壁
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私は城を出た。
セレネローザさんを傷つけた者を許すつもりはない。
向こうにある森は相変わらず暗い。夜みたいな闇に沈んでいる。
暗い空が光ったとたん、森の中にきらりと反射して光るものがあった。
敵だ。
(銃が持ちこまれているなら、狙撃銃はあるかもしれないけれど)
あの反射で、位置がわかる。
凡ミス……。
元の世界では軍などで、このことは注意せよと教えられるはずではないか。
(使い方までは、持ちこめていない。モノだけがある……)
果たして元いた世界ほど、高性能の製品として磨きあげられているのか? という点も……推測ではあるが疑問だ。
おまけに、この雨風。
まったく撃ってこない。
(様子を見ているだけか?)
私は城の入り口の前に立ち、位置を確かめる。
(セレネローザさんの死こそが、奴らの目的なら――この城を狙っている)
ならば。
私はハンマーを振り上げた。
「守るための壁を、建てるっ!」
地に振り下ろすと、土が隆起する。雷光がまた私の周りで輝いて、私めがけて力を注いだ。
(ああ、なんか雷って、シャワー浴びてるみたいに気持ちいい……)
生成される建物が、城への出入り口をふさいでいく。
――奴らは、これで入れない。
しかし、私もまた、退路はないだろう――。
……って。
あれ?
壁を建てたつもりだったが――城に繋がる形で、より大きい建物が建った。
『ユスタ? 建てたこれはなんだ?』
「……なんか、違うものが建った」
『本当に大丈夫か?』
「ま。まだ能力使ったの、三回目だし。こういうこともある」
それは見た目には小さなビルのよう。
近代建築である。古城に隣りあっており、その高さは7階建てくらいある。
城とその建物とが連結した通路が2階の高さにあり、見た目には古めかしい橋となっていた。
目の前には頑丈なシャッターがあったが、横にナンバー入力と指紋認証によるロックを受け付けるパッドがあり、フタで隠されていた。
って、私には見覚えがある。
「これは――病院だ」
『びょ? 怪我人を治すあれか? しかしこんなに大きくなるものか』
「私の通ったところは、そうだったの」
幼少期に、私はやや体調があんまりよくなくて、たびたびこの病院に連れられていったのを覚えている。
入院もしょっちゅう。点滴も受けていたと記憶している。
子供なりに、その厳然としたありかたを察していたし、注射とか薬とかのイヤ~な印象で『壁』の印象はあったような気もする。医者は怖かったし。救急車はしょっちゅう出入りして、戦場みたいになってることもたまにあった。
大人になってみると、『壁』の印象は、逆に心強くなった――人を治すだとか、病気の蔓延を食い止めるだとか、私たちの生活と生命にとっての壁なのだ。
「私の建築の理想だ」
『ほう……そうか。これが』
「そうか。壁か……」
『あの。減築も解体もできるからな。俺の能力は』
「……減築は、したほうがいいね」
セレネローザさんの治療のこともあるし、あって損はない施設だ。
――中の設備で腰を抜かさないといいな、彼女……。
ただ、今のままだとこの建物は、ホテルの景観を阻害する(正直、気にしている時間はないのだが)。
地盤もどれほどの安定性があるか、分からない。
(崩落して城を押しつぶしたりしないように――やるか)
私はハンマーを壁に打ちつける。
と、病院の建物は光って――3階以上の高さが消えた。
これでよし。
城が「主」で、病院が「従」というふうに、整った。病院の、高層ゆえの主張の強さがおとなしくなっている。
外見としては無機質系のビルだが、城の外面を這っていたツタが足下まで来ている。時間がたつとそれが仕上げを加えてくれて、馴染むだろう。
そうだ。
――中の設備を見たい。
城を建てた時と同じなら、この建築物に付随していたモノも、中に現れているはず。
「持っていく武器も、この中にある」
『?』
「ドラゴンの筋力に、限界がなければいいけど……」
今回、持っていく武器。
記憶だと、親方の付き添いで、それを見た事がある。
彼は「ハンマーには重みが必要」と言っていた。なのに病院となると、あれの存在感にはちょっと怖がってたんだから。
一般的な病院のそれは、4.6トンほどだったと記憶している。
2051年までにある程度の軽量化がなされたと聞くが、それでも軽くて2.4トン程度だったんじゃないだろうか。
そう。
――Magnetic Resonance Imaging――MRI装置である。
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