は6.9トンほどだったのである。

 機材運び込み用のエレベーターを稼働させ、私は地上階へとそれを運んでいった。

『マジか……』

 と、ふとハンマーがぽつりと漏らした。

『ま、マジかよおおおお……!』

 それ以降、一言も喋らない。

 私は、その巨大な、無機質で不気味な機械を引いていく。

 ――これでいい。

 私は外の扉を出ると、シャッターが後ろで自動で閉まった。

 再び、雨の空のもとへ。

「病院に、また力を借りることになる」

 私は森へと歩きだす。

 段を下る時、その重みが、引く私の腕を襲う。

 筋肉がみしり、と痛みを伝えている。

 木の根があちこちあって、それを踏み越えるときにも同様の痛みがあった。

「私ね――」

 ハンマーがびくっ、と震えた。

「――前世でも、クマを倒したんだ。フルチン犬神家は、その時が最初」

『……。……なんの話?』

 木々の入り口にさしかかるとき、横からいくつかの矢が放たれた。

 戦いの素人なのでほとんど全てが当たったが、やはり貫かれることはない。発砲もなかった。

 敵は黙ったままだった。

 なんの音も声もない。

 どこかでまた雷が落ちるのを聞きながら、私は森の木々の間へと、入っていく。

 敵がいる方向へ。

「待てっ!!」

 行く手から、革の鎧に身を包んだ男がやってくる。

「な――なんだ? それはっ……!! おまっ……」

「なんだっていいでしょう」

「っ……」

「それよりも。敵だよね?」

 その男の腰は引けていた。

 短刀と盾を構えており、黒い布で全身を覆った上に、革と金属の鎧。

「私を倒さないと、そっちの目的って達成できないんでしょう? 彼女の遺体を確認したいんだよね」

「ッ……」

 ――残念だねえ――。

 私の充電は、満タンだった。

 病院には非常用電源があった。

 私の能力は、擬似的な永久機関さえも、成立させている。

 ――「当然、非常用の備えがある」建築物を建て、その電力をもらい、その解体をすれば、ただ利益を得ることができた。

 敵が、私に勝てる見込みはまったくない。

 しかし。

 それは、私が邪悪な弱者に情けをかける理由にはならない。

「あの人を殺すために、兵士をかき集めたんだろうね――今は、よってたかって集まれば、目的の達成くらいはできるんじゃないかと思っている。一人だけでも森を抜け、あの城にたどり着ければ、と」

「――っ!!」

「じゃあ私。暴れるね」

「ほっ……ほざけええええッッ!!」

 私はMRIを担ぎあげた。

 全身に電力をみなぎらせ、筋肉の異常稼働を引き起こす。

 ブチブチと引きちぎれる全身を、折れ砕ける骨を、電力で修復する。

 痛い。

 しかし痛いだけのことだ。

 誰かが何かを投げつけてきた。原始的な爆弾のようで、モンゴル――蒙古襲来のときの「てつはう」を彷彿とさせる。雨の中で、それは爆発もなにもしなかった。敵のやばれかばれさがわかる。統率のなってない傭兵とはこんなもの。

 雑魚が。

 何名かの兵士たちが雄叫びをあげ、私に飛びかかってくる。手にはやはり短刀。

「ふんっ……ぬううううう!」

 私はMRIを振るった。

 近寄ってきた奴らがなぎ倒され、宙を舞った。

 視界の端で、誰かが木々を抜けていこうとするのが見えた。

「うううううううううおおおおおっっ……!!」

 私の振るうMRIに電力がみなぎった。

 中で稼働する電磁石が、周辺に作用する。

 金属を身につけた者たちを、例外なく、吸引していく。

 回転は増し、誰かが木に打ち付けられ、また別の誰かが恐怖の声を上げた。

「オラアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「う……うわああああああああっ!!」

「引きよせ……らっ……!?」

「あああああああああっ!?」

 回転がはじまった。

 私はコマのように回る。

 加速する。加速する。加速する。

 なにかが爆発し、しかしその破片は渦の中に加わって、吸引されてくるゼテア=ヌンの傭兵たちを切り裂いた。

 誰かがぶっ飛ばされて、空へと消えていく。

 そしてそのそばから、新たな獲物が引きつけられ、吹き飛ばされ、また舞って、吹き飛ばしていく。

 回転はあたりの全てを巻き込み、吸引し――

「大車輪――黒渦<ブラックホール>ッッ!!!!」

「「「ぎゃあああああああああああああああッッアアアアアアア!?!?!?」」」

 阿鼻叫喚があたりを満たした。

 粗悪な銃がどこかでまた爆発し、雷がとどろき、逃れようとした兵士が宙へぶっ飛びきりきり舞いし、それが何度も続いた。

 回転。回転。回転回転回転回転回転。

 私はその武器の重みを全身でおさえつけ、破裂しかけた心臓に電力をたぎらせながら、かつての会社のことを思った。

 三田羅馬サンダーローマ建設のみんな――こんな私を頼ってくれた。

(――ブラックだったけれど)

 金属を身につけていないらしい、ごく軽装の兵士がなんとか渦から離れようとした。

 動けるのはたいしたものだ。

 が、しかし、飛んできた他の仲間にぶつかって、やはり回転に巻きこまれた。

 そしてMRIに激突され、空の彼方へと跳ねとばされる。

(――今となっては、みんなが恋しいよ――)

 私は感極まって、社歌を歌いあげた。

 私の心臓が実際に爆発した感覚があったが、電気ですぐに治した。

 渦は止まらなかった。

 竜巻と化して、何十名もの戦士を叩き潰していった。

 私のまわりで空気が圧縮され、プラズマ状態と化し、異常な熱と放電が中で荒れ狂う。

 私は災厄となった。

「「「「ぐほおおおあああああああああああああああッッ!!?!?!?」」」」


 三田羅馬建設 社歌

 

 ローマ ローマ 我らがローマ

 汗水たらし 建てるのは

 我らが大地の 明日のため

 自然はねのけ とこしえの

 つよき世界を つくるため

 建てよ 未来を 希望の国を

 

 ローマ ローマ 我らがローマ

 その日のみの ためならず

 歴史に残す 大偉業<モニュメント>

 悪意のりこえ 崇高の

 つよき世界を つくるため

 建てよ 未来を 希望の国を


 私は声をあげて歌った。

「会いたいよおおおおおおおおッッ!! みんなああああああああああッッ!!」

 私は涙を流す。

 竜巻となった私はあたりを破壊しつくし、そして、ゆっくりと速度を落としていった。

 吹き飛んだ男たちが次々と木々のあいだに落ちていく。

 ガクガクと痙攣して倒れる者、土にほぼ埋まった者、木々の枝にひっかかって垂れ下がる者などさまざまだった。

 私はMRIを地に降ろす。

 ドズンッ、という少しの揺れとともに、土がそこだけ盛り上がった。

「私は――ちっぽけな人間ですッッ!!」

 くずおれて泣いた。

 這いつくばって、地面をドンドンと打ちつづける。

 そして地面に頭を押しつけた。

「生きているだけで罪深いんだあっっ!! うあああああああっっ!!」

『……』

「私はッ……私はああああああッ……!!」

『誰か、俺を助けてください』

「うっ、ぐすっ……ひっぐ……」

 私は涙を拭った。

 立たねば。

 歩かねば。

「……。私……人間じゃなかった……」

 身体全身の修復を試みる。

 電力を回せばいい。

 筋肉も骨もやっぱりボキボキのボロボロで、なんというか、敵にやられたわけじゃないのに自分で自分を傷つけた感覚のほうが強い。

 電力さえあればいいってものなんだろうか。本当に?

 私は雨の森を歩きだした。

 まわりに倒れた敵たちは、誰も動かない。

 でも、きっとまだ敵がいる。

 私が進もうとしていたのは、前。森のさらに奥だ。

 さっきのはきっと、兵をまとめた役とその部下というところだろう。

 踏んだ土が、雨に濡れて湿っている。

「主人ーーーっ!」

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